第109話 仕立て屋キャサリン
なぜか異世界転生モノによく登場する◯◯◯キャラ。
王都2日目。
宿のスタッフに「伯爵家の使いが来ている」との伝言を受けた俺は、手早く身支度を整えてロビーへと向かう。
すると、そこで待っていたのは昨日ぶりとなるグレースだった。
「待たせてごめんね」
「なに、大して待ってない」
軽い挨拶を交わした後は、早速本題へ。
「このまますぐに向かうんだよね?」
「うむ。表に馬車を待たせてあるから、準備が出来ているようなら行こう」
ということで、グレースさんに促されるまま馬車に乗り込む。王都仕様なのか、3割増しくらいで豪華な装いになっているね。やはりナメられたら負けの世界なのかな。
──ガタンゴトン
「そういえば、今日は他の者たちはどうしているのだ?」
馬車が出発してまもなく、グレースさんが話を振ってくる。
「それぞれ王都観光に出かけていったよ。カトレアは、今のうちに実家に顔を出すんだってさ。エルルとローグは、王都の屋台メシを『喰らい尽くす!』って息巻いてたね」
「ふっ。その姿が容易に想像できるな。ビル殿は2人の保護者役か?」
「そういうこと」
実は朝早くに王都の冒険者ギルドに行って、護衛依頼の達成報告は済ませてきたんだよね。で、その後は自由行動にしたのだ。
なお、冒険者ギルドではギルド長が出てくるような、テンプレイベントは特に発生しなかったよ。
多分だけど叙爵後とか、俺が一息つけるタイミングで迂闊に寄ったらイベントが起こるんだろうなぁ。嫌だな〜……怖いな〜……。
「もう屋敷に仕立て屋を呼んであるから、到着次第すぐに採寸出来るぞ」
「昨日の今日で、もう来てくれたの?」
「お抱えだからな。よほどのことがない限り、呼べばいつでも来てもらえるんだ」
「さすが伯爵家」
なんにせよ、俺にとってはありがたい。
何かやらなきゃいけないことが残ってると、なんかモヤモヤしちゃう性格なんだよね。夏休みの宿題とかは最初に全力で終わらせて、心置きなく長期休暇を満喫するタイプなのだ。
ひとつのタスクを早々に消化してしまえるのは正直助かる。
その後もグレースと雑談しているうちに、馬車は伯爵邸へと到着した。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「あら〜! 可愛らしい子ねぇ。食べちゃいたいわぁ」
ガーランド伯爵やセレナとの挨拶に、王都伯爵邸の人間への自己紹介など、到着以降に起こった全ての事象がこの瞬間俺の頭から吹っ飛んだ。
バッチーン! と豪快なウインクをかましてくる、この"筋肉ムキムキのオネエ"によって……。
……最近、俺は甘えていなかっただろうか。冒険者ギルドでテンプレイベントが起こらなかった? なに安心してるんだルイン。お前は今まで一体何を学んできたんだ。
この世界は常に『隙を生じぬ二段構え』でくると思え。仕立て屋って聞いた時点で、このテンプレは予想できたはずだろうが……っ!
──もう油断はしない。
俺は決意を新たに、溢れんばかりの筋肉をパッツンパッツンのゴスロリ服で包み込んだ、このファッションモンスターに向き直った。
「はじめまして、ルインです。本日はよろしくお願いします」
「んもう! 堅苦しいわねん! 敬語なんかいらないわよん! 自然体でいなさい。その方があなたにあった服をイメージしやすいわん」
「じゃあ遠慮なく」
こういう人って、大抵仕事はメチャクチャ出来るから対応に困るんだよなぁ。ただのネタキャラで終わった例を俺は知らない。どうせこの人もくっそ強かったりとかするんだろう。
「アタシの名前はキャサリンよ! キャシーって呼んでねん!」
「うん。よろしくねキャシー」
「それじゃ、早速体の隅々まで測っちゃうわよん」
……そういうとこやぞ。
そして、俺はキャシーによって別室へと連れて行かれたのだった。
※ ※ ※
「け、けつ! けつ触った! おまわりさ〜ん! この人です!」
「偶然が生み出した奇跡的なアクシデンツじゃない。自意識過剰よん」
「ウソダドンドコドーン!」
……
…………
………………
「ち、近い! 近すぎるッピ!」
「ええい! 騒がないでちょうだい! チュウできないでしょうが!」
「正体あらわしたね!」
……
…………
………………
「た、助けて! ガーランド伯爵! セレナ! グレース! 誰かっ、誰かぁーーっ!」
※ ※ ※
「やあルイン君。無事に終わったようだね」
なんとか最後まで貞操を守り切り、真っ白になっている俺にセレナと一緒に部屋に入ってきた伯爵が声をかけてくる。
「"無事"の概念壊れてません?」
「は、ははは……。まあ、後は仕上がりを待つだけだ。ご苦労様。キャシーもね」
「お安い御用よん」
ツヤツヤしているキャシー。よほど楽しかったと見える。付き合わされたこっちはいい迷惑だよ。
「ルイン様。お可哀想に……。一緒にお茶でもして、少しでも癒されていってくださいね」
「セレナ……ありがとうっ!」
度を超えた恐怖から解放された俺は、セレナの深い慈愛の心に触れて『ブワッ』と涙が溢れてしまう。
「よしよし。では、こちらへどうぞ」
「うん……うんっ!」
セレナに手を引かれるがままに大人しく従う。
「お父様。後のことはお願いしますね」
「まあ、今日のところは仕方ないか。行っといで、セレナ」
こうしてやけに嬉しそうにニコニコしているセレナに連れられて、その場を後にする俺。
優しい紅茶の味わいと、上品な甘さのお菓子。そしてセレナの優しさに癒された俺は、なんとかSAN値を回復して伯爵邸を後にすることができたのだった。
もし少しでも『面白い』『続きが読みたい』と思っていただけたら、
ブックマークと評価を入れていただけますと嬉しいです!
皆様の応援がなによりの力となりますので、よろしくお願いします。




