第102話 大型種族用の宿『巨人達の巣窟』
磯野を呼びに来る中島くんみたいな。
「さて、次はビルの所だね」
「おー!」
「こっちの方まで来んのは、何気に初めてかもしんねぇぜ」
お気づきの方もいらっしゃるだろうが、エルルがお供に加わった。この後、ビルのところに行くと言ったら「ボクも行くぞ!」と身を乗り出して立候補したのだ。熊さん大好きドワーフっ娘である。
街の中心部から見てさらに外側へ向かっていくと、すぐにそれが目に入った。一発で分かるほどでかい建物だからね。めっちゃ目立ってる。
周りの建物とのサイズ差で距離感が少しバグりそうになりながら、ついにその宿屋『巨人達の巣窟』へと足を踏み入れた。うーん、このネーミングセンスよ。
「こんにちはー」
「いらっしゃい。あら? 人族のお客さんは珍しいわね」
声が聞こえてきたカウンターの方を見ると、そこにはでかい女の人がいた。2m50cm以上はある。巨人族の女性だね。
「ここに泊まってる熊人族のビルに会いにきたんだけど」
「ビルさんに? 失礼だけど、アンタ達は?」
めっちゃ困惑した目で見られてる。そりゃ子供3人がいきなりやってきたら、一体何の用かと思うか。簡単に俺達の立場を説明しよう。
「俺達はビルのパーティーメンバーだよ。"アルゴスアイズ"の仲間だね」
「あーっはっは! バカ言っちゃいけないよ! あははっ! アンタらみたいな可愛らしい子供達が? ふふっ! こりゃ傑作だ! ヒーッ、ヒーッ! 笑いすぎてお腹痛いよ!」
笑いすぎでは?
俺の発言はどうやら傑作だったらしく、巨人族の女性にクリティカルヒットだった。さて、めんどくさいことになってきたぞー。と思った俺の横で、エルルが大きく息を吸い込んだ。あ、これはやばい!
「おーっ! ビルーっ! 遊びに来たぞーっ!!」
間に合った! なんとか両手で耳を塞ぐことに成功した。ローグも間に合ったな。巨人族の女性は……『鼓膜がないなった』ってリアクションしてる。ごめんね。
ややあって。
「こらエルル。宿で大きい声を出したら、他のお客さんに迷惑だろう」
上の階からビルがのっしのっしと降りてきた。鎧を着てないと、ほんとに熊だな。夜道でばったり遭遇したら普通に怖い。
「おーっ! みんなで会いに来たぞ!」
「来たぜ!」
なぜかローグが急に便乗し始めた。さては退屈だったな?
「うん? なんだ珍しいな。どうかしたのか? というか、ヒルダさんは大丈夫か?」
「あ、ありがとさん。ほんとに知り合いだったんだね」
この巨人族の女性、ヒルダさんっていうのか。ビルが手を差し出すと手を取って立ち上がる。……なんか2人共体が大きいから、いちいちスケールがでかく見えるな。
「最初から言うとったやろがい。逆になんであんな爆笑されたのか、コレガワカラナイ」
「あはは……悪かったね」
バツが悪そうに笑うヒルダさん。フォローの為か、ビルが話を進める。
「それで、お前達は結局何しに来たんだ?」
「お、そうだった。王都に行く件で少々話があってね」
──あれがああして、これがこうして、それがそうなって(事情説明中)
「ふむ。事情は理解した。オレもカトレアに同意だな。領主様とコネクションが作れるのは悪くないと思うぞ」
「そういうものかねぇ」
「ルインはなぜか、自然と権力者達に溶け込んでるからな。このあたりの感覚がオレ達とは少し違うのかもしれんな」
これは前世で散々触れてきた異世界モノのおかげ(せい)で、そこまで天上の存在って実感がないからだろうね。……良くも悪くもだが。
「まぁいいや。話はとりあえずそれだけだよ」
「わざわざ足を運んでもらってすまなかったな」
「すまなかったぞ!」
「大した手間じゃないし、いいってことよ」
ちゃっかり肩車状態のエルルとビル。おそろしく速い移行、俺でなきゃ見逃しちゃうね。
この宿は大型の種族用なので、余裕を持った肩車が楽しめるのだ。良かったねエルル。
キャッキャ、ハッハッハ。とお楽しみの2人を邪魔するのも悪いので、俺とローグはここいらでお暇することにする。
「じゃあ俺たちはそろそろ行くね。この後、冒険者ギルドに寄って手続きとかしておくよ」
「む? それも任せてしまうのは申し訳ないのだが……」
「代表者がいればOKだからね。ゾロゾロ行く必要はないって。それじゃ、次に会うのは出発の日になるかな。またね」
「うむ。またな」
「またなー!」
うんうん。エルルとたっぷり遊んであげておくれ。ヒルダさんにも軽く挨拶をして『巨人達の巣窟』を後にした。
通りに出てすぐ、ローグに確認をとる。
「ローグはどうする? 先に『渡り鳥の止まり木』に戻っててもいいよ?」
「水くせーこと言うなよ。ここまで来たら最後まで一緒に行くっての」
ローグが気持ち良いくらいの即答を見せてくれた。まったく、いい奴だぜ。
「それならギルドでの用事が終わったら、帰りにちょっとだけ買い食いしていこうか」
「いいのか!? やったぜ! 何食おっかな〜」
途端に瞳をキラキラさせるローグに、釘を刺しておくことも忘れない。
「いい? ちょっとだけだよ? もし宿の夕飯を残しでもしたら、ターシャさんに肉殺されるからね」
一瞬で瞳から一切の光がなくなった。……想像してしまったのだろう。その場合に訪れるであろうヘルビジョンを。
「気をつけるぜ……」
「決して"やめる"とは言わないあたり、さすがだよ。じゃ、行こっか」
そうして、2人並んで冒険者ギルドへの道を歩き出した。
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