120 ゲス御者サンタ~チャンネーとか言うな~
「ツクシャナ共和国の国王……さまですか?」
ファクタに入るために関所を超えなければならないのだが、門番があからさまに怪訝な目で俺たちを見ている。
「いや、国王と言うよりは、代表って感じなんですけど」
「代表……? はぁ、そうですか」
「あ、一応書状もあります」
「かしこまりました。上に掛け合ってみますので、少々お待ちを」
まあ確かに、俺たちはそんな偉そうな集団にはみえないだろう。
節約の為につかまえた一番安そうなボロ馬車だし、俺もばあちゃんもヒズリアの人たちからみると、変わった格好をしているし……
でも、よかった。
ちゃんと言葉が通じた。
というのも、ファクタに入ってすぐ、チエちゃんがある提案を持ちかけてきた。
それは――
――
――――
――――――
《伊織さま、蓮さま。これより先はファクタ領です。稲荷神の加護範囲外になると思われます。そうなるとお二人には言語の問題が出てきます》
「あ、そうか。言葉、通じなくなっちゃうんだね」
《そうなんです。ですが、私、思うところがありまして……お二人は大狸商店街、稲荷神社と誰よりも密接な関係にあります。ですので、加護の影響が他の者たちより強いのではないかと私は考えています》
「俺たちは特別ってこと?」
《ええ。実際に私もお二人とのつながりを他の店主より強く感じます。ここで少し試したいのですが、アポロさまのしおり、お二人ともお持ちですか?》
「うん、持ってるよ」
《では、しおりから少し距離をとって、御者の方とお話して頂けますか?》
「あ~。それで言葉が通じるかどうかってことか。分かった」
俺たちはキュリーネさんにしおりを預けて距離をとってもらい、御者に話しかけた。
「えっと……ファクタまであとどれくらいですか?」
「にゃんにゃにゃななーご? にゃごにゃるる」
何を言っているのか、全く分からなかった。
しかしその後、しおりを持つと――
「おでれえたぁ。あんたら変な言葉で話すんだもんよぅ。え? ファクタまで? もうすぐですだよ~。追加の賃金くれるなら、もっと飛ばすけどねぇ。えへっえへっ。それより、あの翼人族のチャンネー、どえらい良い女だねぇ~。ワンチャンねぇかなぁ~。あ、『チャンネーワンチャンねぇ?』ってか! えへっへぇ~!!!」
通じた。
そして御者さん……どえらいゲスだった。
《なるほど。やはりアポロさまのしおりは凄いですね。恐らくお二人に限ってはしおりを持っていれば言葉の壁は問題ないかと。ちなみにお二人がしおりから離れている間、私とのつながりも弱くなりました。どうか肌身離さずお持ちください》
「なんかこれ、Wi-Fiルーターみたいだな」
《はっ! 言い得て妙です! 蓮さま! ふふふ!》
――――――
――――
――
という事があった。
アポロのしおりが無ければ、加護の拡張も出来なかったし、俺たちは言葉の壁にぶち当たってたわけか。
余談だが、この『加護拡張のしおり』、アポロ以外が折っても効果がなかった。
そういう才能、もしくはスキルを持っているのか……いずれにしてもアポロだけの特別製のしおりだ。
何気にあいつ……MVPじゃね?
