第107話 隙あらば宴会する男
遊びに行くのに転移を使う。誰もが夢見たことがあるのではないでしょうか
本日滞在する町は、ダグラム領の中では大きくはないが小さくもないという至って普通の町だ。
特に特産品のような物もなく、商人や冒険者が大きな街や王都に行くための中継地点として、半ば宿場町みたいな役割を果たしているらしい。
そんな町に到着して早々、転移で呼び戻したガーランド伯爵と共に領主別邸へ向かう俺達。まぁ、自分の領地だしね。そりゃ別邸くらいあるよね。
そこまで無事に送り届けたら、本日のお役目はめでたく終了となる。
"アルゴスアイズ"も招待を受けはしたものの、丁重にお断りした。
別邸とはいえ、冒険者が貴族の屋敷に泊まるのは気が休まらないからね。名残惜しそうなセレナの顔に後ろ髪を引かれながらも、宿をとって早々に休むことにする。
………………訳がなかった。
『かんぱーい!』
──ガツン!
「あのルインが婚約かぁ! ついこないだまで、こ〜んな! こ〜んなに小っさかったのによぉ!」
「婚約おめでとうルイン! 幸せになるのよ!」
「ホッホッホ! 結婚式の日は、『祝福の雨』を降らせてやろう! 【ミソロジーレイン】! な〜んちゃってのぅ! ホッホッホ!」
初手から"フェザーテイル"が絶好調である。
とばしてんなぁ……。いつもの5割増しでテンションが高い。もはやどこから突っ込めばいいか、皆目見当もつかないぜ。
ご覧の通り、ヴォルクスの『渡り鳥の止まり木』の食堂で宴会が催されていた。もはや転移を使ってやりたい放題やっている。
最近ルインは宴会し過ぎじゃない? と言われそうだが、今日はめでたい日だからね。こまけぇこたぁいいんだよ!
うちの家族も呼ぼうかなと一瞬だけ思ったけど、今回は見送った。
いくら忙しすぎてしょうがなかったとはいえ、ウィル兄さんのお祝いもまだしてないので、少し気まずいからね。←宿で1週間だらけてた男
盛り上がる面々を眺めていると、隣にいるカトレアが声をかけてきた。
「……いいのかしらね。あとでセレナ様にバレたらスネちゃわないかしら?」
「流石にこれは伯爵も許さないだろうしね。セレナには今度、改めて機会を設けるよ」
「そうね。そうしなさい」
他のテーブルを見てみると、"レイブン"に"リーナの福音"、リアラさんまでいる。いやいや、なんでいるんだよ。
そんな俺の心の声が聞こえたかのように、ヒエイとビアンカがこちらへとやってきた。
「ようルイン! 折角のめでたい日だからって、アルに呼ばれてきたぜ」
「冒険者ギルドで、大声で喧伝してたよ! あ、婚約おめでと〜!」
「やっぱアルかよ!」
過ちを繰り返す男アルが、いつの間にかまたやってたわ。俺達が居ない間に、ターシャさんにでも聞いたのかな。
「残念だ。アンタになら、エルルを任せても良かったのにねぇ」
リアラさんまでこっちに来た。ちなみにその娘さんは、あっちでビルに肩車しようとして、ターシャさんにガチギレされている。保護者ここにいるのに……。
「エルルは、ちょっとないですね」
「あぁ!? アタイの娘に不満でもあるのかい?」
母親に直接言うのは少し躊躇ってしまうが、キッパリと言う。リアラさんの怒りゲージが上昇中だが、これを聞いたら納得してもらえよう。
「だって、ゴルドフの娘だし……」
俺は死んでも奴をお義父さんと呼びたくないのだ。
「…………」
無言になって、穏やかな笑みを湛えたリアラさんは、俺の肩をポンポンと軽く叩いて去っていった。いや、なんか言ってよ。
と、そこでヒエイから質問が。
「あれ、それでその婚約者の1人は?」
「ひと段落するまでは、給仕を手伝うって言ってたけど」
「ソフィちゃんだっけ。あそこあそこ」
どうやらビアンカがソフィを発見したようだ。ちょこまかと慣れた様子で給仕する姿はとても可愛らしい。
こちらの視線に気付くと、ニッコリ笑顔を返してくれた。こっちも手を振っておく。
「青春だね〜」
「今、少し羨ましくなっちゃったよ!」
ニヤニヤしながらなんか言ってら。
「はいはい」
この2人を適当にあしらっていると、後方腕組み保護者面をしているカトレアの姿が視界の隅に映った。なんか仲人のおばちゃんみたいだな。放っておこう。
「誰が仲人のおばちゃんよ!」
しかしまわりこまれてしまった。
毎度毎度思っただけで怒られるのは、いくらなんでも理不尽すぎんか?
……
‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
カトレアに、口にも出していないことで謎のお叱りを受けていると、やがてソフィが合流してきた。
「ルイン君、カトレア」
「ソフィ、お疲れ様」
「ふふっ。頑張ってたわね」
ソフィを交えて改めて乾杯し、3人での雑談タイムに突入する。
「それにしても、本当に良かったわねソフィ」
「うん! ありがとうカトレア!」
いきなり俺が捕りづらい球を投げてくるの、やめてくれない? ちゃんと優しく会話のキャッチボールしようよ。
「どこかのおバカが(チラッ)、あちこちで女の子と仲良くするから(チラッチラッ)ソフィがどれだけ気を揉んだことか(ガン見)」
「陰湿すぎるだろ! いっそ直接言えって!」
やり方がえげつない。持続ダメージを与えてくるんじゃないよ。
「えへへっ。でも、ルイン君が『女たらし』だっていうのは、最初から分かってたことだから」
「言い方ァ!」
ソフィに悪気は無いんだろうけど、俺が最低野郎に聞こえるので、勘弁してほしい。
助けを求めて周囲をキョロキョロすると、近くのテーブルで"フェザーテイル"がベロンベロンに酔っ払ってた。
「こ〜んな、こ〜〜んなに、小さかったのになぁ……」
「うふふっ! 短剣あげた時のルインの顔が、また可愛くてねぇ! ……アル! ガルフも! 聞いてるのかしら!?」
「ルイン坊はわしが育てた……」
駄目だこいつら……早くなんとかしないと。
カオスになりつつある状況に辟易しつつ、チラッと横を見る。ソフィと目が合うと、やはりニコッと笑顔を返してくれた。
うん。こんなに幸せそうなソフィも見ることができたし「まぁいいか」と思う俺なのだった。
セレナ「ルイン様は今頃ヴォルクスに帰って遊んでいるんだろうなぁ」
グレース「分かりやすい男で草」
「いつになったら王都着くんだよ!」と思ったあなた。
次回、早々に着きますのでご安心ください。




