第100話 そうだ 王都、行こう。
気が付けばもう100話です。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
「え? 伯爵家の騎士が呼んでるって?」
「うん。下で待ってもらってるわ」
王都への出発を明日に控えたお昼頃のことである。部屋でゴロゴロしていると、今日は宿のお手伝いをしているソフィに突然告げられた。
どうやら俺にお客さんが来たようだ。騎士ってことは、十中八九グレースさんだろう。
「帝国の一件の報告は、アル達がしてくれているし……何の用……ん?」
はて? なにかが頭に引っかかった。ルインセンサーが反応した。
伯爵家の騎士。伯爵家の騎士といったらグレースさん。グレースさんといったら護衛騎士。護衛騎士といったら…………セレナ様を守る人。セレナ様……約束……。
───思い……出した!
思わず綴りそうになった俺の顔を見つめる彼女に告げる。
「ちょっと行ってくるね」
「? うん。行ってらっしゃい」
急に悲壮な顔になった俺を不思議がりながらも、笑顔で見送ってくれるソフィ。
絶対に、絶対に俺は生きて帰るんだ……っ!
※ ※ ※
グレースさんは、以前ソフィとお出かけした時にも見かけた、あの無表情で俺を待ち構えていた。
……これはヤバい。激オコスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだ。
少しでも機嫌を良くしようと、悪あがきを始める。
「本日はお日柄──」
「ルイン殿お元気そうで何よりだ帰ってきたと報告を受けてから一切顔を見せる気配がなかったので体調を崩したのではないかとセレナお嬢様共々心配していたのだが全く体調不良などということもなさそうで」
「申し訳ありませんでしたぁ!」
問答無用とは、まさにこの事よ。息継ぎなしで、遠回しなクレームを入れられてしまっては、もう小細工抜きで率直に謝るほかない。ルインカスタマーサポートセンターはこちらです。
すっかり約束を忘れて、1週間もダラダラしていた俺が完全に悪いのだが。うん、何も言い訳できないわ。
「お忙しいルイン殿には誠に申し訳ないのだが、このあとお時間よろしいか? ……これ以上、お嬢様の寂しそうなお顔を見るのは、私とて辛いのだ。ルイン殿がお忙しいのは重々承知なのだが……」
据わった目でそんなことを言われてしまっては、こちらも覚悟を決めるしかない。
「もちろんです。今すぐに行きましょう!」
「助かる。表に馬車を待たせている。ついてきてくれ」
「はっ!」
つい騎士のような返事をしてしまった俺は、馬車に乗って領主館へ向かったのだった。
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「やあルイン君。久しぶりだね。こうしてゆっくり話すのはいつ以来かな」
「お久しぶりです、ガーランド様。ここのところ、ずっとゴタゴタしてましたからね。スタンピード前とかじゃないですか?」
なんと、通されたのは例のガゼボではなく応接室だった。そこで待ち受けていたのはガーランド伯爵、セレナ様、ステイルザードさんの3人と使用人数名である。
そこに俺とグレースさんが加わったところで、先の挨拶だ。
「なにやらセレナと"約束"とやらがあるそうだが、私の方からも話とちょっとした依頼があってね」
"約束"の部分で一瞬目が『クワッ!』としたが、気にしてはいけない。
「話と依頼、ですか?」
「ああ。君に関わることなんだけどね。私達は一度、王都に上がらなくてはいけないんだ」
「俺に関わることといえば……」
思い当たることは1つだ。
「そう。叙爵さ。君、ユニウス殿下に希望まで出したんだって? それも概ね通ったと聞いているよ。殿下にお願い事するとか、まったく君という子は……」
「そうなんですけどね。下手に領地とか与えられて、行動に制限がかかるのもイヤなので、伝えるだけは伝えておかないと」
流石に言っても大丈夫な人か、そうでない人かは見極めてる。……そもそも言わないという選択肢? ないです。
