172 恋よススメ(1)~笑顔~
――『というわけで、蓮ちゃん……あんた明日はヴィヴィちゃんをデートに誘いんしゃい! 今日はゆっくりさせて、元気満タンで一発かましてきんしゃい!!!』――
その夜は悶々として眠れなかった。
用意したデートプランが、合っているのか不安だったからだ。
ヴィヴィをデートに誘う事になった俺は、すぐに街にリサーチに出た。
というか――
――『ほらぁ! そうと決まれば、街に出て色々調べてきんしゃい! ヴィヴィちゃんには私から言うとくけん! ほら、早く! あ! メイジシルクの変装……明日、タリちゃんの顔のままやったら、雰囲気が出らんね……そうやね……ヤバい時だけタリちゃんになればよかろう! それ以外は帽子とマフラーたい! 忘れんようにね! あと、何か美味しいもんがあったら、買うてきて!』――
と、半ば強引にばあちゃんに送り出された。
俺は半日マツィーヨの街を歩き回り、ヴィヴィが喜びそうな所を探した。
デートがどういうものかよく分からないが、俺はこのデートを完璧にするために――
――ガサッ……
デートのしおりを作った。
しおりの流れはこうだ。
◤―――デートのしおり―――◥
◆南側外堀エリア◆
・9時00分――ヘイルの宿を出発。大通りへ向かう。(徒歩10分)
◆中央大通りエリア◆
・9時10分――大通りの露店でプレゼントを探す。
・9時30分――プレゼント決定。大通りを北へ。(徒歩5分)
・9時35分――朝食代わりに露店で買い食い。
・9時50分――街の東側の丘にある廃城跡に向かう。(100年前の『国落とし』で潰れた城跡。あまり人気は無いが、恋人たちに人気のスポット。徒歩20分)
◆東側エリア◆
・10時10分――丘の廃城に到着。暫く散策。
・10時40分――出発。丘を下りて港へ。(徒歩20分)
◆北側港エリア◆
・11時00分――港の朝市を見ながら東へ向かう。(芝居小屋が港にあった。どうやら恋愛もののようだ。徒歩10分)
・11時10分――芝居小屋に到着。前売り札を購入。
・11時30分――港の食堂で、少し早めのランチをする。
・12時30分――芝居小屋に移動。
・13時00分――芝居開演。(2時間の演目)
・15時00分――芝居終了。港にある展望台へ移動。(徒歩15分)
・15時15分――展望台から街を一望。(似顔絵師がいるらしいので、ヴィヴィを……出来れば二人で描いて貰う……出来れば)
・15時30分――似顔絵。(30分)
・16時00分――出発。街の西側へ向かう。(徒歩25分)
◆西側エリア◆
・16時25分――海が見える食堂に到着。開店まで時間があるので、海沿いを少し歩く。(晴れていると、夕日に照らされるモトス大陸が見えるそうだ)
・17時30分――ディナー開始。
・19時30分――ディナー終了。宿へ向かう。(徒歩25分)
◆南側外堀エリア◆
・19時55分――ヘイルの宿に帰着。
◣―――――――――――――◢
よし……完璧だ……と思う。
マツィーヨに来て、ほとんどヘイルの宿のある『南外堀エリア』から出てないからな……
このしおり通りいけば、一日でマツィーヨ東西南北エリア、全てカバー出来る!
あえてもう一度言わせて貰う……
完璧だ!!!
この予定通り進めば、一分の隙もない……はずだ!!!
あ、そうそう。予定と言えば……
時間の管理は、さっきミルカが俺の部屋にやってきて――
――『蓮さま、こちらの腕時計をお使いくださいまし。私の姉が使っていたものでございます。姉はこういうカラクリ弄りが大好きでして……沢山ありますので遠慮なく! では明日……が、頑張ってくださいまし!!! きゃは!』――
と、テンション高めに腕時計を渡してくれた。
あの、ませっ子めぇ!
