第96話 雪が呼ぶ、いつかお前が還る場所
今回はイベント戦闘みたいな感じです
少し離れた場所で腕を組み、じっと前方を見据えるフリードに声をかける。
「フリード」
「ルインか。君たちにアレを押し付けるような形になってしまって、すまないな」
「それは納得した上のことだから、もういいって。それより……」
目線を前に向けると、そこには向かい合う皇帝と皇子。父親と息子の姿があった。
「大丈夫なの? あれ」
「殿下たっての希望だ。僕の心情的にもな」
1体1で決着をつけさせてあげたいのだろう。それは理解できるんだけど……。同じことを思ったのか、アルが会話に割って入る。
「おいおい。だからって、ここで万が一にもハインツ皇子を失うわけにはいかねーぞ」
「分かってるさ。その時は僕が出る」
「ならいいけどよ……」
そう言って一応納得したアルは、ガルフとテレーゼの元へ歩いて行った。周りを警戒してくれるようだね。ありがたい。
さて、この戦いの行く末を見届けようか。
※ ※ ※
「クククッ! 相変わらず過保護な男よ。どう転ぼうが、我はフリードに殺されるらしい」
「父上……」
横目にベルンハルト皇帝がこちらを、というよりはフリードの存在を確かめる。
おそらくこれが最後の会話となるだろう。ハインツ皇子は悲痛な顔で何かを言いかけるが、言葉がうまく見つからないようだ。結局唇を噛み締めるだけに留まってしまう。
「そして、やはり我の前に立ち塞がるのはハインツ、お前だったか」
「……なぜ、どうしてっ! 王国との融和の道を歩むことはできなかったのですか!? なんでっ! こんなことになってしまったのですか!?」
感情がついに爆発した。
今まで常に余裕の態度を見せてきた第2皇子ハインツが、目に涙を浮かべながら必死に訴える。
……届かないと知りながら。まるで駄々をこねる幼子のように。
「フン! 帝国の歴史は血塗られた覇道の上に成り立っている。元を辿ればこの国は、小さな町の規模しかない"国"と呼ぶのもおこがましい程の小国だった」
「…………」
「先祖代々、帝国はその"力"を示して、領土を拡大してきたのだ! 我の代で、先祖の名誉を、誇りを汚すわけにはゆかぬっ!」
……くだらない。と切って捨てるのは簡単だ。だが、それは俺が"部外者"だからである。国の歴史全てを背負っている人間の考えを理解することは、きっと死ぬまで出来ないだろう。
皇帝から覇気が発せられる。しかし、鬼気迫るその圧にもハインツ皇子は一歩も退かない。
「それでもっ! 民の、帝国に住まう彼らの命が今この時にも、失われているのです!」
「帝国が帝国であるためにっ! その礎となれるのだ! これほど名誉なことはなかろう!」
「っ!」
絶句。そもそも対立することになったのは、この皇帝の考えを変えることができなかったからだ。
ハインツ皇子は、顔を俯けて黙り込んでしまう。
「…………」
次にその顔を上げた時、そこにあったのは、涙を浮かべ駄々をこねる幼子の顔ではなく、"覚悟"を決めた『戦士』の顔だった。
「クククッ! やっと帝国の皇族らしい顔になったではないかっ!」
「父上……いや、皇帝ベルンハルト=アルセインっ! 貴様を今ここで討つ!」
最後の会話が終わってしまった。ここからは、"命懸け"の親子喧嘩の時間だ。手に持つ得物は、鏡合わせのように2人とも大剣。
「うおぉぉぉ!」
「ふんっ!」
普段の穏やかな姿からは想像できないほどの、裂帛の気合と共にハインツ皇子が斬りかかる。迎え撃つ皇帝。
1合、2合……。
続く剣戟の応酬を眺めていた俺は、スキルも使わずに斬り結ぶ彼らを見て、全てを悟ってしまった。
(茶番……か)
目だけでフリードを見ると、彼は左胸に拳を当て、滂沱の涙を流しながらその光景を真っ直ぐに見つめている。……俺の推測は当たっているらしい。
……
…………
………………
皇帝は最初から死ぬ気だったのだ。
おかしいと思ったよ。反乱の鎮圧に、最初からまるで"本気さ"を感じなかったからね。やり方がぬるすぎた。
陽動? 撹乱? こちらがいくら上手くやれたとしても、ハインツ皇子を砦で殺す方法なんていくらでもあった。
それをしなかった理由なんて決まってる。
彼は今の状況で王国に勝てるなんて思ってなかったのだ。しかし、先ほど皇帝自身が言っていたように、融和の道を選ぶわけにもいかなかったのだろう。
帝国の歴史と、ベルンハルト皇帝自身の"プライド"がそれを許さなかった。
八方塞がりである。このままでは只々滅びを待つのみだ。
ならばどうするか。……自分の代で旧い帝国の呪縛を1度断ち切って、新たな時代を始めるしかない。『和平』という選択肢を採ることが出来る、新たな"国"を創れる者が。
全てはこの時、終わらせるために……。
「フリード。皇帝は不器用な男だね」
「……っ! ああ。ベルンハルト様は、最期まで"アルセイン帝国"の皇帝陛下であらせられたっ!」
※ ※ ※
雪が降る。しんしんと。
甲高い金属音を響かせながら、宙を奔る2つの銀線。
散りばめられた白の中で、舞うように大きな剣を振るう2人の姿は、まるで前世で観た映画のワンシーンのようだなと、ぼんやり思った。
ふと、あたりが明るくなってきていることに気づく。もうすぐ夜明けか……。
そして……、決着の時がついに訪れる。
────振り下ろされた剣を掠らせながら、強引に体ごと突き込んだハインツ皇子の大剣が、ベルンハルト皇帝の腹部を貫いた。
……野暮なことは言いっこなしだ。
今はただ、誇り高く戦った男たちに敬意を。
「ふっ。皇族の中で……マリーと並んで……はみ出しものだった……あのハインツが」
「うっ……うっ」
ハインツ皇子の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちて、地面の雪を溶かしていく。
「野心、プライド、先祖の悲願……。あらゆるものに……雁字搦めにされた、哀れな男の末路よ」
「父上……」
「我は先に逝く……ゴホッ! 願わくば……再会は遠い未来であることを願おうぞ」
俺が最後に見たベルンハルト皇帝の目は────"我が子"が作る未来に期待する"父親"の目であった。
「ククッ。楽しみに……待つとしよう。ハインツ、"いつかお前も還る場所"で……」
「はい、父上……っ! 抱えきれない程の土産話を携えて、必ずや……っ」
その日、雪降る庭園にて、アルセイン帝国皇帝ベルンハルト=アルセインはその生涯を終えた。
※ ※ ※
夜明けにぼんやり浮かび上がる帝城のバルコニーから、ハインツ新皇帝が高らかに宣言する。
────革命は、なされた。
次回、第7章のリザルト的な回です
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