一緒に旅すればいい
「酒吞さんや大蛇さんらは、ある大きな任務を終えて帰還する途中に、こっちの世界に来たらしいねん」
木ノ葉ちゃんの語り部は、そんな出だしから始まった。
「原因不明で、全員気がついたらこっちにおったんやと。
そんでもって、ここが過去の地球で、どうにも元の世界とは別の世界線らしいってのがわかったらしいねん。
皆、最初は冷静でおれたけど、少しずつ心を壊していく人らが出てきた。それで、酒吞さん含めた何人かが励ましとったんやけど……大蛇さんたちは絶望しきってもうて、暴走してもうたんやって。
そんで、この世界の素戔嗚命と、鵺さんっていう大妖機が力合わせて、首をバラバラにして封印したんやと」
話し終えた木ノ葉ちゃんは、長く息を吐いた。
「大蛇さんな。大切な人……恋人が、それぞれの首におったらしい。皆、その人らに会えんってのがわかってもうて……他にも色々あったらしいけど、暴走してもうた原因で一番デカいんは、そこやったらしい」
木ノ葉ちゃんの話を聞いて、大蛇の気持ちが、ほんの少しだけ、わかる気がした。
木ノ葉ちゃんや酒吞さん、大蛇たちも、私と同じで、異世界へ飛ばされた。
私は元の世界に帰ることができて、いつかフー兄や家族、友達と再会できる。
でも、もし、フー兄たちにもう二度と会えんってなったら……私も、大蛇みたいになってた可能性があるんかなって、ふと思った。
団長さんやイザさん、ノイさんたちが居てくれてても、フー兄に会えん……想像しただけで、息が苦しくなりそう。
その想像を振り切りながら、木ノ葉ちゃんに頷いた。
「そうやったんやね」
「うん。ちなみに、私や烏らがこっち来たんは、こっちの時間で、それから随分経ってからやってん」
「木ノ葉ちゃんたちも、何かの任務の帰りやったん?」
「行方不明になった酒吞さんたちの捜索の最中やった」
言いながら、木ノ葉ちゃんは目を細め、両足を抱えた。
「ホンマにだーれもおらんでな。空も地上も地下も手分けして探して、パーツの一つも見つからん。唯一あったんは、反応が消える直前に酒吞さんらがおった地点にあった足跡とか、それくらい。
ただ、奇妙なんやで?
誰かの靴跡なんやけど、反応が消えた地点に踏み入れたところで、踵部分の靴跡がきれーに消えててん。踵だけ付けてジャンプしたとか、そんな力の入れ具合は一切なくて、普通にただ歩いてて、普通に踏み出した足の踵から付けるっていう、本当にそれだけ。
せやからこれは、神隠しとか、異次元へ飛ばされた可能性があるってことになって、一度帰還しよーかってなった時。
私らも、こっちに来てん」
木ノ葉ちゃんの声が、泣きそうになってた。
「ホンマ、わけわからへんわ。今でも。ワープとかって話やないで」
苦笑する顔が、無理やり笑顔を作ってて、見てて辛かった。
「私、学校関係の施設職員になる予定やってん。災害救助とか、酒吞さんらみたいな正義の味方みたいな仕事やなくて、普通に子どもらを見守って、たまに危ないことがあったら助ける、くらい。
せやのに……あはは、アクシデント現場への慣れとか、情報収集のためとか……ううん。まさか、別世界の日本に飛ばされるって、就職予定の学校の、歴史の先生に話したいわ、ホンマ……もう」
木ノ葉ちゃんが言葉を止めて、顔を俯かせた。
ああ、もう、見てられない。
木ノ葉ちゃんの肩を抱きしめて、それだけじゃ足りなくて、ぎゅっと彼女を引き寄せて、背中に手を回した。
「……泣いとるん?」
「……泣いてるんは、木ノ葉ちゃんの方やん」
私は、泣いてない。
私も今、元の世界に戻れるかどうかわかんない状況だけど、絶望はしてない。
宇宙から一緒のメアちゃんたちがいて、この世界では木ノ葉ちゃんたちも居てくれる。
