121 猫あし商会~お金って?~
「王様ぁ、お時間取らせて悪かっただぁねぇ。えへっえへっ」
御者さんはにこにこと笑顔で馬車に戻ってきた。
馬車に乗って子供たちにプレゼントって、マジでサンタクロースじゃないか……嫌な笑い方だけど。
「申し遅れたべぇ。おらぁ、猫あし商会の――」
あ、名乗る?
サンタ……サンタサンタサンタ……この流れ、絶対サンタだ。
「タクロスと申しますだぁ」
惜しい! 下の方だった!
ていうか、やっぱりここ、パラレルワールドなんだろうな。ちょこちょこニアミスがある。
「え?! 猫あし商会のタクロスって……あのタクロス会長ですか?!」
タクロスと聞いてヴィヴィが頭を伸ばし(久しぶりに出たな)、声をあげた。
「んだぁ。あんたぁ、頭伸びてるよぅ」
「そ、そりゃあ伸びますよ!!!」
「ヴィヴィ……この人、そんなに有名な人なの?」
「有名どころじゃありません! 猫あし商会と言えば、クシュ大陸からモトス大陸にかけて馬車での物流や交通を請け負ってる、最大規模の商会ですよ! 亜人の中で最も成功した人物の一人です! 大富豪ですよ大富豪!」
え……大富豪???
この人が?
全くそんな風には見えない。
髪の毛や髭もぼさぼさだし、身なりも金持ちのそれとは程遠い。
そして、ちょっと臭い。
「ええ~~~? あなたがタクロス会長?! うっそ……なんでこんなボロ馬車ひいてるんですか?!」
「んん? これがおらの仕事だもんでぇ。そらぁ馬車ひくさぁ」
「仕事って……もうお金なら沢山もってるじゃないですか」
「おうよぅ。金なら腐るほどあるさぁ~ねぇ」
「だったら見た目も……もっと身綺麗にして下さいよ! あなたは私たち猫亜人の憧れでもあるんですから!」
「えへぇっへへ~! おらぁ、そんなにかぁ?! 参ったぁ~だぁねぇ」
この人の喋り方……志村〇ん師匠のキャラクターみたいだぁなぁ。
「でも、おらぁそんなことに金は使わねぇよぅ。勿体ねぇだよぅ。嬢ちゃん、同じ猫亜人のよしみだぁ、金について一ついい事、教えといてやるべ。あ、飴ちゃん食べるけ?」
そう言うと、タクロス会長はズボンのポケットから飴玉をひと掴みとり、差し出した。
「ひ……ッ! あり、がとうございます。頂きます……」
ヴィヴィは何か思うところがありそうだったが、空気を読んで飴玉を口にした。
――カシャシャ、パクン、カロッ……
「王様も、どだ?」
「え?! いや、私は――」
タクロス会長の手に握られた飴玉――
ひとつひとつ包装はされているが、何やら紙くずや色んな毛が混じっている。
何の毛だ? どこの毛だ?
ちょっと……いや、だいぶ食がそそられない。
だが――俺も大人。
ここはヴィヴィと同じように空気を読んで飴玉を手に取った。
「はい……頂きます」
――カロッ……
飴玉は――生暖かく、周りが少し溶けていた。
本来甘くて美味しいはずなのに、非常に不味く感じる。
食と言うのは……味だけではないのだな。
「カロッ、それでタクロス会長、いい事ってなんでしょう」
俺と同じ気持ちで飴を舐めているであろうヴィヴィが会長に問いかけた。
「お嬢ちゃん、金ってのはぁ便利なもんだねぇ。金があれば、食い物も買えるし、えへへぇ、まあ、色んなものが手に入るだぁねぇ」
タクロス会長は優しく笑みを浮かべながら、ヴィヴィを見つめる。
「………………」
ヴィヴィは無言のままさりげなくマントで胸元を隠した。
「金っつうのは本当によく出来た発明でよぅ。お嬢ちゃん、そんな金の良いところ――なんだと思うだぁね?」
「お金の良いところ……? え? 物を買えるってこと以外にですか?」
「んだぁ」
「物を買う以外に??? ん~。いえ……分かりません」
「王様はどうだぁ? 分かるけぇ?」
タクロス会長は猫髭か顎髭か分からないような毛の塊をジョリジョリとさすりながら、ニヤリと笑みを浮かべ問いかけてきた。
「王様なんだからよぅ、分かるだよなぁ」
この人、俺を試しているのか。
この質問……発明といったな。
金の本質を聞いているのか?