しかし――
大きな関所だな。石造りの堂々たる佇まいだ。
どのくらいの高さだろう……5階建てのマンション位か。
中央の門の両脇には、門番や兵が駐在するための建物が併設されている。
そのさらに左右には4、5メートルほどの高さの石垣が延々と続き、容易には侵入できないようになっている。
しばらくして、建物から上役の役人が出てきた。
「お待たせいたしました。タナカレンさま、エトーイオリさま、そしてお連れの皆さまですね。イゾーノ・ナミヘール侯爵からお話はお伺いいたしております。ツクシャナ共和国建国祝賀会へご来賓との事……誠におめでとうございます」
「あ、はい。ありがとうございます」
「して、お連れの方々は皆さま亜人でいらっしゃいますが、お二人の奴隷でよろしかったでしょうか?」
「はい? いや……違います。みんな私の大切な仲間です」
役人は一瞬、少し驚いたような表情を浮かべ、ヴィヴィとドンガ、キュリーネさんを見ながら続けた。
「仲間? はぁ、左様でございますか。それですと、通行料が亜人の分までかかってしまいますが、よろしいので?」
「え……? そりゃ、もちろんそうでしょう」
「奴隷の場合、所有物ですので料金は免除されますが――」
「結構です! ちゃんと私共、それと御者さんの分、併せて6人分払います!」
「はぁ……かしこまりました。ではそのように」
ヴィヴィもドンガもキュリーネさんもバツが悪そうに俯いていた。
みんな……
そんな顔するなよ! 間違っているのはこの国の制度なんだから!
あの役人もきょとんとした顔しやがって。
全く……こういう悪気なく人をモノ扱いするところがいちいち腹が立つ。
◇ ◇ ◇
――パッカパッカ……ガラガラガラガラ……
関所を越えてから、みんなの口数が減っていた。
ツクシャナの森では、あまりこういったヒエラルキーを目の当たりにすることが少なかったからな……
外に出て、改めて亜人の扱いを実感したんだろう。
それはそうと、さっきから――
――チラッ……チラッ……
御者さんがチラチラとこっちの様子を伺い、何か話したそうにしている。
「あの……何か?」
「え?! いや、えへっへ。あんたら今うわさのツクシャナ共和国の王様ご一行だったんだねぇ。おらぁ、おっでれえたぁ~よぅ~」
「いや、だから王様じゃないんです。各集落の代表みたいなもんで――って噂の?」
「そうさぁ~。あの死の森を統治した奴らが現れたってよぉ~。中でも救い主さまってのがどえれぇ方みたいでよぅ。空に森をつくったり、最近では一瞬で街をつくったりしたそうじゃねぇのぅ。あ……もしかして、そちらの狐の方が救い主さまけ?」
ばあちゃんはチエちゃんから、転生の講義を馬車の中で受け続けた。
「エロとろぴーのゆらぎ……時間じゅくのジュレ……はわわ……」
あまりに難しい話を散々聞かされて頭がパンクしたのか、今は外を眺めながら、だらしなく口をあけ放心している。
こりゃ、こっちの話なんか頭に入ってないな。
「そうです。まあ、救い主なんて言われていますが……気のいいおばあさんですよ」
「おばあさん? はぇ? ああ~。よくみたら救い主さま、エルフけ? なるほどねぇ、長命種だもんなぁ。はぁ~こりゃあ珍しいお方にお会いできたでぇ」
「エルフってやっぱり珍しいんですか?」
「んだぁ。本来エルフってのは森の守り人だからなぁ。森から出ることがあまりないんだよぅ。中には、はぐれエルフみたいなやつもおるらしいけんどねぇ」
確かサリサが一人だけ会ったことがあるって言ってたな。
あいつ、今頃どこにいるんだろう。
トトゾリアにたどり着いたのかな……
「ん~……そろそろだなぁ。王様ぁ、鼻ぁ~つまんだ方がいいべよ~」
「だから、王様じゃあ……鼻? う……ッ?!」
独特の臭気が鼻腔の奥を突き刺した。
何だろう……あまり嗅いだことのない匂いだが、何かが腐ったような、嫌な臭いだった。
「周り、よく見れぇ」
街道沿いに建物がぽつぽつとみられる。
どれも古く、家と言うよりは掘っ立て小屋に近い感じだ。
