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140 作戦会議~これからのこと~

「ねえ、蓮ちゃん、これからどうすると? ずずずぅ」



 隠れ家の古屋で、俺たちはこたつに入り、温かいお茶をすすりながら、今後の身の振り方を相談していた。


 ゴドーさんが与えてくれた古屋は簡素な造りだったが、ヴィヴィが料理教室をやっている間、ばあちゃんが木属性の魔法で、江藤書店そっくりの内装に作り変えた。


 小上がり座敷には畳まで用意し(ばあちゃんがくさ手を細くして編んだ)、江藤書店の一階部分は、本以外ほぼ同じ造りになっている。


 そのおかげで、異国の地だというのに、妙に落ち着く。


 というか、ほとんど我が家だ。



 ――「もう寒いけん、『おこた』も作ろうや~」――



 更に、ばあちゃんはこたつを速攻で作り、掛布団はゴドーさんが手配してくれた。


 というわけで、今、俺たちは掘りこたつに入り、ヴィヴィが作ったお茶菓子を食べながら、茶をすすっている。


 追われる身分とは思えない落ち着きようだ。



「料理教室も終わったし、ずっとここに居るわけにはいかんやろ」


「そうだな。俺たちを匿っていることが聖騎士団に知られたら、ゴドーさん、ひいてはヒゼデジール全体に迷惑がかかるもんな」



 俺たちがファクタから逃れ、はやひと月。


 料理教室が終わった直後、エストキオ教会は正式に俺とばあちゃんを異端教徒としてヒズリア全土に指名手配した。


 各地の教会の掲示板には、俺たちの人相書きが張り出された。


 ゴドーさんが持ってきてくれた人相書きをみて、ばあちゃんは――



 ――「はわぁ! なんねこれ! 私、こんなに不細工じゃないやろ! それに人相悪すぎやろ!」――



 下手な人相書きに、ばあちゃんは激怒していた。


 確かに、ばあちゃんの人相書きは雑なタッチの悪人面で描かれており、教会側の悪意が滲み出ていた。


 それでも……俺の人相書きよりはマシだ。


 俺はジャケットの胸ポケットから、ゴドーさんから貰った人相書きを出し、こたつの上に広げた。



「あ~、それ、蓮ちゃんのやつやん……」



 俺の人相書きは――


 目は点、鼻と口は一本の線で描かれ、全くと言っていいほど特徴が無かった。



「なあ、ヴィヴィ……ヒズリアの人には俺の顔、こんな風に見えてんのか?」



 俺は『こたつの中』に向かって話しかけた。



「ズボッ! そ、そんなことありません! 実際の蓮さまはもっと……少しだけ……ほんの僅かに! はっきりとされています! ズボッ!」



 ヴィヴィがこたつから顔だけを出し、答えた後、また中に潜り込んだ。


 こたつを作ってからというもの、彼女はこたつの中に入り込み、受け答えの時だけ顔を出すようになった。


 それはそうと……何だよ、『僅かにはっきり』って。



「まあ、今に始まった『地味』じゃないからな……いいさ、これだけ人相書きに特徴が無いと、こっちとしてはやりやすいよ」


「ズボッ! あの……ツクシャナ共和国は――大狸商店街は大丈夫なんでしょうか?」



 ヴィヴィが商店街を思って不安そうな声をあげる……顔だけ出して。



「……ねぇ、ヴィヴィ、ちょっとお行儀悪くない? 座ったら?」


「え?! い、いえ! 私は……炭の……火の番をしないといけないので! 見てないと! これは私にしか出来ませんからズボッ!」



 俺たちの中で火属性の魔法を使えるのはヴィヴィだけだから、仕方ないけど……単純にこたつの中が好きなんだろう。


 こたつといえば猫だからな。


 猫族ホイホイだ。


 とはいえ、ヴィヴィが一酸化炭素中毒にならないよう、換気の為、定期的に布団をバフバフしないといけない。


 非常に面倒で、せっかくの暖気が逃げてしまう。


(※◤◢◤ 危 険 ◢◤◢※ 最近のこたつは電気式が多いが、このような練炭などの火を使うこたつは、一酸化炭素中毒などの危険がある。小さなお友達はこの形のこたつを見たら、絶対に中に入っちゃ駄目だぞ! 大きなお友達もだ!)



