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その転生者はスキルも魔法も【視て盗む】〜異世界転生ものが大好きな男の異世界転生〜  作者: 空茶日
第7章 雪が呼ぶ、いつかお前が還る場所

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第96話 雪が呼ぶ、いつかお前が還る場所


今回はイベント戦闘みたいな感じです


 少し離れた場所で腕を組み、じっと前方を見据えるフリードに声をかける。


「フリード」

「ルインか。君たちにアレを押し付けるような形になってしまって、すまないな」

「それは納得した上のことだから、もういいって。それより……」


 目線を前に向けると、そこには向かい合う皇帝と皇子。父親と息子の姿があった。


「大丈夫なの? あれ」

「殿下たっての希望だ。僕の心情的にもな」


 1体1で決着をつけさせてあげたいのだろう。それは理解できるんだけど……。同じことを思ったのか、アルが会話に割って入る。


「おいおい。だからって、ここで万が一にもハインツ皇子を失うわけにはいかねーぞ」

「分かってるさ。その時は僕が出る」

「ならいいけどよ……」


 そう言って一応納得したアルは、ガルフとテレーゼの元へ歩いて行った。周りを警戒してくれるようだね。ありがたい。



 さて、この戦いの行く末を見届けようか。




     ※  ※  ※




「クククッ! 相変わらず過保護な男よ。どう転ぼうが、我はフリードに殺されるらしい」

「父上……」


 横目にベルンハルト皇帝がこちらを、というよりはフリードの存在を確かめる。


 おそらくこれが最後の会話となるだろう。ハインツ皇子は悲痛な顔で何かを言いかけるが、言葉がうまく見つからないようだ。結局唇を噛み締めるだけに留まってしまう。


「そして、やはり我の前に立ち塞がるのはハインツ、お前だったか」

「……なぜ、どうしてっ! 王国との融和の道を歩むことはできなかったのですか!? なんでっ! こんなことになってしまったのですか!?」



 感情がついに爆発した。



 今まで常に余裕の態度を見せてきた第2皇子ハインツが、目に涙を浮かべながら必死に訴える。


 ……届かないと知りながら。まるで駄々をこねる幼子のように。


「フン! 帝国の歴史は血塗られた覇道の上に成り立っている。元を辿ればこの国は、小さな町の規模しかない"国"と呼ぶのもおこがましい程の小国だった」

「…………」

「先祖代々、帝国はその"力"を示して、領土を拡大してきたのだ! 我の代で、先祖の名誉を、誇りを汚すわけにはゆかぬっ!」



 ……くだらない。と切って捨てるのは簡単だ。だが、それは俺が"部外者"だからである。国の歴史全てを背負っている人間の考えを理解することは、きっと死ぬまで出来ないだろう。



 皇帝から覇気が発せられる。しかし、鬼気迫るその圧にもハインツ皇子は一歩も退かない。


「それでもっ! 民の、帝国に住まう彼らの命が今この時にも、失われているのです!」

「帝国が帝国であるためにっ! その礎となれるのだ! これほど名誉なことはなかろう!」

「っ!」


 絶句。そもそも対立することになったのは、この皇帝の考えを変えることができなかったからだ。


 ハインツ皇子は、顔を俯けて黙り込んでしまう。


「…………」


 次にその顔を上げた時、そこにあったのは、涙を浮かべ駄々をこねる幼子の顔ではなく、"覚悟"を決めた『戦士』の顔だった。


「クククッ! やっと帝国の皇族らしい顔になったではないかっ!」

「父上……いや、皇帝ベルンハルト=アルセインっ! 貴様を今ここで討つ!」



 最後の会話が終わってしまった。ここからは、"命懸け"の親子喧嘩の時間だ。手に持つ得物は、鏡合わせのように2人とも大剣。



「うおぉぉぉ!」

「ふんっ!」


 普段の穏やかな姿からは想像できないほどの、裂帛の気合と共にハインツ皇子が斬りかかる。迎え撃つ皇帝。


 1合、2合……。


 続く剣戟の応酬を眺めていた俺は、スキルも使わずに斬り結ぶ彼らを見て、全てを悟ってしまった。



(茶番……か)



 目だけでフリードを見ると、彼は左胸に拳を当て、滂沱の涙を流しながらその光景を真っ直ぐに見つめている。……俺の推測は当たっているらしい。



 ……

 …………

 ………………



 皇帝は最初から死ぬ気だったのだ。



 おかしいと思ったよ。反乱の鎮圧に、最初からまるで"本気さ"を感じなかったからね。やり方がぬるすぎた。


 陽動? 撹乱? こちらがいくら上手くやれたとしても、ハインツ皇子を砦で殺す方法なんていくらでもあった。


 それをしなかった理由なんて決まってる。


 彼は今の状況で王国に勝てるなんて思ってなかったのだ。しかし、先ほど皇帝自身が言っていたように、融和の道を選ぶわけにもいかなかったのだろう。

 帝国の歴史と、ベルンハルト皇帝自身の"プライド"がそれを許さなかった。


 八方塞がりである。このままでは只々滅びを待つのみだ。


 ならばどうするか。……自分の代で旧い帝国の呪縛を1度断ち切って、新たな時代を始めるしかない。『和平』という選択肢を採ることが出来る、新たな"国"を創れる者が。


 全てはこの時、終わらせるために……。



「フリード。皇帝は不器用な男だね」

「……っ! ああ。ベルンハルト様は、最期まで"アルセイン帝国"の皇帝陛下であらせられたっ!」




     ※  ※  ※




 雪が降る。しんしんと。


 甲高い金属音を響かせながら、宙を奔る2つの銀線。


 散りばめられた白の中で、舞うように大きな剣を振るう2人の姿は、まるで前世で観た映画のワンシーンのようだなと、ぼんやり思った。


 ふと、あたりが明るくなってきていることに気づく。もうすぐ夜明けか……。




 そして……、決着の時がついに訪れる。



 ────振り下ろされた剣を掠らせながら、強引に体ごと突き込んだハインツ皇子の大剣が、ベルンハルト皇帝の腹部を貫いた。



 ……野暮なことは言いっこなしだ。


 今はただ、誇り高く戦った男たちに敬意を。



「ふっ。皇族の中で……マリーと並んで……はみ出しものだった……あのハインツが」

「うっ……うっ」


 ハインツ皇子の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちて、地面の雪を溶かしていく。


「野心、プライド、先祖の悲願……。あらゆるものに……雁字搦めにされた、哀れな男の末路よ」

「父上……」


「我は先に逝く……ゴホッ! 願わくば……再会は遠い未来であることを願おうぞ」


 俺が最後に見たベルンハルト皇帝の目は────"我が子"が作る未来に期待する"父親"の目であった。



「ククッ。楽しみに……待つとしよう。ハインツ、"いつかお前も還る場所"で……」

「はい、父上……っ! 抱えきれない程の土産話を携えて、必ずや……っ」



 その日、雪降る庭園にて、アルセイン帝国皇帝ベルンハルト=アルセインはその生涯を終えた。




     ※  ※  ※




 夜明けにぼんやり浮かび上がる帝城のバルコニーから、ハインツ新皇帝が高らかに宣言する。



 ────革命は、なされた。



次回、第7章のリザルト的な回です



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