素の彼女
さて、後は大蛇の封印が終わった後、私たちが消えることを伝えとかないと。
「それから、封印の後のことなんですけど」
話し出そうとした時、サーチの範囲内に、烏さんの反応が出現……したかと思えば。
超高速で真っ直ぐ屋敷の方へ向かってくるのがわかった。
その場にいた全員が顔を上げて、時子ちゃんが庭へ続く障子を開ける。
すると、漆黒の流星が如く烏さんが落ちてきて、前回り受け身のような動きをして着地。
ほとんど音を出さず、庭を荒らすことなく、鼻高天狗のお面も無事な、驚きの着地をしてみせた烏さんは、そのまま立ち上がって、私たちに手を振ってきた。
「夜分遅くに失礼いたしまする」
「急にどうしたんだ?」
「酒吞殿にこちらをお届けに参りました」
そう言って烏さんが山伏服の懐から取り出した便箋を、両手で差し出してきた。
茨木さんが出る前に、酒吞さん自らが縁側へ出て、手紙を受け取る。
「書類での連絡か。珍しい」
言いながら、封筒から手紙を取り出して広げ、読み始めてすぐに「ほう」と声を漏らした。
「なるほど、緊急案件だな。わかった。こちらも予定を調整しよう」
「ありがとうございます」
「こちらからも書類で返した方がいいか?」
「いえ、その必要はありませぬ。ところで、皆様お集まりになって、何かお話をなさっていたので?」
「いや……」
酒吞さんが私たちに少しだけ振り返ってきて、苦笑を浮かべた。
「昔話をしていたのさ」
「左様ですか」
烏さんは頷いてから、私たちに抱きしめられる木ノ葉ちゃんを見た。
「……どうやら、心配はなさそうですな」
お面の奥から優しい声音でそう言うと、服装を正して、帰り支度を始めた。
「それでは、何か伝言はありますかな?」
「ない……いや」
酒吞さんが少し考える素振りを見せてから、また私たちを見てきた。
言っていいですよ、と頷いて見せる。
時子ちゃんたちも、それぞれ頷いてる。
酒吞さんも私たちに頷き返してから、烏さんへ顔を戻した。
「……四天王と、姫の欲する品を手に入れた」
「……それは……なんと」
驚いた雰囲気の烏さんの視線が、私たちに向けられたのがわかった。
「……彼女たちが……そうなのですね」
「ああ。だが、俺たちは伝承通りになるつもりはない。そこは安心してほしいと、伝えておいてくれないか?」
「……あい、わかりました」
静かに相槌を打った烏さんが、急に笑い出した。
「あはははは! そっか! そうきちゃったかぁ!」
ズレたお面の向こうから見える、目尻に涙を浮かべて、本当に楽しそうに笑う、素の彼女が、何だか可愛らしく思えた。
唐突なキャラ崩壊に、茨木さんたちが驚いてるのが雰囲気で感じ取れた。
酒吞さんはいつも通り静かだったけど、楽しそうな烏さんを見て、微笑んでる気がした。
「キャラが崩れているぞ?」
「おっと。これは失敬」
お面を被り直した烏さんの雰囲気が戻った。
でも、やっぱりどこか楽しそうだ。
「それでは、また近いウチにお会いいたしましょう。さらばっ!」
いうが早いか、夜空へあっという間に飛び立っていった烏さんを、酒吞さんが見送る。
それから、居間に戻って障子を閉じると、酒吞さんは私たちに向き直ってきた。
「都にいる友人から緊急の連絡があった。大蛇の封印について、友人たちの方で改良型を用意するため、動くのはもう少し待ってほしい、とのことだ」
「改良型って、そんなことできんの?」
「らしい。これが上手く行けば、もう千年ほど、大蛇は眠り続けるだろう」
酒吞さんは手紙を封筒に戻して懐にしまった。
「だが、万が一ということもある。改良型の封印が完成する前に、大蛇たちが復活する可能性も高い。その時は、君たちの手を借りさせてほしい」
「わかりました」
「お安いごようだぜ!」
ひとまず、今日、明日は大丈夫そうだ。
夜明けには村外れの封印場所に行くかもって考えてたけど、これなら、後少しだけ、この世界にいられそう。
「酒吞さん、もしかしたらなんですけど」
「ああ。先ほど、言いかけていたことかな」
「はい。実はーーーー……」
次回は明日、18時予約投稿です。




