第101話 カトレアさんは裏表のない素敵な人です
一人で怒られるのは嫌だけど、二人なら耐えられるという浅はかな考え
『渡り鳥の止まり木』に帰還後、まずはローグの部屋に行き、装備の点検をしている彼を確保しにかかる。
「なんだよルイン。オイラ今忙しいんだけど」
「まあまあ、そうおっしゃらずに。一緒に行こうよ」
「どこにだよ! その顔は絶対何かに巻き込もうとしてるだろ!」
逃すまいと捕獲を試みるも、小さな体ですばしっこく逃げ回るローグ。暴れんなよ……暴れんなよ。
「王都に行く件で、ちょっとね。ついでに"アルゴスアイズ"に、お仕事をもらってきたからさ。カトレアにも一緒に報告に行こうね」
「お前マジかよ! また勝手に決めてきやがったのか! 怒られるやつじゃねーか!」
チッ、気付いたか。君のような勘のいいガキは嫌いだよ。
「大丈夫だ。今回は怒られる可能性は低いから」
「可能性が低いってのは、つまりゼロじゃないってことじゃねーかよ!」
……君、沖縄で賭け野球とかやってなかった? いや、今はそんなことより病院に連れて行く前の猫のように、狭い部屋の中を逃げ回るローグを大人しくさせねば。
「オイラを巻き込むんじゃねーよ!」
「俺たちズッ友だって約束したじゃん! マラソン大会も一緒に走って、一緒にゴールしようねって約束したじゃん!」
「なんの話だよ!」
……
…………
………………
「知らなかったか? 俺の"眼"からは逃げられない」
「ゼェ……ゼェ……」
なんとか捕獲に成功し、力無くジタバタするローグを小脇に抱えて部屋を後にする。さて、生贄はここに用意したことだし、カトレアの元へ向かおうか。
※ ※ ※
「よくやったわルイン」
「ほえ?」
恐る恐る事の顛末を語り終えた俺にかけられたのは、まさかのお褒めの言葉であった。もしかして、本日はお熱が出ていらっしゃるのでは?
「失礼ね。熱はないわよ。……貴族と縁ができるのは、冒険者を続けていく上で大事なことよ。こういった形で依頼をもらえるのは、願ってもない事だわ」
「ほえええ〜!」
なんとお優しい!
「うん。俺もそう思ったんだよね。きっと美人で優しいカトレアなら、そう考えるんじゃないかってさ」
「……まぁ今回はいいわ」
今日はどこまでも優しいカトレアお姉ちゃんであった。くくくっ、命拾いしたなぁ(俺が)!
「……なあ。オイラもう部屋に戻っていいか?」
「ちょ待てよ。この後ビルとエルルにも伝えに行くんだけど、二人はどうする? もしかしたら今ならリアラさんにサイン貰う時間あるかもよ?」
帰りたがるローグと、優しいカトレアさんに聞いてみる。1人で行くのは寂しいので、ローグ用の餌をぶら下げておくという小細工も忘れない。
「私は明日の準備があるからパスよ」
「オイラは行くぜ! なかなかサイン貰うチャンスが無くて、どうしようかと思ってたんだ」
カトレア不参加のローグは参加と。
「おっけ〜。じゃあ早速行こうか」
「おう!」
「いってらっしゃい」
ということで、まずは鍛冶屋へと出発する俺とローグであった。
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ところ変わって鍛冶屋の軒先。扉の前で一旦ストップし、手で「お先にどうぞ」とローグを促す。こいつはまだ『ゴルドフの洗礼』を受けていないはずだからね。
「ん? オイラが先に行くのか? まあいいけどよ」
そう言って店の扉に手をかけ、そのまま開いて店の中へと入っていった。……それは悪手じゃよ。「挨拶もできんガキは帰れ!」のパターンかな。俺は詳しいんだ。
「おう! らっしゃい! お前さん、初めてか?」
「おう!」
「ふざけんな!」
普通に応対するゴルドフに、つい口を挟んでしまった。いくらなんでも納得できんぞ!
「ん? なんだ小僧。お前さんも来てたのか」
「なんで普通に接客してんだよ! おかしいだろうが!」
「な、なんだ急に」
普通に接客するのは当たり前で、なんらおかしいことはない。どうして俺は常識に対してキレ散らかしているのか。これもうわかんねぇな。
俺が捲し立てている中、ゴルドフが冷静にドン引きしているというカオスな状況に、この家のカーストNo.1の声が響き渡った。
「アタイの教育の賜物だよ。……ほら、ここはアタイが見とくから、アンタはさっさと奥に戻りな」
「う、うむ」
奥からひょこっと現れて、荒ぶる俺を止めたのは……ゴルドフの奥さんでエルルの母ちゃんでAランク冒険者の"剛拳のリアラ"その人であった。今日も強そうだ(小並感)。
現れたと同時に、ゴルドフを奥の鍛冶場へと追いやってしまう。すまん、ゴルドフ。今回、お前との絡みはこれだけのようだ。
「こんにちは、リアラさん。エルルいます?」
「いるよ。おーい! エルル、ちょっと来な!」
わざわざ呼びに行くような真似はせず、その場で叫ぶというストロングスタイルでエルルを召喚するリアラさん。すぐに奥から「ぉーーお!」という声が少しずつ大きくなって聞こえてきた。やがて。
──バァン!
「呼んだか、お母ちゃん! お? ルインにローグ、よく来たな!」
「こんにちはエルル。ちょっと話があってね」
「話? なんだー?」
────かくかくしかじか
「なるほどなー」
「って事だからよろしくね」
「まかせろ!」
今日もエルルは元気いっぱいである。これで残るはビルだけだね。
あれ、そういえばローグはどうしたんだ? 周りを見てみると、リアラさんと何やら談笑してた。エルルと一緒にそっちに行く。
まず目に入ったのは、今まで見たことがないくらいニッコニコのローグの笑顔だった。彼は俺の顔を見るなり、テンション高く言い放つ。
「見てくれよルイン! あの"剛拳のリアラ"のサインだぜ!」
「ふっ」
得意げなリアラさんを前に、俺に背中を向けるローグ。どれどれ、と見てみると。
『ローグくん江 いつも応援ありがとう! リアラ』(拳マーク付き)と服に直接書かれていた。
「…………」
それにしてもこのAランク冒険者、ノリノリである。
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