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茨木さんの肩こり

 少し緊張感のあった日中が過ぎて、夕方になると、それなりに村の雰囲気も落ち着いてきた。

 今日の仕事を終えて、私たちも居間で寛いでると、夕飯の仕込みを終えた茨木さんが入ってきた。


「今日はご苦労だったな」

「いやいや。茨っちもお疲れっしょ。酒てるんと一緒に、村の避難経路の再確認、してたんしょ?」

「ああ。だが、どこも問題はなかった。結界も正常だ。大蛇が復活しても、少しくらいなら時間を稼げるだろう」


 茨木さんは右手を左肩に当てて、息を吐いた。

 肩こりがあるのかもしれない。


「あの、茨木さん」

「ん?」

「もしよかったら、マッサージ……えぇと」

「それくらいの言葉なら私も知っている」

「はい。よかったら、肩をマッサージしましょうか?」

「気持ちだけ受け取っておこう。それに、もう長年、この状態なんだ。これをほぐすのは、至難の業だろう」

「酒てるんにほぐしてもらわんの?」

「酒吞様から何度か申し出はあったが、わざわざ私の肩こりでお手を煩わせたくはないから、断っている」

「茨っち、肩こり舐めんほうがいいぜー? ほっとくとヤバいことになんよ?」

「何?」


 時子ちゃんが珍しく、ただならぬ雰囲気を醸し出すと、茨木さんが少し動揺を見せた。


「人間だろうが妖怪だろうが体調不良をそのままにしておくのはよくねーぜ! ってなわけで、さっさと肩こり解消しようず!」

「いや、だから、私は別に」

「酒てるんも、心配してんじゃない?」

「ぐっ……!」


 酒吞さんの名前を出されて呻く茨木さん。

 やっぱ心配されてるんだね。

 それに、私たちも心配だ。

 メアちゃんとイザベラちゃんも茨木さんのことを心配そうに見てるし。


「イバラ姉さま……」

「そのままなの、辛いよね……」

「ぐっ……!」


 年少組二人の追撃を受けて、茨木さんがもう一度呻いた。


 それから、少しだけ迷う素振りを見せた後、茨木さんはため息を吐いた。


「……わかった。しかし、私の体の丈夫さは人間とは比べ物にならない。それは凝りも同じだ。按摩(あんま)なら、時子に任せる」

「いや、案外、茨っちの肩こりを完全解消するなら、葵っちが適任かもよー?」

「何?」


 訝しがりながら、茨木さんが振り返ってきた。

 まあ、見た感じ、小学校高学年から中学生くらいだから、本当にやれるのかって思われるのは仕方ない。


 けど、私には、バッキバキに凝り固まった団長さんやアリスたちを完全無欠にケアした実績がある。


 それに、こっちに来てから時子ちゃんと木ノ葉ちゃんにもよくしてあげてる。

 二人とも気持ちよさそうにしてたし、何なら木ノ葉ちゃんは、たまに皆が居ない時に頼んでくるくらいには気に入ってくれてる。

 アンドロイドだけど、人間の姿の時はこりとか色々あるらしく、実際に1回目の時はかなりバッキバキだった。二回目以降は、それほどでもないから、ちょっとしたボディメンテナンスって感じで。

 おかげで、二人の体調面はいつもバッチリだ。


 きっと、茨木さんの肩こりだって、解消できる。


 私のそんな自信が表に出てたらしく、茨木さんは小さく息を吐いた後、頷いてくれた。


「……では、やってみてくれ」


 仕方ない、と言った様子だったけど、私に背を向けて、肩を差し出してくれた。

 その期待に応えるべく、私は早速、メルティング・フィンガーを発動。


 すると、時子ちゃんと木ノ葉ちゃんが年少組と一緒に入浴の準備を始めた。


「では、お嬢様がた、先にお風呂へ入ってましょうか」

「葵っち、防音バリアよろー」

「わかった」


 バリアを私たちの周囲に張って、よし。


「ん? おい、待て。何でそんな物を用意」

「ぇい」


 茨木さんが何かいいかけてたけど、ひとまずマッサージを開始した。


 その直前、時子ちゃんと木ノ葉ちゃんが、メアちゃんとイザベラちゃんを連れて、部屋の外へ出ていったのが見えた。

 四人が上がってくる頃には、マッサージも終わってるだろうから、茨木さんが入ったら、私も入ろーっと。




 数分後、酒吞さんが居間に入ってきて、驚いた声を漏らした。


「これは、一体どうしたんだ?」

「お疲れ様です。マッサージを終えたところです」

「マッサージ?」


 酒吞さんの視線の先では、茨木さんが息も絶え絶えになって、うつ伏せになってた。

 肩こりがあまりにも酷かったから、威力を団長さんやアリスの時よりも上げてマッサージした結果だ。

 夕飯も近いから、短時間になったけど、メッチャほぐれたと思う。


「み、見ないでください……」


 弱々しいけど、可愛らしくもある声で茨木さんが酒吞さんに言うけど、酒吞さんは視線を逸らさなかった。

 酒吞さんは静かに茨木さんの前に片膝を着くと、その手を優しく取った。


「よかった。あのままだと、いずれ慢性的な頭痛や、腕を上げられなくなるといった症状が出ていただろう」


 それから、流れるような動作で茨木さんを抱き起こして、壁際に座らせた。


「申し訳……ありません」

「何故謝るんだい? すぐに動けるようになるさ」

「……はい」


 酒天さんが微笑みかけると、茨木さんは頬を赤くしながら頷いた。

 すると、酒吞さんが振り向いてきて、にこりと笑いかけてくれた。


「葵、ありがとう。茨木にマッサージをしてくれて」

「いえいえ」


 とりあえず、茨木さんの肩こりが解消されて良かった。


 ただ、その日はそれからずっと茨木さんから睨まれたけど……寝る前に、


「……感謝する」


 とツンデレな一言をもらえたので、よし。

次回は明日、18時予約投稿です。

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