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第七話 【召喚編】蚕食

槇尾山に来てから、数日が経った。

まだ、朝は寒いのだけど、梅の花は散り、ウグイスが鳴く、すっかり春めいてきた。

日が昇る前に、朝ご飯を食べる。

オズヌと空海は山に入る。

わたしは、二度寝する。


「おい起きろたまお!」

わたしは身を起こしながら、口元を袖で拭う。

袖にべったりと涎の染みができた。


「うぅん?」

寝ぼけ眼をこするわたし。

「出かけるぞ、着いて参れ」

中庭にオズヌが苗木を持って立っている。

「どこ行くのぉ?」

まだ覚めきれない頭で、草鞋に足を通す。

後鬼がやってきて紐を結んでくれる。


で、連れ出されたわたしは、吉野山にいます。

ご存知磐座(いわくら)ワープで一気にやってきました。

今回、距離も短く、ワープ酔いもない。


着いたところは、あいも変わらず山の中。

目の前に、わたしの背よりも高い石碑がある。

その石碑に刻まれているのは四文字、”女人禁制”。

なんという時代錯誤か!いや、錯誤しているのはわたしの方なんだけど、黙っていられない。

「なによ、これ!」

呆れと怒りの入り混じった声が出た。

「気にするな」

「気にしないわけ無いでしょうが!どこのどいつがこんなモノ建ててんのよ」

わたしは、石碑に蹴りを入れる。

「ワレが建てた」

「はあああ!!!」

「喚(わめ)くな!やかましい」

「喚(わめ)かずにおれるかよ!えッ」

「しゃぁなかったんじゃ」

「仕方なかった?聞こうじゃないか、えッ」

「母者(ははじゃ)がな・・・着いてくるんじゃ」

「なんの話よ」

「ワレが山に入ると、着いてくるんじゃ、母者が。母親に来るなとも言えんじゃろうが・・・」

「お母さんに着いてきてほしくないから、これ建てたって言うの?」

「ほうじゃ」

「プッ」

わたしは思わず、吹き出す。頬ずりする母親を押しのけようとするオズヌの姿が目に浮かぶ。

「で、お母さんは諦めてくれたの?」

「駄目じゃった・・・」

ブワハハハㇵ、わたしは大笑いする。母は強し!いいぞ母ちゃん!


「見てみい、たまお」

しばらく、山道を上り、開けた場所でオズヌが指をさす。

おおおおおお!

向かいの山肌、全面に桜!桜!桜!