にゃろう。こちとら商工会青年部だぞ。
街の活性化のため、金策やらなんやら駆け回ってきたんだ。
なめられてたまるか。(まあ、俺の場合は力不足で街を救えなかったわけだが……)
「いくつかありますが、中でも特筆すべきは――腐らない事。ですかね」
「おお、そうさねぇ! 王様、よう分かってらっしゃる。あんたとはぁ気が合いそうだぁ」
やっぱりそういう話か。
「当り前じゃないですか、お金は金属なんですから……」
ヴィヴィは意味が分からず、頭と尻尾を膨らませている。
「お嬢ちゃん、王様の言っていることはそういう事じゃないんだべぇ」
「??? タクロス様、どういう事ですか?」
「そうだなぁ……たとえば、どんな珍しくて美味い肉や魚でも、腐ったらその価値はなくなってしまうべ?」
「それはそうですよ、腐っちゃったら食べられませんから」
「でも、金は腐らねぇ。それは『物の価値』が、ずっとその中に保存されるってことだぁよ。みんなが『このお金で物が買える』って信じてるから、いつでもどこでも使えるんだぁ」
「あ、だから蓮さまは『腐らない』って仰ったんですね」
「んだぁ。要は金っつーのはいつでもどこでも使える『腐らねぇ信用』ってことさぁね」
「なるほど……カロロッ、コリッ」
ヴィヴィは飴玉を忙しく舐めながら、考えを巡らせている。
そう言えば、エリカにもお金の意味を教えたことがあった。(まあ、あいつの場合は特別金に頓着がない破滅型天才だが)
ヒズリアじゃあまりお金の意味まで考える余裕がないのかな。
それとも、支配階級による意図的な教育の抑制があるのか。
恐らく……後者だろう。
金の力というのは凄まじい。
支配階級にとって多くの民にその本質に気付かれると、都合が悪いのは目に見えている。
今度の町内会議で金についてみんなで話し合うのもいいかもしれない。
「まぁ、金の本質は『何かと交換できる』『物の価値を測れる』『価値の保存が出来る』の3つに要約できるわぁな」
完璧だ。そして分かりやすい。
この人……凄いな。
ヒズリアに来て、こんな風に金の本質を説く人と初めて会った。
彼は猫亜人……ヒズリアの文化風習的に、恐らくまともな教育は受けていないだろう。
恐らく自力で本質にたどり着いてる。
この人が猫あし商会の会長だって言うのは――本当なんだろう。
「そしてなぁ、ここからが金集めの秘訣なんだが……王様、お嬢ちゃん、知りたいけ?」
「はい! 知りたいです! ゴリッ! ゴリッ!」
「……是非ご教授願います。タクロス会長」
ヴィヴィのやつ、興奮してそんなに飴玉噛んじゃって。歯が折れるから気をつけなさいよ。
「お嬢ちゃん、あんた一生懸命働いた金、時には……命にも等しい金、どんな店で使いたい?」
「え? それは……ちゃんとしたお店って言うか……安心してサービスを受けられる――あ……」
「そうだぁ、気付いたねぇ。『信用』出来るところにみんな金を使いたいんだぁよ。金はなぁ、金が好きなんだぁよ。金のある所に金は集まる。言い換えれば、信用のある所に信用は集まるってこった。金集めの秘訣、えへっへぇ、それは金を集めることだぁ」
逆説的だが、まさしくその通りだ。
この人、見た目は悪いが、本物の経営者だ。
「だから、おらぁ金を貯めるんだぁ。金はいいよぅ。金の前じゃ貴族も亜人も関係ねぇもんなぁ。だだし、吹けば飛ぶような小銭じゃあ駄目だぁ。貴族も目が眩むほどの金をたらふく持ってねぇと意味がねぇ。金の魔力が足りねぇからなぁ」
「お金の魔力……ですか」
ヴィヴィはタクロス会長の言葉に、文字通り猫耳を傾け興味深そうに聴いている。
なんだろう、さっきまで不味く感じていた飴玉が――
ほんの少し美味しく感じてきた、ような気がする、かもしれない。
「うぇっへっへ、そしてこれがおらの思う金の一番良いところだけんど、金があれば……金のない奴に分けることが出来るんだぁよ。だからおらぁ、必死で働いたさぁ。脇目もふらず、金、金、金ってなぁ。だから見てみ? あの子らのあんな笑顔がおらぁ見れるんだぁよ。自分の服に金かけてる余裕なんてねぇよぅ」
彼なりの経営哲学か。
それにしても変だ。ヴィヴィが同胞といえど、これだけの知識を惜しげもなく語るとは。
「はぁ……さすが猫亜人憧れタクロス会長……勉強になりました。浅薄な意見を申し上げて、すみませんでした。バリバリッ、ゴックン」
「そうけ? 勉強になっただけ?」
