第104話 のんびり道中は馬車に揺られて
のんびり道中(のんびりできるとは言ってない)
まだ朝も早い時間、ヴォルクス西門前の広場にて。
「"アルゴスアイズ"の諸君、王都までの道中よろしく頼むよ」
「はい。お任せください」
伯爵一行と合流し、挨拶の言葉を交わす。なぜか俺ではなくカトレアが応対しているが。
今回の旅路で同道する伯爵家の騎士達を交え(知らない顔もあったが、ワイバーンの時の人達はみんないた)、緊急時の対応など必要なことを手短に確認したら、いよいよ王都へ向けて出発である。
「ルイン様は馬車へどうぞ。色々お話を聞かせてください!」
「やれやれ。カトレア嬢、構わないかね?」
「……ええ。周囲の警戒は私の魔法で出来ますので、問題ありません」
ほんの一瞬だけ、カトレアの目が逆三角形みたいになって睨みつけられた。え、なんで?
「ではルイン様! こちらへどうぞ」
腕をグイグイ引っ張られる。なんかこのアクティブさはセシリアに通ずるものがあるな。
その光景を眺めていたグレースさんは微笑ましそうにしているが、ガーランド伯爵からはお小言が飛んでくる。
「ルイン君。流石に我が娘にベタベタと、気安く触りすぎではないかね?」
「うそでしょ!?」
伯爵の目には、"俺"が"セレナ様"に触っているように見えるらしい。いくらなんでも節穴すぎる。病院が来い。
※ ※ ※
そんなこんなで馬車の中へ。さすが伯爵家の馬車だけあって、かなり広いな。セレナ様に引っ張られるまま俺は席に着く。
「よっこいしょういち」
「何ですか? それ」
つい出てしまった言葉に、セレナ様が反応する。そして、質問に答えようとした俺の口が不意に止まった。
(あれ? そもそもこれ何だっけ。言葉は知ってても元ネタが分からん)
困ってしまった俺は、適当に誤魔化すことにする。
「この言葉はですね。神話の時代、天聖界のヘッドであるスーパーゼウスが──」
「ルイン君。セレナに変な事を教えないでもらえるかな。そういう適当な人間を見ると私はね、つい殺っちゃうんだ」
「ランランルー!?」
色んな意味でヤベェ発言が飛び出したので、慌ててその話題を終わらせて、無かった事にする。
この馬車には俺、セレナ様、ガーランド伯爵、グレースさんの4人が乗り込んでいる。全員の準備が整ったところで、馬車がゆっくりと動き出した。
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────ガタンゴトン
馬車に揺られ始めて間もなく。俺はあることに気がついた。
「この馬車、あまり揺れませんね」
そう。思ったよりずっと揺れないのだ。確実にスプリングだかサスペンションやらが仕込まれてる。この世界の人間が自力で考案したのか、もしくは。
「ああ、これ凄いよね。リーン教会の現教皇様が考案されたらしい。なぜか乗り物にはうるさいみたいでね」
「なるほど」
やっぱり。あっちの転生者は知識チートやってんのかい。
いや、伝言を聞いた感じチンピラ口調だったし、手広くはやってなさそう(偏見)。乗り物好きらしいから、そっち関係だけかもね。……前世では暴走族の頭だった、とかはないよね?
「そんなことより、ルイン様。もっと私とお話ししましょう! こうやってゆっくりお話しする機会は、滅多にありませんもの」
セレナ様から『かまってオーラ』が一斉放射されたので、意識をそちらにシフトする。そうだ。どうせ会えば分かることだし、今は置いておこう。
……
…………
………………
雑談に興じることしばらく、話題がシーズ村のことになった。
「先日兄が誕生日を迎えたので、そのうち1度里帰りしようと思ってまして」
「そういえば、ルイン様は4人家族でしたね」
「はい。それで兄へのプレゼントと、できれば着火の魔道具なんかも欲しいんですよね」
かいつまんで俺の事情を説明する。特に母親が深刻な【点火】依存症に陥ってしまっていると言ったら、セレナ様の目がキランと光った。
「なるほど。では、そちらはお近づきの印に私がお贈りいたしますので、今度一緒にシーズ村へ参りましょうか」
「え?」
なんとも気軽に言ってくれるお嬢様である。親御さんの方を見ると、心の葛藤が一目で分かる意味不明な顔をしていた。
「クッ! 転移があるからね。まあいいだろう。ただぁし! 泊まりは絶対に許さないよ。それは"まだ"早い」
「それはもちろん。グレースさんも行きますよね?」
「無論だ。私はお嬢様の護衛騎士だからな」
……その割には、いつもセレナ様から離れて行動してるイメージしかないんですがそれは。
ともあれ、さすがはダグラム家の当主様。父親としての心情を除けばかなり寛容である。保護者から許可をもらったセレナ様はご満悦だ。ニッコニコである。
「ところで、今のうちにルイン君に聞いておきたいんだけど」
ガーランド伯爵が、なんでもない風に話を振ってきた。今度はなんじゃい。
「君も、もうすぐ13歳になるよね? 叙爵もすることだし、そろそろお相手について考えたりはしているのかい?」
「「「!?」」」
手榴弾みたいに軽くポイッと投げ込まれたその言葉に、馬車内の空気が一瞬で凍りついた。
────本当、そういうことを急に言うの、貴族の悪い癖だよ。
伯爵による爆弾投下。次回、急展開に……なるかもしれないし、ならないかもしれないです。
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