「母者は、桜が好きでな・・・」

「もしかして、持ってる苗木も桜?」

「おうじゃ。母者の命日に毎年一本な・・・」


桜の下までは結構な距離があって、正直、息も絶え絶えだったんだけど、

満開の桜に出迎えられた途端に、一気に疲れが吹っ飛んだ。

山桜の通り抜け、ヒラヒラ舞う花びら、まるで夢心地だ。


桜の森の中、開けた場所に、大きな岩を何段にも重ねた塚が見えてきた。

オズヌは塚の前で、立ち止まる。

「母者・・・」

前鬼と後鬼は辺りを見渡し、いい感じのスペースを見つけると、そこの地面を掘り始めた。

ただただ塚と向き合うオズヌの横で、わたしは手を合わせる。


「できました」

前鬼がオズヌに声をかけた。

オズヌは、前鬼と後鬼が掘った穴に、苗木を植えると、丁寧に手で地を固める。

後鬼が植えられた苗木に瓢箪から水をやる。


「さて、帰るとするか」

塚にもう一度微笑みかけて、オズヌがもと来た道を引き返そうとした時だった。

ブワッと風が吹き荒れた。

わたしは袖で顔を覆って、風が吹き去るのを待つ。


顔を上げると景色は一変していた。

うららかな春の日はどこへやら。

満開だった桜がすべて吹き飛び、怪しい霧が立ち込めている。

そして、あの嫌な臭い・・・わたしはオズヌを振り返る。

横でオズヌがすごい形相で、塚の上を睨んでいた。

そちらを見ると、塚の上に立つ影がある。


濃く黒い霧の塊がゾワゾワと人型をなしている。

黒い影が笑っている。

あの影が、蝦夷の里で襲ってきた黒幕なのかとオズヌに声をかけようとした時だった――


前鬼と後鬼がサッとわたしの前を背でふさぐ。

「えッ!」

わたしたちは、ぐるりとゾンビに囲われていた。


「たまお!鈴を振れ!」

わたしは、ワタワタと腰にさした蛇鉾鈴(じゃほこすず)を手にする。

鈴を振る間はなかった。

一斉にゾンビが飛びかかって来た。


「うそッ」

この間とは、ぜんぜん違うゾンビたちの動き。

肉は爛(ただ)れて、骨が見えているのに力強い動き、武器まで持ってるじゃないか。


「くッ」

どこから取り出したか錫杖(しゃくじょう)を振り回すオズヌ。

前鬼、後鬼が入れ替わり立ち替わりしながら、ゾンビを払う。

後鬼、強い、強い、後鬼が戦うのを見るのは今回が初めてだけど、瓢箪をぶん回してはゾンビを打ち倒す。


「主様、これはイカぬぞ」

数が数だ、どうにも、もちそうにない。

「オズヌ、瞬間移動で逃げようよ!」

鈴を振ることもできず、オズヌに訴えるように言う。

「ワレ一人ならな・・・」

襲いかかるゾンビを打ち倒しながら、わたしを連れて行くには磐座(いわくら)でなければならないと言った。

わたしは、完全に足手纏(あしでまとい)だった。

「主様、祠で迎え撃とうぞ」

「よし、後鬼、たまおを担げ」


「あいよ」

後鬼がわたしを肩に担ぐ。

オズヌと前鬼が雄叫びを上げて、迫りくるゾンビたちを一蹴する。

バッと後鬼が飛び上がって、木々の間を抜ける。

嘘でしょ、もう、駄目だ。目の前は崖だった。

後鬼は速度を緩めることなく、崖へと向かう。

「ちょ、ちょ、後鬼、崖だよ!!!!」

「お嬢、口をつぐんでおれ。舌を噛むなよ」

そう言うと、後鬼は崖に飛び込んだ。

ひええええッ!!


「ウグッ」

崖の中腹にある岩棚に着地した。

その反動で、後鬼の肩が、お腹にめり込んだ。


深い横穴が空いている。

「ゲホ・・・ゲホ」

少し奥まったところで降ろされ、呼吸を整えようとする。


「ここが祠?」

「そうじゃ」

祠の入口へと目をやると、岩棚に着地できずに落ちていくゾンビたちが見えた。


確かに、ここなら、ゾンビたちの攻撃は入口だけに絞られる・・・けど、逃げ道もなくない?大丈夫か?

「安心せい、お嬢」

わらしの気持ちを察したのか、後鬼がそんなことを言う。

そこへ、オズヌと前鬼が飛び込んできた。


「たまお鈴を振れ!!」

そうだった。わたしは、立ち上がって蛇鉾鈴(じゃほこすず)を構える。

うまく岩棚に着地したゾンビたちが、襲いかかる。

オズヌたちが迎え撃つ。


わたしは、鈴を突き上げてシャリンとならす。

祠の入口、岩棚に黒い影が現れた。

「?」

何かを手にしている。

「!」

黒い影が手にしているものは杯じゃないか・・・蝦夷の里で・・・

わたしが、鈴を振り下ろそうとした時だった。

「うううっ!!!!」

心臓を鷲掴みにされたような痛みに襲われる。

胸を抑えて目を見開く、黒い影が杯を握りつぶしたのが見えた。


祠の奥へよろめいた拍子に、わたしは地にあいた穴に転げ落ちた。

「お嬢ぉおおお!」

後鬼の声が遠くなる。



「たまお・・・たまお・・・」

わたしを呼ぶ声がする。

「目を覚まさせ、たまお!」

どこかで聞いたことのあるような、懐かしい声だ。

目を開けると、暗がりに浮かび上がる美しい女性の顔があった。

大きな耳飾り、細かな彫刻。


「あんた、使った杯を割らんかったやろ。それで、呪いをかけられたんや、注意しいや。とくに女子は経血で汚したもんは、ちゃんと始末しなあかん。あれで呪われたら一巻の終わりやで」

「呪われてる?・・・わたしが・・・」

「そやで」

まさかの呪われている宣告。

深刻に受け止めかねるわたし。彼女のノリが軽すぎるのがいけない。


「死ぬんですかね・・・」

「死ぬな」

マジで、嘘でしょ!?