「ツクシャナは……大丈夫だよ。バルトとヒーゴ王が上手くやってくれるはずさ。バフバフッ」


 

 ツクシャナ共和国は、『俺とばあちゃんが恐怖政治で治めていた』とエストキオ帝国が発表した。


 帝国はツクシャナの中心地である大狸商店街を接収しようとしたが……


 これにクマロク国が猛反発。


 脅されていたとはいえ、『商店街を興し、発展させたのはドワーフの貢献が大きい』と主張し、その自治権を頑として譲らなかった。


 事実、大狸商店街には、バルト含め多くのドワーフが住んでいる。


 ツクシャナからクマロクへは、南に突っ切るようにクマロク街道もあり、この二国のパイプは太く、人の行き来も一番多かった。


 クマロク側の主張は対外的にも信憑性があり、エストキオ帝国も認めざるを得なかった。


 こうして大狸商店街は、『俺とチエちゃんの計画通り』クマロクが治めることになった。



「ツクシャナはクマロクの自治区になった。『裏の事情』は、バルトが住人たちに説明しているはずだ。聖騎士団の出入りはあるだろうけど、みんなは今まで通り生活できるはずさ。それより問題は――」



 教会が俺たちにかけた嫌疑は『魔族との繋がり』……つまり、ローニャとの繋がりだった。


 ローニャは、ばあちゃんと一緒に『(もり)()()()()()』を発動させ、ブンゴルド側の街を一瞬で作った後、眠り続けている。


 ローニャは江藤書店の二階でディアナが面倒を見ていたが、有事の際は商工会議所の地下、秘密基地に移動することにしていた。


 今はバルトとエリカ、ディアナの三人でローニャの目覚めを待っているはずだ。



「ローニャをそのまま大狸商店街に置いておくのは危険すぎる。どこかで俺たちと合流できればいいんだけど……」


「合流場所ねぇ。ねぇ、チエちゃん。ここ、ヒゼデジールって現世で言えば、どの辺りになるんかね?」


《そうですね、地理的に言えば、長崎の五島列島辺りだと思います。島の分布や数が非常に似通っていますから》


「はへ~、随分西に来たねぇ」



 五島列島には150以上の島がある。


 全貌を見たわけじゃないが、ゴドーさんから聞いた話ではヒゼデジールも同じような地形だった。


 ヒゼデジールは、エストキオ帝国との付き合い方も特殊なものだった。


 ゴドーさんが言うには、ヒゼデジールは『形式上』エストキオ帝国の協定国にあるそうだ。


 エストキオ教会の支部が置いてある一島を除いて、150以上ある他の島々の統制権は、すべてヒゼデジールが握っているらしい。


 一度は帝国も艦隊を率いてヒゼデジールを統治しようと動いたが、失敗に終わったそうだ。



 ――「まあ、帝国としては、西側海域を知り尽くした我々を属国として支配下に置きたいのでしょうが……ふふ……そうはさせませんよ」――



 そりゃそうだ……


 こんな入り組んだ海域を自由に行き来できるのは、この列島を知り尽くしている島民たち以外ありえない。


 そもそもこの海域において、ヒゼデジールの船隊は最強を誇っているのだそうだ。


 理由は簡単。


 ヒゼデジールの船は、他国の船隊と遭遇したら、まず別の島影に隠れる戦略をとるそうだ。


 敵船は慌てて後を追うが、それがヒゼデジールの思うつぼだ。



 ――「複雑な海域に入り込んでしまった敵船は、十中八九、浅瀬や岩場に乗り上げて座礁してしまうのです」――



 と、ゴドーさんは自慢げに笑っていた。


 つまりヒゼデジールとしては最初から戦う必要などなく、島々のあいだをうろついているだけで、相手は勝手に自滅してしまうのだ。


 最強――


 というより、『無敵』と言った方が適切だな。



 ――「ましてや帝国の大きな艦隊など、この海域にすら入れないでしょう」――



 その様な背景もあって、エストキオ帝国はヒゼデジール統治を諦め、『協定国』として扱うことに甘んじているのだ。



《ローニャさまとの合流ですか……クマロクに船が出ていれば、クマロク経由で落ち合えればいいのですが、クマロクは帝国と協定を結んでいませんからね。ヒゼデジールとの国交はないそうです》