俺はこの世界を自由に楽しみたいのだ(強制イベントばかりな事実からは目を逸らしながら)。領地運営とかはちょっと……。
「とにかく、その叙爵式が一ヶ月後に行われるから、それに合わせて君も王都に行かなければいけないのさ。他の子たちは、金子と勲章の授与だけだからいつでも構わないんだけど、君はこの日にいないとまずい。それで、私が君を王都まで連れて行く役目を仰せつかった」
ここまで聞けば、依頼の内容も分かるというものだ。
「となると、依頼の方は"アルゴスアイズ"に護衛の依頼ですね?」
「そうだ。どうせ一緒に行くのなら、依頼という形にしてしまえば君達の実績にもなる。一石二鳥だろう?」
「お気遣い、ありがとうございます」
ありがたいんだけどなぁ。う〜ん、どうしようかな。……ま、いっか。どうせいつかバレるなら、自分から言っちゃった方が心象が良いだろう。
「伯爵って俺のスキルは当然知ってますよね?」
必ずどこかで調べてるはずだ。
「あぁ。視たスキルや魔法を習得できるのだろう? それが──っ! もしかして、ユニウス殿下の魔法を"視た"のかい?」
「そういうことです」
先に俺たちだけでパパッと王都へ行って、その後に伯爵達を迎えにくるという選択肢も、あるにはあるってことだ。
チラチラと視界に入るセレナ様の瞳が、さっきからずっとキラキラしているのは気のせいだろうか。
あの〜、何か企んでません? グレースさんと違って、怒ってなさそうなのはホッとしたけど……。
「なるほどね。…………うん。ありがたい申し出ではあるが、やはり今回は普通に馬車で行こう。できるだけ、周りに不自然なところは見せたくないしね」
ちょっと鋭い人なら「途中の町とかに寄ってないのに、なんで王都にいるの?」って思うもんね。
「分かりました。出発はいつにしますか?」
「そうだね。余裕を持たせて王都まで2週間を見ておこうか。何かトラブルが起こってもいいようにね」
俺を見てそう言うガーランド伯爵。……やめてよ。今からフラグをコツコツ積み立てにいくのは。
そう考えていると、伯爵の背後に控えるステイルザードさんが口を開いた。
「向こうでルイン殿の正装も仕立てねばなりますまい。お抱えの職人に頼むにしても時間の問題が……」
「そう考えると、すぐにでも出発した方がいいか。ステイル、私がしなければならない仕事は?」
「頑張れば本日中には処理できる量かと」
え、すごいトントン拍子。まるで俺たちの都合に合わせてくれているかのような運命力を感じる。……これはリーン様、やりました?
「なら出発は明日かな。ルイン君、急な話だけど君たちは大丈夫かい?」
「この後確認しますが、おそらく問題ないと思います。ダメそうなら知らせに来ますね」
「よろしく頼むよ」
それにしても、伯爵のフットワークが軽すぎる件。遊びの約束を交わす日本の学生だって、そんなすぐに都合はつかんだろうに。
このあと、パーティーメンバーのみんなに忘れずに伝えておかないとね。流石にこのくらいの事ではカトレアにも怒られないはず。……怒られないよね?
ちょっぴり戦々恐々していると、ここまで黙っていたセレナ様が身を乗り出してきた。
「私も一緒に行きます! ルイン様と旅行に!」
「セレナ? ……うーん」
ガーランド伯爵は少しだけ考えた様子だったが、軽いノリで答えを出す。
「まあ、いいか。ルイン君、何か問題が起こったらセレナをよろしく頼むね」
「了解です」
こうして、セレナ様も来ることに決まった。ちなみにグレースさんは当然同行、ステイルザードさんはお留守番らしい。
「そういえば、セレナはルイン君にお願いがあるんじゃなかったのかい?」
うまく話が終わりそうだったのに、なんてことを言うんだ!
話を振られたセレナ様は、キラキラした瞳のまま満面の笑みでこう答えた。
「叙爵式が終わったら、その時に"必ず"聞いてもらいます」
領主館からの帰り道、ずっとその言葉が頭の中でリフレインしていたのだった。
ちなみに、この世界の暦は大体地球と一緒です。
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