古の奈良の都の八重桜 けふ九重に匂ひぬるかな①【春麗編】
まだあの方がこの世界を組み上げる事を止めていなかった頃は僕にとってとても嬉しく心躍る頃だった。様々な顔を見せるこの世界の中で、特に花々が咲き乱れるこの地を僕は好ましく思っている。例え其れが…創られた感情だとしても…
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『わぁ!流石春の領土!滅茶苦茶綺麗!』
天音達がやって来たのは、東の位置に存在しその方位を司る青龍を守護神に祀る地だ。幾重もの花々が風に揺れ、甘やかな香りが空気に溶け込んでいる。空には透き通る水面には花弁が浮かび、まるで世界そのものが“春”を象っているかのようだった。
『(いやぁ、創造したのは私だけど、まさかここまでの絶景を拝めるなんて!)』
この地は昔の日本…特に平安時代から室町時代当たりを想像して生み出した地だ。それというもの、私のオタクの原点はとある乙女ゲームから。異世界の少女が迫害を受けていた一族の長により、井戸を通して召喚され、神子として都を救うという知る人ぞ知る名作だ。故にこの地に訪れる事が出来たのは歴女としても嬉しい限りだ。
ワクワクと周りを見渡す天音をイツキとマコトは。
「ねぇ、パパ、お姉ちゃん。随分と楽しそうたね。」
不思議そうな表情で父親を見つめるマコトに彼は微かに微笑んだ。
「まぁな、お前の祖母は昔からママや私に外の景色を携帯で見せてくれていたからな。其れに、春はお前達が生まれた季節でもあるからな。」
イツキは今でも覚えている。あの日は妻が今朝近くに突然産気づき、あっという間に娘とマコトを出産した事を。母は妊娠自体に気づいていなかった為、突然産まれた孫に滅茶苦茶驚いてはいた。だが、とても嬉しそうに娘とマコトを包み込み、妻にはよく頑張ったねと語りかけ、私に対しては…
「……パパ?」
マコトの声で、イツキはゆっくりと意識を戻した。
「どうしたの?」
「ふ…いや……少し、思い出していただけだ。」
イツキはマコトの頭を撫でた後、目をキラキラとさせた天音の姿を優しく見つめた。
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『寝殿造!平安貴族のお屋敷様式!つまり貴族文化のロマン!!儚さと華やかさの共存!最高!!』
ズンズンと楽しげに聖地巡礼をする天音はある場所にたどり着く。
『そして、これが御神木…万年桜だね。』
太く威風堂々と佇むその姿は、御神木に相応しい存在だった。 天音は迷いなくその樹に触れる。すると、何処からか、笛の音が聞こえてきた。
『これは…龍笛?ってことは、近くにいるの?』
キョロキョロと見回す天音の姿を、蒼き影は静かに見下していた。
「(やはり、万年桜は許したか。)」
実際のところ、この国の象徴であるこの御神木と国を流れる清水川は、“春麗の核”とも呼ぶべき存在だ。此れらはこの地を治める主、蒼 龍藤と深く結びつき、他の主に対しても滅多なことでは反応しない。だが、応えたという事は…姿を見せろという事だろう。
彼の疑問に応える様に万年桜は一斉に花弁を舞わせた。
『え?何で風もないのに花嵐が!?』
花吹雪の奥から、一人の青年が姿を現した。
「初めまして我らを生み出し給うた、いと尊き君。」
長い青の髪を薄く笑みを浮かべながら、浅葱色の衣を身に纏う男は万年桜の枝から静かに降り立った。
その軽やかな姿は、まるで春そのものが人の形を取ったかのようだった。