「いや、船が出ていたとしても、これ以上クマロクに迷惑はかけられない。ツクシャナの自治で帝国側からの監視の目は強いだろうし。となると、北側――ノルドクシュ経由だな」


《そうですね。ファクタ港に引き返す選択肢はないとして――距離的にもノルドクシュ港が現実的でしょう》


「ノルドクシュっち言えば、ギルドがあるところやろ? あのマウマちゃんが居るんよね……」



 マウマさんといえば――


 そうそう!


 悪いニュースばかりじゃなかった!


 料理勝負に勝利したとき、マウマさんは俺にこう言っていた。



 ――「王さま、『約束通り』報酬は払う――だが『仕事』としてあんたはとっ捕まえる。悪りぃな」――



 俺たちが指名手配されたと同時に入ってきた情報で、ファクタの一部の貴族が『奴隷と雇用契約』を結んだそうだ。


 ドラゴ氏が言っていたように――



 ――「クエストの大小、良し悪し、依頼人の素性を問わず、報酬は必ず払う」――



 というギルドの掟を守り、マウマさんは料理勝負の報酬を完遂してくれた。


 これをきっかけに、ファクタの奴隷を取り巻く環境に変化が起こることを祈ろう。


 しかし――


 マウマさんが俺たちとの『約束』を守ってくれたのはいいが……


 それは裏を返せば、マウマさんは『仕事』も、しっかりするという意味だ。


 つまり、次に会ったら、また俺たちを『赤札の対象として』生死を問わず捕まえにくるという事……ッ!



「ノルドクシュに入港するのは仕方ないけど……俺たちが上陸するのはやめておこう。恐ろしすぎる」


《いずれにしても、ノルドクシュ港で手引きしてくれる人が必要ですね》


「ズボッ! 聖騎士団にバレないよう、ローニャさんを大狸商店街からノルドクシュまで運び、私たちに引き渡す役、ってことですね……」


「う~ん……でも大狸商店街の主要なメンバーには、大っぴらな動きはさせたくないしな」


《ノルドクシュ港で秘密裏の交渉もしないといけないので、それなりに顔の効く人物じゃないといけませんね》


「大狸商店街以外で、そんなことが出来る知り合いなんて俺たちに――」


「あ……」



 ――コトンッ



 ばあちゃんが何かを思いついたような『あ』を発し、湯飲みをこたつの上に置いた。



「おるやん……一人……ノルドクシュにも顔が効きそうで、裏の交渉ごとに強い人」


「え? 誰?」


「キンジュちゃん」


「いぃ?! キンジュ?!」



 クラーヅカで出会ったやくざ屋さんの親分、キンジュ。


 彼女は8歳くらいの子供ながら、ドルク一家を取り仕切る転生人であり、裏の顔役として、クラーヅカに君臨している。


 闇の奴隷商たちが子供たちをさらい、貴族に売りさばいていることを許せなかったキンジュは――



 ――「あいつら……舐めたことしやがって……覚悟しておきな……楽に死ねると思うなよ……」――



 彼女なりの『裏のやり方』で、奴隷商の動きを封じた。


 というより……


 消していった。


 要するに『裏の顔』を持つ、こわ~~~い少女だ。


 表向きはドルク商会を立ち上げ、うま味調味料を『どんな料理にも、一発でぶっ飛ぶ、大狸印のヤバい粉』として、売りさばいている。


 結局、兄弟の盃は交わさなかったが、ビジネスパートナーとなった。


 出来ればあまり借りを作りたくないけど……


 だが、この作戦にキンジュほど適した人物はいないのは確かだし……


 あいつに頼るしかないのか。


 キンジュかぁ~。











挿絵(By みてみん)

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