いや、いや、確かに好きで生きてきたわけじゃないし、楽しいことより辛いことのほうが多い人生だったけれども、死ぬってなると、なんだろう、ちょっと納得いかない。


「死ぬ言うてもな、この呪いはなんちゅうか・・・内側から食い荒らすというか・・・あんたの、記憶いうの、意識いうの、そういうもんを壊していきよんねんな、わかるか?」

わかんないし、なに、それ、怖い。


「こ・・・困ります・・・」

テンパった挙げ句、そんな言葉が口から漏れた。

カカカと笑って、女性がわたしを抱え起こす。

この人、なんだか人を和ますオーラのようなものを持っている。

呪いだの、死ぬだの言われても、危機感が湧いてこない。

それに、先ほどの胸の痛みも今は感じなかった。


今一度、女性を見る。

彼女の腕には刺青があった。

「刺青スゴイですね」

「かっこええやろ」

「かっこいいです」

「挿れたろか?」

「挿れなくていいです」

妙な間があって、それがどこか可笑しくて、わたしはプッと吹き出した。

女性もカカカと笑う。


わたしは、確信を持って女性に尋ねる。

「オズヌのお母さんですよね」

「そやで。オズヌはウチの可愛い一人息子や、よろしゅう頼むわ」

女性はサラリと答える。


「ということは・・・ここは・・・」

「常世(とこよ)と現世(うつしよ)の狭間や」

「あの世とこの世の間ってことですか」

「そうや」

「やばいじゃないですか!」

カカカとオズヌと同じ笑い声を上げる。


「どうしたらいいんですか?オズママ!」

わたしは、まだ死にたくはない。

「オズママって、ウチのことか?」

ウンウンとわたしは頷いて見せる。

カカカとオズママが笑う。


「あいつらをブッとばすしかないやろ」

「できるんですか?そんなこと・・・だって、オズヌも手こずってる感じですよ」

「ウチにはできる」

すごい自信だ。

「なにせ、ウチは天下一等の巫女やしな」

オズヌと同じようなことを言って、カカカと笑う。


「それにな、あの屍らはな、もともとウチの配下やからな。ガツンと言うたったら、なんとかなるやろ」

「えっ、でも、それだったらオズヌも前鬼も後鬼も・・・」

同族じゃないかとわたしは思った。

「今のオズヌ、刺青ないやろ、前鬼も後鬼も鬼になってしもてるし」

「刺青があったら襲われなかったってことですか?」

「可能性としてはな・・・挿れたろか?」

「挿れなくていいです」


「で、ぶっとばすってどうするんですか?」

「あんた憑代やろ、ウチを憑かせたらええねん」

「鈴ないんですけど・・・」

「鈴なんてもんは、ホンマに力のある巫女やったらいらんねん」

そう言われても、わたしは力のある巫女じゃないし。

「しかも、ここは常世と現世の間やで、鈴なんかいるかい」


「手ぇ出して、”オズママ来い”言うたら終いや」

すごく簡単に言うけど、ほんとだろうか?

