124 ノルドクシュ勢
席に着くと、長々と近隣諸国の来賓紹介がなされ、俺はその役職と名前を覚えるのに必死だった。
まあ、チエちゃんが居るから大丈夫なんだが、礼儀として頭に叩き込んだ。
主要な来賓はざっとまとめるとこんな感じだ――
――――――――――――――
【ファクタ領関係者】
(ツクシャナの森西部に位置する。現世で福岡・博多辺り)
まずは本祝賀会の主賓――
ファクタ領伯爵、イゾーノ・ナミヘール。
エストキオ教会ファクタ支部の長――
ファクタ堂司祭長、ホセ・ハセ。
ファクタを中心に大きな商会をやっている――
ザイアン商会会長、ザイアン・バース
【ノルドクシュ領関係者】
(ツクシャナの森北部に位置する。現世で北九州辺り)
ノルドクシュとファクタを太いパイプで繋ぐ――
ノルドクシュ=ファクタ駐在大使、ヤマーキ・ドラゴ。
クシュ大陸において最大の規模を誇るノルドクシュギルド――
副ギルド長、ターロ・マウマ。
【ヒゼデジール領関係者】
(ファクタの西部に位置する。現世で佐賀・長崎辺り)
ヒズリア西部の海路を担う――
ヒゼデジール=ファクタ駐在大使、カイドウ・ゴドー。
――――――――――――――
他にもファクタの貴族たちが多く参加しているようだが、ナミヘール伯爵の顔を立て、みな個別の挨拶は差し控えていた。
それにしても、ツクシャナを中心に完全に西側と北側勢力の人間ばかり。
南と東、つまりクマロクやブンゴルドからは誰一人呼ばれていない。
ブンゴルドもクマロクもツクシャナの友好国……露骨にもほどがあるだろう。
笑顔で頬が引きつり始めた頃、全ての来賓と挨拶を終え、ナミヘール伯爵がようやく開会の言葉に移った。
「――皆々様、本日はようこそイゾーノ家の屋敷へお越し下さいました。ツクシャナ共和国建国を祝うこの佳き日に、ご参集賜りましたこと、領主として、また一市井の民として、心より厚く御礼申し上げます」
ナミヘール伯爵の挨拶が始まってすぐに、ノルドクシュ副ギルド長、ターロ・マウマ氏が声をあげた。
「おい、イゾーノさんよぉ。みんなあんたのことは知ってんだ。今更ダラダラと話すこともあるまいよ」
「マウマどの……は、はは、そうですな。皆さま我がイゾーノ家とはご懇意にして頂いている方々ばかり……こうしてお集り頂いて――」
「だから、そういうのはもういいからよ。それよか、俺はツクシャナの王様の話が聞きたいんだよ。どうしたら、あの『死の森』を纏め上げられたのかをよ~」
マウマ氏は鋭い眼光を俺に向けた。
先ほど挨拶したときにも思ったが、相当な巨躯だ。
カリスとタリナも大きかったが、それ以上――2m以上は優にある。腰をかけている来賓用の大きめの椅子が、まるでファミレスのお子様椅子に見えてしまうほどだ。
凄い筋肉だな……肩から腕の筋肉が丸太のようだ。猪族であるドンガの筋肉も凄いが、マウマ氏の方が更に一回り大きく見える。恐らくこの会場で一番のガタイだろう。
素肌に革製のベストを身に着け、毛皮のマントを羽織っている。ベストから覗く胸板は厚く盛り上がり、彼が動くたびにギシギシと音をたて、肉の密度を連想させる。
まあ、要するに……この中で一番強そうだ。
「ほっほっほ。マウマ氏のおっしゃる通りでございますなぁ。私も大変興味がございます。それに救い主さま、江藤伊織さまの神かかった御業のお噂、ファクタでも持ちきりでございましてな。そちらの方も是非お聞きしたいですなぁ」とノルドクシュ=ファクタ駐在大使のヤマーキ・ドラゴ氏が続いた。
ドラゴ氏も老齢で小柄ではあるが、柔らかい笑顔と裏腹にその眼光は鋭く、テーブルの上に置かれた両手の拳には、まるで『たこ焼き』をつけているかと見紛うほどの大きさの拳ダコがあった。
どうしたらあんな拳になるんだ?
