第105話 大胆な婚約は女の子の特権
もう逃げられないゾ
「いえ、深く考えたことはないですね」
正直に……素直に話すと、このまま大きくなればもしかしてソフィと付き合ったりするのかなぁ、なんてぼんやりと思ったことはあるけど。
……ただなぁ、まだお互い子供だしね。そういう話は、せめてあと2年か3年くらい経ってからだと思ってた。
「これから多分、君の元には婚約の打診なんかは殺到すると思うよ。女神の使徒だからね。君との婚姻は、リーン教会との太いパイプが約束されたようなものだ」
俺も最近知ったのだが、リーン教会はただの宗教団体に収まらない規模で色々な分野に手を出している。それも世界中で。よくもまぁ商業ギルドと利権関係で喧嘩にならないなと思ったものだ。なんか談合があったりするのかな。
ともかくそういう意味で、権力者から見たら俺は鴨ネギなのかもしれないね。
「もちろん、私にもそういう打算がないとは言わないさ。だが、それを踏まえた上であえて言おう。特に心に決めた相手がいないのなら、うちのセレナはどうだろうか。父親としては正直複雑な気持ちだが、ルイン君なら私も許せる」
「お、お父様……っ!」
セレナ様が感極まっている。いつかこうなる気はしてたけど、話が急すぎる。いろは坂のカーブくらい急である。
とはいえ伯爵家から逃れられる気はしないし、セレナ様が相手なら全く文句などあろうはずもない。でもそう考えた時に、なぜかソフィの寂しそうな顔が頭の中をチラついてしまう。
……いや、『なぜか』じゃないな。あれだけ好意を寄せられておいて、今さらとぼけるなよ俺。
──なら、俺の答えは。
「俺には、もう1人幸せにしたい子がいます」
そう言うと、ガーランド伯爵はクソデカため息をついてからセレナ様を見る。セレナ様はその視線を受けて、意を決したように口を開いた。
「ルイン様が泊まっている宿屋のソフィさん、ですよね?」
「はい」
…………ん? なんで知ってんの? 会ったことないよね?
「ほんの少しだけルイン様の身の回りのことを調べた際に、小耳に挟みまして」
「えぇ……」
この子、思ったよりヤバい子である可能性が、潜水艦みたいな勢いで急浮上してきたんだけど。
「ルイン様が貴族になるのなら、妻が2人でも問題ありませんよ。むしろ、貴族ならそれが普通です。当然、私も構いません! ですから、結婚しましょう!」
某海賊の「うるせェ! いこう!」(どんっ!!)みたいな勢いで求婚された。なんて漢らしいんだ……。きゅんです。
「セレナ様は、本当に俺が相手で構いませんか?」
そう言うと、セレナ様は何度もコクコクと頷いた。その瞳は歓喜の色を湛えている。よし! 覚悟は決まったぜ。
「なら、こんなふざけてばかりの男ですが、これから末長くよろしくお願いします」
「……はいっ!」
今まで見た中で、一番魅力的な笑顔だった。
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「うん。話は分かったわ」
ここは『渡り鳥の止まり木』のソフィの部屋である。ここには現在俺とソフィ、セレナ(婚約者になったので敬語はやめてくださいと言われた)にグレース(主人を差し置いて私にさん付けはおかしいと言われた)の4人がいる。
あの後、こういうことは早い方がいいと言われて、馬を休ませている間にヴォルクスに転移で戻らされた。その際、なにか誤解しているカトレアが見たことのない顔で俺を睨んできて、軽くトラウマである。
そして紆余曲折を経て、たった今ソフィに事情説明を終えたところだ。
「つ、つまりルイン君は、私をお、お、お……お嫁さんにしたいってことなのっ!?」
「うん。したい。成人したら結婚してほしい」
──ボフッ!
「お、お嫁さんが2人っていうのは、ちょっとだけ複雑だけど……でも、嬉しいわ! ふ、ふつつか者ですが、よろしくおねがしますっ!」
思いの外、あっさり受け入れてくれたソフィ。やはり世界が違うと結婚観も違うのかもしれない。
このあとターシャさんと親父さんのとこにもご挨拶に行かないとなぁ。と考えていると、セレナとソフィが早速キャッキャと交流していた。
「よろしくお願いしますね。ソフィさん」
「こ、こちらこそよろしくお願いしますっ! セレナ様!」
「同じ婚約者なんですから、セレナと呼び捨てで構いませんよ」
「う、うん。よろしくね。セ、セレナ……!」
うんうん。ひとまず険悪な感じはなさそうで良かった。と、俺の隣で疲れた顔をしているグレースが気になったので声を掛ける。
「グレース、どうしたの?」
「いや、な。……はぁ。ルイン殿が絡むと、事が一気に加速し過ぎると思ってな」
「というと?」
「今日1日で、ここまで話が進むとは思っていなかったのだ。というか、この話は何年もかけてじっくり進展していくと思っていたのだ」
……待ってほしい。今回は俺じゃない。ガーランド伯爵だ。何でも俺のせいにする風潮はよくないぞ。そして。
「グレースの次のセリフは『これだから女神の使徒は……』だな」
「これだから女神の使徒は……ハッ!」
……ほんとに言いおった。
※ ※ ※
「まあ、ルインならあたしゃ特に文句はないよ。旦那もないだろうよ」
「お母さん! ありがとう!」
なんかターシャさんからの信頼が厚いんだけど、そんなに信用されるようなことしたっけな。親父さんは相変わらず姿すら見せないし。声しか聞いたことないんだけど。
「ターシャさん、これからよろしくお願いしますね」
「お嬢様共々よろしく頼む」
セレナとグレースもペコリと頭を下げる。俺も便乗して下げておく。
「まさかウチの娘が、領主様のとこの御息女と同じ男に嫁ぐとはね……。ま、すぐに結婚って話じゃないし、ゆっくりやりな。ルインも甲斐性見せるんだよ」
「イエス、マム」
言った瞬間にギヌロッ! と睨まれた。
「……そういうとこだよ」
「すいません、許してください。何でもしますから」
「ん?」
とまあ、そんな感じで話はまとまった。
なんか一気に婚約者ができてしまったが、ターシャさんの言う通りすぐにどうこうって話じゃないからね。ゆっくり俺たちのペースでやっていこう。
またすぐに会いに来ることを約束して、俺とセレナ、グレースは伯爵一行の元へ転移した。
戻った瞬間、まだ事情を知らないカトレアが"待ちガイル"くらい待ち構えていた。
──わりぃ、おれ死んだ(ニッコリ)。
婚約成立(叙爵後にするとは言ってない)
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