第110話 リーン教会本部へ
初手、回想シーンです。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
コンクリートで造られた大きな建物の外で、2人の男が話している。
「やっぱり塁くんは、うちの店で働く気はないのかい?」
「ええ。どうしても先輩のことを思い出しちゃうので」
そう答えた男が、心底寂しそうな表情を浮かべた。
「……そうだね。君は彼と、とても親しかったからね」
「はい。散々お世話になっていたのに、本当にすみません」
──これは夢だ。
だってあれ、前世の俺だもん。もう1人の男性はバイトしてた飲食店のマネージャーだ。2人とも喪服を着ている。これはたしか告別式の時だったかな?
正社員にならないかって話をもらっていたんだけど、ある先輩の死をきっかけに別の会社へ就職することに決めたのだ。
いつも先輩と一緒に働いた厨房で……先輩だけがいない光景は、俺にはとても耐えられそうになかったから。
「構わないよ。君の人生なのだから。……僕個人としては惜しいけどね」
「ははは……」
乾いた笑いを返す俺。我ながら愛想笑いが下手くそだな。
「まあ、一応言っておくよ。気が変わったら連絡してくれ」
「分かりました。お気遣いありがとうございます」
「いいさ。じゃあ僕はこれで」
そう言い残して、マネージャーの男性は去っていった。残された俺は、最後に告別式が行われた式場を一瞥して呟く。
「先輩。もし生まれ変わったら、またいつか美味い賄い作ってくださいね」
決して、「俺が作ってあげますよ」とは言わないところに"俺っぽさ"を感じるね。
あぁ、そういえば。
──結局、この日は最後まで1度も泣かなかったな。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
チュンチュンと囀る小鳥の声に導かれ、俺の意識はゆっくり覚醒していく。
「う〜ん……。もう朝か」
夢を見ていた気がするが、内容を完全に忘れている。なんかノスタルジックなオーラをそこはかとなく感じるが……。
「ま、いっか。気にしたら負けだ」
思い出せないことをいつまでも考えていたって仕方ない。俺は今日を生きているのだ。未来を見据えようじゃないか。
「差し当たって、今日はリーン教会に行ってみようやってみよう」
今日の予定を頭の中で反芻する。まずはセシリアを迎えに行かなければなるまいて。聖女がいれば、多分教皇にもすぐに会えるだろう。『アポはねーけど……用ならあるぜ!』ってね。
今日も朝からしょうもないことを考えつつ、手早く身支度を整える俺だった。
※ ※ ※
「というわけで、私が来ました!」
連れてきました。エカテリーナさんも誘ったけど、「いいえ、私は遠慮しておきます」とのこと。なんか、本部の人間とはあまり関わり合いになりたくなさそうだった。
「改めて今日はよろしくね、セシリア」
「はいっ! お任せください」
ちなみに、本日教会にお邪魔するのは俺、カトレア、セシリアの3人だけだ。
他のメンバーは驚くことに、教会に行くよりも食べ歩きの方を選択した。うちのパーティー、信仰心無さすぎ問題である。一応、"女神の使徒"がリーダーやってるパーティーのはずなんですがそれは……。
「それじゃ、早速行こうか」
「そうね」
「はいっ」
ここはもう、教会付近の人目につかない路地裏である。さっくりと教会の正面入り口に辿り着くと、早速、聖女の威光を振りかざしていただこう。頼むぜセシリアぁ!
と、思ったら。
「し、使徒様!? ようこそリーン教会本部へ!」
「聖女様もお揃いで! と、尊い! 仰げば尊し!」
「どうぞお通りください!」
えぇ……。
びっくりするほどユートピアだった。なんでだよ。
……う〜ん。これっぽっちも気が進まないが、詳細を知っているであろうセシリアに聞いてみることにする。
「ねぇセシリア。この前、露店でミサンガ買った時も『あれ?』って思ったんだけどさ」
「はい」
「なんで俺、顔バレしてるの?」
明らかに、この場にいる教会の人間全員が俺の顔を知っている。どうやったらそんな芸当が可能なのか。
「…………」
ピラッと、1枚の紙を懐から取り出して、無言のまま手渡してくるセシリア。それを受け取った俺が、どれどれと視線を紙へ落とすと……はたしてそこには。
「Oh……」
麦わらの一味の手配書さながらに、俺の似顔絵が『デーン!』と描かれていた。なぜか薔薇のような植物を咥えてるあたり、描き手さんの悪ノリの痕跡が窺える。
「こういうとこ、マジで大学のサークルのノリなんだよなぁ(偏見)」
「大学やサークルが何かは分からないけど、ルインの言いたいことは何となく伝わったわ」
「賑やかで楽しいですよね!」
俺はこのノリ嫌いじゃないけど、厳粛な式典とかやる時に普段のこの姿を知ってると笑っちゃいそうで困る。ほら、お坊さんの読経中に笑っちゃってる子供みたいな。……いや、それはちょっと違うか。
エカテリーナさんが同行を断ったのも、このノリが苦手だからな気がするなぁ。
と、1人のシスターがこちらへやってきて話しかけてきた。
「教皇様から『使徒が来たらすぐに伝えろ』と言われております。ただいま伝えに行っておりますので、奥の部屋でお待ちいただけますか?」
「え、あ……よろしくね」
「はい。ではこちらへどうぞ」
そう言って歩き出すシスター。
普通にちゃんとした(?)シスターがいて、逆に面食らってしまった。普通にされて戸惑うとか……既にだいぶ毒されてしまっている事実に気づき、軽く凹んだ。
「ほら、ルイン。ボサっとしてないで、早く行きましょう」
「ルインさん、シスターが困ってしまいますよっ」
「あ、ごめんごめん」
おっと、余計なことを考えている場合じゃなかった。慌ててシスターの後をついていく。
もうすぐ俺以外の転生者に会えるのか。教皇……どんな人なんだろうね。
若干オラついてる気配がしないでもなかったから、ちょっとビビってたりする。もしカツアゲとかされたら、聖女を生贄に捧げて転移で逃げよう。
不安と期待が入り混じる中、柄にもなく緊張している俺であった。
次回、王都で"彼"を待つものは
もし少しでも『面白い』『続きが読みたい』と思っていただけたら、
ブックマークと評価を入れていただけますと嬉しいです!
皆様の応援がなによりの力となりますので、よろしくお願いします。