いや、答えは簡単か……
何かしらをむっちゃ『ボコボコ』にしてるってことだ。
この人、冒険者じゃなくて大使だよね? その拳、必要?
ノルドクシュは荒くれ者が多く、それをギルドが纏めていると聞いていたが、この二人を見て納得がいった。
「ドラゴのじっちゃんもこう言ってんだ。なぁ? イゾーノさんよ」とマウマ氏が不敵な笑みを浮かべる。
ノルドクシュの面々とファクタの面々……面白いほどに色が分かれているな。
ノルドクシュ側は武闘派、ファクタ側は教会色の上品なお坊ちゃん的な雰囲気が強い。貴族の街だからお坊ちゃんなんだろうが、まあ、とにかくノルドクシュの二人の威圧感は凄まじい。
「そうですな……それは私も非常に興味があります。他の皆様もきっとそうでございましょう。では、私の挨拶は抜きにして……さっそく田中さまからのお言葉を頂きましょう」
ナミヘール伯爵はノルドクシュの二人の顔色を窺うように答えた。周りにそっと目をやると、他の貴族たちは顔を俯せ悟られぬよう、しかし悟らせるように笑みを浮かべている。
ん~。何となくこの場の関係性が見えてきた。
ナミヘール伯爵はノルドクシュの二人に頭が上がらない。そして他の貴族たちは、この会をイゾーノ家が取り仕切ることを快く思ってないって事か……
貴族社会もなにかと大変そうだな。
さてと……挨拶かぁ、相変わらず苦手なんだよなぁ。
「えっと……改めまして、ツクシャナ共和国の田中蓮と申します。まず初めに、本日このような盛大な祝賀の席を設けていただきましたイゾーノ・ナミヘール伯爵に、心より御礼申し上げます。そしてお忙しい中、皆さまにお集まりいただけたこと、本当に感謝して――」
「おう、王様よぅ、分かってんじゃねえか。俺たちもそんなに暇じゃねぇんだよ。分かってんなら下らねぇ紋切り型の挨拶はいいからよ、俺たちの質問に答えてくれよ」とマウマ氏が捲し立ててきた。
今……こっちが喋ってるでしょうが! せっかちな人だなぁ。
「えっと、マウマどのの質問というのは……どうやってツクシャナの森を纏めたのか、ということですね」
「おう」
「え~、ツクシャナの森における建国宣言ですが、わたくし共は国の単位を共和国と位置付けております。単純な一国ではなく、それぞれの部族がそれぞれの文化に理解を示し、手を取り合ってより良い環境を作ろうという――」
「んなこた分かってんだよ。だから共和国なんだろう? 俺が言ってんのはそういことじゃねぇんだよ。ツクシャナは死の森だ。手練れの冒険者だって、そうそう手を出せないほどに魔物が強かったんだ。それもあってツクシャナの部族は森の外周で細々と生きてた……だがよ、聞くところによるとあんた、森の中心に街を作ったんだって? なんだったか、オーダヌキだったか?」
「え、ええ。小さな商店街ですが……」
「どうやって作ったんだよ? あんな魔物の巣窟で」
「そ、それは……」
「なんであんな森の中に商店街作ろうと思ったんだよ? 変だろ。それにギルドの偵察部隊に聞いたところによると、小さいどころか立派な街らしいじゃなねえか。そんな街が短期間で……というより、湧いて出たように出来たそうじゃないか。解せねぇぜ。本来ならこんな下らねえ場、性に合わなくて来たくなかったんだが、興味があってよ~。答えてくんねぇか?」
なんだこれ、もはや尋問じゃないか。
どうする……これ、答えを間違うと大変なことになるぞ……
エストキオは転生人に対して極秘裏の研究をしているとの噂だ……俺たちが転生人ということは伏せておいた方が無難だ。しかも街まるごと転生した――なんて絶対に知られてはいけない。
俺が答えに困っていると――
(蓮ちゃん、蓮ちゃん……)
ばあちゃんがチャットルームで念話してきた。
(ここはばあちゃんに任しんしゃい。都合よう話しちゃるけん)
(ばあちゃんが? いや、それ、めちゃくちゃ不安なんだけど……)
(なんばいいよるとね。こう見えて100年近く生きとるとばい。任せとき!)