それに、ノイさんたちが、必ず助けに来てくれる。
直感も、絶対に大丈夫、皆にまた会える、フー兄に絶対に再会できる。
そう言ってくれてる。
だから、私はこうやっていられる。
でも、木ノ葉ちゃんは……知り合いがいて、仲の良い友達ができても……心がずっと擦り減っていってた。
出会った頃に、私を迎えに来たノイさんたちに、この世界から連れ出してもらえないかなっていうのは、紛れもない、木ノ葉ちゃんの本心だった。
木ノ葉ちゃんのことがわかるなんて言えないけど、この子が大蛇みたいに暴走してしまうんじゃないかって、直感が囁いてるわけでもないのに、心配になるくらい……。
「葵、ありがとう。でもな、私、大蛇さんみたいに、元の世界に好きな人とか、そういう、どーしても失いたくないってもんはなかってん。ただ、ただな……皆から化物って言われて、誰とも手を繋げんくて……子どもたちと触れ合えんのは……結構…………心に、くるな。メッチャ、辛かってん」
「うん」
「皆に少しでも認めてもらいとーて、妖怪退治とか、野盗退治とか頑張ってん。そしたら、酒吞さんと茨木ちゃんが、無理するなって怒って、ねぎらってくれてん。でも、村の人らは、私を怖がるねん……だから、離れて、一人で暮らしてて……それでも、あかんなって、辛いなって。それで、散歩してたいよちゃんを見つけた時、もーあかんって、あの子と話したい、手を握ってほしいって、思うてん」
木ノ葉ちゃんが嗚咽を漏らした。
「最悪やろ。大蛇さんと、なーんも変わらん。ちっちゃな子ども怖がらせて、学校職員も何もあらへんねん……」
木ノ葉ちゃんが、そっと顔を上げた。
涙と鼻水でボロボロの顔で、無理やり笑って。
「ありがとうな、葵。もう大丈夫やから」
そう言って木ノ葉ちゃんが離れようとした。
このまま離したら、駄目な気が強くした。
だから、抱きしめて、離さないようにした。
「知るか」
「え?」
「知るか! アンタの過去がどーいうもんでも、私は私が知り合ってからの木ノ葉のこと好きになって、友達になったんや! 何勝手に自己完結してはなれよーとしとんねん!」
ああ、あの時の、本気で私に怒ったイザさんのことを思い出す。
程度の違いはあっても、イザさんも、こんな風に思ってくれてたんだって。
だから、私は木ノ葉ちゃんの顔をしっかりと両手で挟んで、絶対に目を逸らせないようにして、真正面から見た。
「絶対に離れへん! 絶対にやで!」
決めた。
木ノ葉ちゃんを絶対にマルトに、何なら地球に連れて帰る。
酒吞さんたちが何を言おうと、木ノ葉ちゃんの元の世界がどーだろうと。
木ノ葉ちゃんがこの世界にいるのが辛いなら、元の世界にい帰られへんねやったら。
私たちと、一緒に旅すればいい。
「葵……」
水玉のような涙を零した木ノ葉ちゃんが、私の頬に触れてきた。
「私は……」
その瞬間、障子が軽快な音を立てて開かれたかと
「木ノ葉っちー!」
「ごの゛ばざば〜゛!」
「びえぇん!」
大号泣した時子ちゃん、イザベラちゃん、メアちゃんが飛び込んできて、私ごと木ノ葉ちゃんを抱きしめた。
「辛かったなぁ! メチャがんばったなぁ!」
「イヨ様を怖がらせたことは許しませんが、それ以外は許しますわー!」
「大丈夫だよっ、コノハ様ぁ!」
私たちに抱きしめられた木ノ葉ちゃんが、顔をぐしゃぐしゃにして、泣き出した。
「今度こそ、一緒にお出かけしよ」
「うん……!」
次回は5月9日、18時予約投稿です。
※いくつかのシーンの書き直しをしたいため、少しだけ投稿休止いたします。まことに申し訳ありません。
今後とも、初恋と夕陽の葵をよろしくお願い申し上げます。