信じるしかない、やるしかない。

わたしは、手を差し出してオズママの瞳をまっすぐ見つめる。

「オズママ、来て!」


内臓がグルンとひっくり返る感覚が襲う。

穴の底で目覚めるわたし。

「たまお、あんたの体、最高やな!」

”歓喜””やる気””勇気”がわたしを満たす。

「特にたまお・・・あんたの玉がええ」

「玉なんて無いから!」

親子揃って何を言うのか!冗談にも程がある。


カカカと笑うオズママに合わせて、手に持った蛇鉾鈴が小さく鳴った。

オズママは蛇鉾鈴を確かめるようにマジマジと見る。

そして、わたしが落ちてきた穴を見上げた。

「あんたに、天下一等の巫女の力を見せたるわ!」

そう言って、力強く跳ね上がった。


加速する・・・

穴から溢れる光が粒子となって降ってくる・・・

虹に包まれて、わたしの体が発光する・・・

真っ白な世界が、やがて像を結び始める・・・


わたしは、わたしを見ている。

オズママは綺羅びやかな巫女服を着ていなかった。

ハート型の刺繍が入った簡素な服に、動物の角や骨で作った首飾りを幾重にも巻いてる。

右手に蛇鉾鈴、左手にはハート型の葉をつけた枝を持っている。

オズヌのときとは違う可愛さがあった。


オズママが発する光が祠を照らす。

二匹の鬼とオズヌが互いに背を庇いながら、取り囲むゾンビに対峙している。

前鬼と後鬼は血まみれだ。

オズヌなんて、片腕の肘から先がなくなっているじゃないか。


そのオズヌが歓喜の表情でわたしを見ている。

前鬼と後鬼が跪く。


オズママが宙に浮いたまま、舞う。

オズママを中心に青白い光がブワッと広がった。

オズヌの神楽の結界どころの騒ぎじゃない。

その青白い光の中にいる者、オズヌや二匹の鬼たちをはじめ、ゾンビまでもが動けなくなる。


オズママの祝詞の声がもうビンビンに震えている。

ゾンビたちがワナワナと震えている。

自分の配下たちの変わり果てた姿を見た、オズママの悲しみがわたしに流れ込んでくる。


オズママは蛇鉾鈴に木の枝を添えるようにして、頭上にかかげた。

電磁波だか、低周波だかブーン、ブーンというノイズがあたりを震わせる。

祠の天井から小石や砂がこぼれ始めた。これ、ヤバい!


”許せぬのぅ・・・たまおよ”

オズママがわたしに言う。

”ウチの大事な一族を・・・”

熱い熱い”憤怒”がわたしに流れ込んでくる。



「!!!」

轟轟とノイズが響く中、オズママが叫んだ。

次の瞬間、ドンと腹に何かが着地したような衝撃が走る。


蛇鉾鈴が勢いよく振り下ろされた。

真空の中、一瞬、時が止まったような静寂の後。


閃光と共に轟音が祠を突き抜けた。


ゾンビたちの姿はない。

オズヌと鬼たちは腰を抜かしたように、地べたに腰を付けている。


祠の外、宙に浮いている黒い影が笑っている。

「オズママ!あいつ!」

オズママに声をかけるが、返事はなかった。

黒い影は、風に吹かれた塵のように姿を消した。


助かったのかな?そう思った途端、わたしは自分の体を支えていられなくなった。

突っ伏すように倒れる。

シャシャンと音を鳴らして蛇鉾鈴が転がった。


「くッ・・・」

そこに、胸の痛みが襲う。呪いは解けていなかった。


「お嬢ぉ!」

後鬼の声が遠い。


ーーーーーーー

夢を食べるのがバクで、悪夢を食べてくれるのがワニ。

本当かなぁ?


では、記憶を食べるのは?

そう、呪いだ・・・。

今、わたしの目の前には幾千ものカードが並んでいる。


その中の一枚をめくる。

人生のヘタ、ほんとうにどうでもいいよな記憶が蘇る。

めくった途端、咀嚼音(そしゃくおん)が耳元で響き、思い出が蚕食されていく。


こんなにヘタを食らうなんて、どんだけ腹ペコなんだよって話。ウケる。


漢字ドリル。書き順を間違えて、お母さんに手をピシャリと叩かれた。

部長と同僚の不倫現場に鉢合って、翌日、異動させられるわたし。


どうでもいい思い出が、緩くて鈍い咀嚼音に消えていく・・・

もっと、いい思い出あるだろうと、わたしはどこか躍起になる。


「どうだ!」

気合を入れて、めくった一枚に、わたしは心当たりがない・・・これは、わたしの記憶じゃない。

オズママが、わたしに両手を広げて笑っている。


「たまお・・・来よし」


ーーーーーーー

プツッ、ブブ〜ン、プラグがつながる。

くぐもった電子音を伴って、無意識が立ち上がる。


豊かな黒髪の女性が男に組み伏せられている。

わたしは、その美しい女性を知っている。オズママだ。

咀嚼音が一層大きくなったような気がする。


虚ろな瞳で天上を見ている。

わたしの中に、諦めと悲しみが流れて込んでくる。

”わ・が・こ・を・は・ら・め”

跳ね除けて!オズママ。あなたには力があるじゃいか。

天下一等の術師でしょうが!