「ええ! もちろんです! 私も同じ猫亜人としてあなたに負けないよう、頑張ります!」
「えへっえへっ。そらぁ良かったぁ。ほしたらばぁ、飴玉二つで――大銀貨2枚ってとこだなぁ」
・
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・
――「「はいぃ?!!!」」――
「お金取るんですか?! しかも大銀貨2枚?! ぼったくりすぎですよ!」
ヴィヴィの頭がまた伸びた。
無理もない、大銀貨2枚といえば、2万円に相当する。
「ぼったくり? 人聞きの悪い事いうんでねぇよぅ。当り前だぁねぇ。飴玉と講習料含めてその金額だぁ。これ、適正価格だぁよ。なぁ? 王様ぁ」
「蓮さまぁ!!!」
「適正価格……ですか。ふふ、確かに。この飴玉には会長の経営哲学分、価格が上乗せされてます。お支払いいたしましょう」
「王様ぁ、あんた、分かってるねぇ。良い感じだぁねぇ」
「それで……タクロス会長。ただ小銭欲しさに講義をしたんじゃないんでしょう? 何か他にお話があるのでは?」
「……んだべぇ。さすが王様ぁ、話が早い」
タクロス会長はチラチラとキュリーネさんの方を伺っている。
もしかしてこのおっさん……下世話な事を考えてるんじゃ――
「あの翼人族のお姉ちゃん、王様の従者だべぇ? い~い、女だなぁ~。あのお姉ちゃん、おらとぉ……その……『ワンチャン』ねぇかなぁ」
「無いです」
なんてこった。なんて残念なオヤジだ……
さっきの話で少し見直したのを損した気分だ。
「ええ?! 駄目かぁ?」
「駄目です。彼女はそういう事はしません。関所でも言いましたが、私の大事な仲間なんです」
「そういう事ってぇ――あんれぇ? あのお嬢ちゃん、『トビメス空輸』のキュリーネちゃんだよねぇ?」
「はい? え、ええ。そう、ですが……ご存知だったんですか?」
「そらぁ、知ってるさぁねぇ。最近ツクシャナで陸路より速い空輸便が出来たってもっぱらの噂だぁね。いや、王様がもしよかったら、おらたち『猫あし商会』と『トビメス空輸』で業務提携のワンチャンねぇかなぁと、思ってたんだぁ」
あ、ワンチャンって――そういう意味だったのか!
まっっっぎらわしいな! このおっさん!
「業務提携、ですか……いや、急な話でちょっとどうしたものかと……」
俺たちの話を空から聞いていたキュリーネさんがすぐさま舞い降り、俺に耳打ちした。
「蓮さま、この提携、絶対にした方がいいです。私ども翼人族だけではツクシャナ内部の物流は賄えません。最近は荷物の量や重量も増え、従業員も必死で働いていますが追いついていません。ご存知の通り、翼人族は重たいものを運ぶのは苦手なんです。トビメス空輸は軽量物に絞るのが得策です。良いんですか? このままでは、折角の柔らかい翼人族のお尻たちがカッチンカチンになってしまいますよ?」
キュリーネさん耳元だと喋るなぁ。
しかも、お尻たちって……俺、別に翼人族の尻にそこまで興味ないんですけど。
この人、俺のこと何だと思ってるんだろう。
ただの尻好きと思ってんのか?
「分かりました。ここでお会いできたのも何かのご縁ですし……その話、前向きに検討したします」
「えへぇっへへぇ! 言ってみるもんだぁねぇ! ワンチャンあっただぁよぅ! じゃあ、細かい内容は後ほど書面で詰めていくだぁねぇ! こりゃあ、また儲かるだべぇ~!」
こうして、俺たちはヒズリア最大手の『猫あし商会』と、思わぬところで手を組むことになった。
今回の件で俺は、人は見た目で判断してはいけないと、改めて心に刻んだ。
「えへっへへぇ~。キュリーネちゃぁん……よろしくなぁ~」
タクロス会長は垢で真っ黒になった手で、キュリーネさんと握手を交わした。
ねっとりとした視線がキュリーネさんに絡みつき、少し気まずい空気が流れた。
だが、人は見た目で判断しては――
いや……外見は内面の一番そと側。
外見も行動もある程度良くした方がいいですよ……会長。
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ヒズリア通貨
・金 貨:100,000円相当
・大銀貨:10,000円相当
・中銀貨:5,000円相当
・小銀貨:1,000円相当
・大銅貨:500円相当
・中銅貨:100円相当
・小銅貨:10円相当
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