追憶と蛍の光【朱夏編②】
イツキに送り出された天音は、彼が最後に口にした"守れる時に守らねば、後悔する"言葉に胸を刺された様な気持ちになっていた。
『("あの時"…私がもっとしっかりとみていれば…)』
そんな事を考えていると天音はある過去の事を思い出した。
❁⃘
あれはコ〇ナの真っ只中だった頃、一人暮らしの私は年末等に実家に帰ることも出来なくなった。そんな時、すぐ下の妹にメールでこんなアドバイスをもらった。
"姉ちゃん、ベタかなんか飼ってみたら?"と。ベタというのは某ウツボさんが某ポムの寮長につけている魚のあだ名だ。魚は兎も角、動物を飼うのはありだなぁっと思い至った。そんな時に、ペットショップにて一目惚れしたのが、チンチラの優姫だ。あの子はお迎え初日の帰り道に入れていた紙製のケースから脱走したりしてと、今と全く変わらないお転婆娘だった。そんな優姫と過ごし、ある日、思ったのだ。もう一匹迎えたら私が仕事で留守にしている間、優姫が寂しい思いをしないのではないのか?と。そう思ったら、行動は早かった。ありとあらゆる、情報網を駆使し私はもう一匹、シナモン色の男の子を家族を迎えたのだ。その子は優姫とはまた違う性格で、少々ビビりなところもあったけど、優しい仔だった。いつの間にか、二匹は仲良くなりユウちゃんは子供を3つ子を産見落とした。最初に生まれたのは父親似のシナモンの女の子。二匹目、3匹目は優姫と同じスタンダードグレーの男の子だった。然し…2匹目に生まれた子は生まれこそしたものの息をしていなかった。つまり…死産だったのだ。チンチラの初産ではよくある事らしいが、元々、優姫の身体が大きかったのもあり、出産してから妊娠してたのだと知った。知っていれば、もっと栄養価の高いチモシーをあげれた筈だ。そうすれば…息をして生きれたのかもしれない。仕事を理由にかまってあげられなかった…其れがまず1つ目の後悔だ。他にも人生で色々な事を経験した、そして、幾度となく"あの時"もっと早く気付けば…"という瞬間を思い、過ごしてきた。それもあって、私は以前より強くそれぞれのハッピーエンドを紡ぐ物語が好きになったのだ。
☼
そんな事を思いながら、歩いているといつの間にやら森の中に入っていた。市街地の明かりはとても遠く引き返そうにも道は分からない。どうしようかと困っていると、天音の目の前に小さな光が通り過ぎた。
『あれは…蛍?』
蛍がいるということは、近くに綺麗な水があると言うことだ。蛍の淡い光は、まるで誰かに導かれるようにゆらゆらと宙を漂っていた。
『……綺麗』
ぽつりと零れた声は、森の闇に吸い込まれていく。
一匹だけだった蛍は、気付けば二匹、三匹と増えていた。小さな命の灯火達は、まるで星屑が地上へ降りてきたかのように辺りを漂い、やがて一つの方向へと流れていく。導かれるまま歩みを進めると、木々の切れ間から微かな水音が聞こえてきた。
『(こんな所に湖が?ん…待ってよ、ここは"朱夏"で、湖は朱雀を象徴する地……って事は…まさか此処って!)』
そのことに天音が気づいた瞬間、ザバっと音が鳴り響いた先を天音は恐る恐るゆっくりと視線を向けた。
そこには薄紅色の肌着を纏った男が湖の中で水を滴らせ、その真紅の髪をかきあげた。
「あら?夏の蛍に釣られて、随分と可愛らしいお嬢さんが迷い込んだわね。」
フフと色気たっぷりに笑みを浮かべる男を前に、天音は顔を真っ赤にさせながら硬直してしまったのだった。