組み伏せている男の顔は見えない、はだけた衣服から覗く肌に刺青はなかった。

”か・も・け・の・た・め・に・わ・が・こ・を・は・ら・め”

男がオズママの中へ、精を放った。

わたしの中に、混じりっけなしの怒りが打ち寄せる。


男は笑う。

オズママの背から、オズママを守るように、ハート型の葉が茂る。

やがて、ハート型の葉はオズママをすっぽりと覆い尽くした。


そのハートの葉を虫が食らっている。

咀嚼音の正体はコイツだったのか・・・

虫は、今、わたしの記憶と勘違いして、オズママの記憶を食い荒らそうとしている。

止めなきゃと思うのだが、止められない。

ヘタのような思い出ではない、人生の核となるような思い出を食らうことに狂喜乱舞といった感じで、咀嚼音は一層高まり始める。


虫が食べきる前に、場面が変わる。


ハート型の葉に覆われながらオズママは子を産んだ。

オズママは、何かに耳を傾ける。

そこに咀嚼音が響く。


赤子は、おでこに突起がある変わった面相の男の子だ。

オズママは乳をやる。

わたしに愛が、生の愛が、慈愛が流れ込んでくる。

男が現れる。乳を飲んでいる赤子をオズママから引き離す。

”よ・う・やっ・た・お・と・こ・じゃ・ち・か・ら・が・あ・れ・ば・い・ち・ぞ・く・に・く・わ・え・て・や・る”

男に抱き上げられた赤子が、ゲボっと飲んでいた乳を男の顔に吐きかける。

怒りに震える男は、オズママに赤子を放って返した。

オズママの瞳に力が蘇っている。


虫の咀嚼音が貪欲に響くが、また、場面は変わる。


赤子を抱え、山を行く女一人。

オズママだ。

道なき山を、しっかりとした足取りで登っていく。


「?」

オズママは振り返る。

追手を気にしているのだろうか・・・そこに、咀嚼音が迫ってきた。


オズママは、再び歩き出し、祠へとたどり着いた。

年老いた巫女がいる。

オズママは巫女に我が子を託す。

老巫女が赤子に刺青を挿れていく。

祠に赤子の泣く声が響く。


刺青を入れ終えて、オズママは子をおぶって再び山を行く。

やがて集落が見えてくる。

集落の様子がおかしい、あの男の手下で溢れている。

もう恐れることはない、赤子は我が胸に。


集落に下りる。

以前にはなかった小山が里の中央にこんもりと出来上がっている。

その小山の前に一人の男。

あの男の右腕だ。

もう里の者はいない、この男に葬られている。

わたしにフツフツとした怒りが湧き上がる。


オズママ、気を付けて、あいつが盗もうとしている。


オズママは里人が葬られたであろう小山に跪いて両手を合わせる。

そして、舞い始めた。


あの男の配下どもは、その舞が葬られた里人を弔うものとでも思っているのか、呑気に眺めている。

手を打って囃す者すらいる。


空が曇り、風が吹きはじめて、手下どもは異変を感じ、武器を手にオズママを囲んだ。

しかし、もう遅い。わたしは次に何が起こるか知っている。


里に数多の稲妻が落ち、雷鳴が轟いた。

右腕の男も、兵士たちも真っ黒に炭のようになっている。

あああ、やってしまった・・・見せてしまった・・・


崖の上、あの男が笑っている。

全て見届けて満足したのか、男は、オズママをそのままにして去って行った。


呪いの咀嚼音はより大きく響く。

場面は変わらない、どんどん虫が食っていく。

そして、オズママに齧り付こうとした時だった。

「捕まえた」

両手で、巨大な虫をガッシリと掴んで、オズママが笑う。


オズママが、わたしの目を見て言う。

「内緒やで」


オズママのカードが伏せられた。


ブッチン・・・強引にプラグが引き抜かれる。

わたしは何も覚えていない・・・

ーーーーーーー

わたしは目覚める。

あたまは朦朧としている。

「お嬢!」

後鬼の声。

みながわたしの顔を覗き込んでいる。


オズヌと汗だくの空海が、わたしを抱え起こしてくれた。

部屋中に香が立ち込めていて、息苦しいほどだ。

わたしは違和感を覚えて、自分の手を見る。

「ひえっ」

わたしは藁人形を握っていた。しかも、紙で作ったセーラー服を着ている。

なにコレ?

「ようできた形代じゃろ」

オズヌはそう言って、藁人形をつまむと、香炉へと投げ込んだ。

ブワッと舞い上がる炎に、空海がキエイっと印を結ぶ。

炎はシュンと収まって、青白い煙が天井へと登っていく。

「呪は除けたぞ、たまお」

空海が微笑んだ。

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