そう言うとばあちゃんはマウマ氏に向かって話し始めた。
「はいはい! 私が答えます! え~っとね。私、魔法が使えるんよ」
「魔法?」
「そう、街を作れる魔法。森具智秘露呼っちゅう、魔法。その魔法で大狸商店街を作ったんよ、一瞬で」
会場中がその一言にどよめいた。
貴族たちはひそひそと隣の者の耳を借り、その小声が一つの大きな波となり会場に響いている。
しかし、なるほど……森具智秘露呼か。それなら実際にブンゴルド街道と街並みを作った瞬間を目撃した者もいる。あながち嘘にはならない。
「森の中心に旅人たちが休める場所があったらいいなぁ~っち思ってね。やけん商店街ば作ったったい」
――マウマさま……よろしいですか――
ここで後ろに控えていたマウマ氏の部下が彼に耳打ちをした。恐らくブンゴルド街道の事だろう。
「おう、そうか……分かった、下がれ」
「はっ……」
「……なるほどね、そちらの救い主さまが魔法で街を作ったってのは本当らしいな。部下の聞き込みでも皆そう言っているそうだ」
あの時、全てを目撃したのは子供たちだけだった。口止めはしたものの――やっぱり漏れたか。でもそのおかげで言い訳が立った。これなら、大狸商店街が転生してきたことも隠し通せるぞ……やるな、ばあちゃん。
「では、あの天をも貫くご神木も、その森具智秘露呼という魔法で?」とドラゴ氏がたこ焼き拳をさすりながら問いかけてきた。
じいさん……怖いってその仕草……
「いや、あれはまた別の森湧顕地っちゅう魔法やね。あれは危ないけん使うなっち、蓮ちゃんに言われた」
「森湧顕地……聞いたことのない魔法ですな」
そりゃそうだ。どこの世界にそんなふざけた魔法があるんだよ。ばあちゃんのオリジナルだ。
「伊織さまは見たところエルフであるとお見受けしたが、やはりエルフと言うのは凄まじい魔力の持ち主なのですなぁ。では――森の魔物の弱体化もその魔法の力なのですか?」とドラゴ氏はさらに踏み込んできた。
これもバレるとまずい……稲荷神の加護は魔物や魔族にしか効かない。もしこいつらのような人族が攻めてきても何の効力もない。
(ばあちゃん――)
(分かっとる、誤魔化すばい)
「うぃ? 弱体化……う~ん……いや! それは知らんね。なんか知らんけど、魔物が弱くなったけん、街づくりも捗ったんよ」
「なるほど……街を作ろうと思ったところで、タイミングよく魔物が弱体化したと」
「そ、そうやね~。いや~、ほんなこつ運がよかったばい。それでね、パパっと森具智秘露呼でね。チャチャっとね!」
「……街ひとつをパパっとチャチャっとですか……」とドラゴ氏はまだ何か言いたげではありそうだったが、マウマ氏が割って入った。
「はっ! エルフってのはバケモンかよ! ああ、失礼。今のはものの例えって事で勘弁してくれ。しかしまぁ、こりゃあ、とんでもねぇ国が出来たもんだ。なぁ、じっちゃんよ」
「そうですな……蓮さまも、伊織さまのような方がいらしてさぞかし心強い事でしょう」
このドラゴと言う大使……気を付けておいた方がいいかもな。老獪な圧が終始漂っている。
「よう、ナミヘールさんよ、飯はまだかよ! 俺は腹減ったぜ! やるんだろ? 料理勝負ってのをよ!」とマウマ氏がテーブルに足をかけ言い放った。
いやいやいや、あんたが色々聞いてきたから答えてたんだろ!
なんてわがままな人なんだ……
あと、ソニン並みに行儀が悪い!
「みんなも腹、減ってるよな! おおぅ!」
――「「「は、はい」」」――
会場の面々はマウマ氏の強制圧力の問いに、同調するしかなかった。
「そ、そうですな、では早速料理勝負に入りましょう! 田中さま、よろしいですか?」
「え、ええ。もちろんです……こっちの準備は――」
俺がヴィヴィの方を見やると、彼女はニヤリと笑みを浮かべ頷いた。
「出来ています」
はぁ、なんだか気疲れするが……いよいよ料理勝負だ!
いくぞ、ヴィヴィ。
俺たちの力を見せつけてやるぞ!