そして俺は知っている……
ミルカが俺の部屋にやってきたとき、ドアの向こうに――
ばあちゃん、ヘイルさん、コヤネさん、ポッコが息を潜めていたことを……
――『どうやった? 蓮ちゃん、予定たてよった?』――
――『ええ、ええ! それはもう、紙にびっしりと!』――
――『えっはっは! 俺はどうかと思うがねぇ。こういうのは出たとこ勝負でいいんだよ』――
――『そうでしょうかぁ。私はああやって考えてくれていると思うと、嬉しい気持ちになりますがぁ』――
――『ほうじゃほうじゃ。相手の事を思うて悩む時間が大切ぜよ』――
――『ミルちゃん、時計は? やっぱり蓮ちゃん……置時計持っていこうとしよった?』――
――『……ええ……紐が付いておりました……恐らく……ぷぷっ……首からあの大きな置時計を下げて、歩き回るつもりだったようで……ございますぅッ!』――
――『『『『ぷすすすす~~~!!!』』』』――
くそ! 丸聞こえなんだよ!
せめて、ドアから離れて小声でやれ!
ったく……面白がりやがって……
だが……助かった。
クマロク製の置時計を首からさげて行こうかと思っていたが……
さすがにそれは不格好過ぎる。
……恋愛初心者の俺だって、それ位は分かってる!
分かってたからな!
「よし……明日はこの予定で街を巡ろう……」
俺は改めてしおりを眺めた。
「……多く……は……ないよな?」
これでいい、よな……?
……デートってこういう事だよな?
――《何故あのまま抱き寄せて、口づけの一つでもしないのですか》――
――《今からでも部屋に押しかけて、押し倒してしまいなさい!!!》――
チエちゃんのやつ……
そんなこと出来るわけないだろう!
まだ、念話を閉じたままだし……
「はぁ……寝なきゃ……」
――ばふぅ……
コヤネさんが洗濯したベッドシーツはサラサラでいい香りがする。
布団もフカフカだ。
気持ちがいい……
「……ふぅ……デート……かぁ……」
……今日はあれからヴィヴィと顔は合わせていない。
ヴィヴィ……楽しんでくれるかな……
…………………………
……………………
…………
あ……
……下見の時……
ばあちゃんのお土産と一緒に買った……
赤切れに……効く……
く……すり……
忘れないように……
渡さ……なきゃ……
◇ ◇ ◇
「お待たせいたしました! メシスキーさま(蓮さま)!」
午前9時――
俺とヴィヴィは予定通り、宿の前で待ち合わせをした。
あれ――?
なんか……ヴィヴィの雰囲気がいつもと違う……
なんだろう……
服装はいつもの冒険服なんだが……
なんだか、いつもより……なんかこう……
なんか……こう……
なんだ???
「って――あ……今日はお顔……蓮さまのままなんですね……」
ヴィヴィが俺の耳元に顔を寄せ、小声で囁いた。
か、顔が近い!
それに……なんだかいい匂いがする……
いつもはそんな事思わないのに……
俺はヴィヴィの顔を直視できずに、視線を辺りに泳がせながら答えた。
「う、うん……こここ、こうやってマフラーと帽子を被ってれば、大丈夫かと思って……ヤバい時はメイジシルク使うよ。名前は……メシスキーで頼むよ」
「ふふ! はい!」
えっと……最初は――
あれ? 何するんだっけ……?
昨日は覚えてたのに……
なんで???
もしかして……お……俺……き、緊張してる???
俺は胸ポケットに忍ばせたしおりを、こっそりと取り出し――
――ガサッ! ガシャガシャ! カシャシャシャ~!!!
ヴィヴィにバレないよう、これからのスケジュールを確認した。
・9時10分――大通りの露店でプレゼントを探す。
そうだそうだ……まずは大通りの露店でプレゼントを選ぶんだった。
「じゃ、じゃあ! 最初は……大通りの露店でも見に行く、が、こ、好ましいんじゃな、かろうか!」
「え?……ふふ……はい! 行きましょう」
俺たちは大通りに向けて歩き出した。
マツィーヨの街は不思議だ。
基本、冬の空気で寒いのだが――
ところどころ道沿いから噴き出る湯気が頬を撫でて……ヴィヴィが楽しそうだ……
…………んん?! 違う違う!
硫黄の匂いがする湯気の中を潜るたびに、寒いのか暖かいのか一瞬分からなくなって……ヴィヴィがこっちを見てる……
って違う! マツィーヨの街並み!!!
朝日が湯気を照らし、光が乱反射していて、幻想的で――
笑顔のヴィヴィは…………って、ちが~~~う!!!
どうした俺!
しっかりしろ!!!
「でも、いいのでしょうか。二日もお休みを頂いて」
「はっ……! も、もちろんさ! ヴィヴィはここの所、働き詰めだったからね。昨日も言ったろ? 休むのも仕事のうちだって」
「そうですね……でも不思議です。奴隷時代は休みを頂くなんて考えられませんでしたから」
「……俺もこっちに来てから必死だったから、休むって事にあまり意識が向いてなかった。ごめんね」
「あ……いえ! 蓮さまが謝ることは一つもございません! 私は蓮さまが働けと言えば、どこまでも働きますよ~! 今はこのパーティの稼ぎ頭なんですから! ふふ!」
「はは……頼りにしています……」
などと話していたら、大通りの露店についた。
のだが……
「あれ……露店がどこも閉まってる……な、なんで?!」
開いてる店が無いか、暫く歩き回り探したが、どの店も閉まっていた。
焦った俺は、通りの脇にたむろしている受験者風の魔導士に尋ねた。
「あ、あの……すみません、露店がどこも閉まってるんですけど……何でですか?」
「あ~、聖騎士団が東の丘の廃城跡に、新たな拠点を作ることを急遽発表したんだ。それで今日はその式典があるみたいでよ。みんな稼ぎ時だとそっちに行ったんじゃないかな」
「聖騎士団が拠点を?! な、なんで?! なんの?!」
「さあ、俺も知らないよ。でも、わざわざ『国落とし時代』の象徴のマツィーヨ城跡に拠点を構えるんだ……魔族絡みなんじゃないの? ほら、今回の魔導士試験、マルーク院長や特級魔導士5人も来てるだろう? 噂じゃ、10年前に凍結された魔族の掃討作戦が、いよいよ再開されんじゃないかって話だよ」
掃討作戦って……戦争じゃないか!
10年凍結されてたものが、なんで今……
俺たちは魔族の集落(本山盆地)に向かわなくちゃいけないのに……
今、戦争なんて始まったら……
「なんで、帝国は掃討作戦を再開するんですか?」
「いや、噂だよ、噂。本当のところを知りたけりゃ、廃城跡に行けばいいじゃないか。きっと何か表明があると思うよ」
こ~れ~は~……困った……
帝国の動向は気になるが……
俺は今――
人生初のデート中だぞ!!!
そんな物騒なイベントは要らない!
とは、言うものの――
「メシスキーさま……どうしますか? 気になりますよね……帝国の動き」
「う、うん……」
参った……完全に予定が狂った。
どうする……9時10分から9時50分の間に、プレゼントと軽い朝食をとるつもりだったのに……露店主たちがごっそり東の廃城跡に取られてしまった。
時計の針は9時40分を過ぎている。
くそ……もうプレゼントを買っていなくちゃいけない予定なのに!!!
どうしよう……
「これは――帝国を知るいい機会かもしれませんよ? 廃城跡、行ってみますか? 露店も移動してるみたいですし……いざとなったらメイジシルクで顔を変えれば……どうでしょう?」
……そうだ。
露店がそっちに移動しているなら、そこでプレゼントを買えばいい。
帝国への偵察も兼ねて……
い、一石二鳥!
……という事にしよう!
「そ、そうだね……ちょっと予定と違うけど……東の丘に向かうか」
「あ~、兄さん、帝国の表明、あるなら多分10時からだと思うぞ~。午前に動きがある時は大体10時からだから」
なに~?! 10時?!
あと20分も無いじゃないか!
東の丘まで普通に歩いて20分、もし10時から何かしらの表明があるなら、かなり急いでいかないといけない!
「買い物する時間……無いな……」
「とりあえず丘に向かいましょう。お買い物はその後でいいじゃないですか」
俺がテンパっているのを察知したのか、ヴィヴィが微笑みながら東の方角を指さした。
「ね? メシスキーさま」
ヴィヴィの笑顔が朝日に照らされ輝いている。
そう……ヴィヴィは……笑顔がいいんだ……
そんなことは出会ったあの日――
彼女にヴィクトリアと名付けたあの瞬間から……
知ってる。
知ってた。
はずなんだけど……
……知らなかった。
ヴィヴィの笑顔は……
こんなにも――
「う、うん! そそそ、そうだね! 急ごう!」
俺たちは足早に東の丘に向かった。
のっけから狂った予定……
取り戻さなくては!!!