のどかな田舎の風景、と言いたいところだったが、どちらかと言うと廃村に近い雰囲気が漂っている。
「この辺り、ファクタの外周は奴隷牧場になってるんだわぁ」
奴隷牧場……キンジュが言っていたやつか。
ちらほらと亜人たちが何か作業をやっている。
手押し車で何か運んでいる者もいれば、なんだあれは……血か? 衣服を赤黒く染めた亜人もいる。
「くせぇだろう? この辺りに生まれついた亜人は、貴族街から出たゴミをゴミ街に持って行ったり、食用の魔物の解体だったり……なんつぅか、人が避ける仕事をやらされててなぁ。それも僅かばかりの金でよぅ。みぃんな、貧しい暮らしさぁ。げほっ! この辺りは腐った肉やら、使いもんにならん骨やら捨てられとるから、くっせぇんだわぁ。鼻栓あるけんど、使うけ?」
「いや……大丈夫です。慣れます」
「はぁ? 慣れ? ほお~ん……そうだぁね。それがいいべさ。鼻栓つけた王様なんて、みっともねぇもんなぁ! えへぇへ!」
「その……牧場って、帝国が管理してるんでしょう? なんでもっと環境を改善するように動かないんですか?」
俺の言葉に驚いたのか、御者さんは口をあんぐり開けて俺を見つめた。
「王様ぁ……やっぱ、あんた変わってんなぁ。神話では亜人が奴隷になったのは、原魔の呪いの償いとされとるし、仕方のない事だとみんな思っとるけんど……環境の改善かぁ……そんな事考えたこともなかっただべなぁ」
1000年前から続く教え……根深いな……
亜人たちに奴隷であることを刷り込み続け、疑問にすら思わせないようにしている。
「まあ牧場の中でも、見た目がいいやつは貴族やギルドなんかに買われていく。中でも貴族は人気さぁね。いいおべべ着させてもらって、飯も食わせてもらって、それなりの生活が出来るんだぁよ。牧場出身者にとっちゃ、誰かに買われることは、牧場から抜け出す方法のひとつだもんで。みんな喜んで買われていくさぁ。家族に金も残せるしねぇ」
「金……ですか……金より大切なものがもっとある気がしますが」
「なぁ~に言ってんだぁよ! 金が全てさぁ。金はいいよぅ。金があれば住む家も買えるし、いい飯も食える。喰うに困らないってぇのは最高だぁよ。それに金があれば……女も抱けるしねぇ~! えへっへへぇ!」
うわぁ……ゲスだなぁ。俗物感が半端ない。
商工会議所の中でも、こういう上司――
特に上の世代に多かったが……苦手なタイプだ。
「失礼ですが、御者さんは……」
「おらか? おらは……運が良かったのか、牧場生まれじゃなかったから、隷属の紋は刻まれてねぇよぅ」
御者さんはニカッっと笑い、首元を見せてくれた。
「あ、それよりも、おらの知り合いの亜人も王さまんところの――なんつったけ?」
「……大狸商店街ですか?」
「そうそうオーダヌキ! 森で迷っちまって、そこへ命からがら行ったらしいんだわ。そしたら、その街の住み心地のいいってのなんてのって驚いていたべよ」
「ええ……うちは人も亜人も関係なく暮らして貰っているので」
「だろう? それが噂になって、亜人たちみぃんな、王様んところに興味持ってんだぁよ」
「それは……嬉しい事ですね……ん?」
――「おじちゃん!」「馬車のおじちゃんだ!」――
馬車を見つけた亜人の子供たちが手を振りながら駆け寄ってきた。
「おうおう、おめえらぁ、危ねぇから近づくなぁ。王様ぁ、ちょっとばかしいいですか?」
「え? ああ、どうぞ」
御者さんは馬車を停め、荷台から大きな袋を引きずり出し、子供たちに近寄っていった。
「おじちゃん! 今日は何のお菓子くれるの?」
「私、甘いやつがいい~!」
「ほれほれぇ。慌てんなぁ、今日もいっぱい持ってきたからよぅ。ちゃんとみんなで分けるんだぁよ。それから、あとで冬用の服を届けるからぁ、それもみんなで分け合え~」
「分かったぁ! ありがとう! おじちゃん!」
「今度はモトス大陸の珍しいお菓子、探してくるからなぁ」
「は~い!!!」「また来てね! 約束だよ!」
「お~う!」
子供たちは二人で大きな袋を持って、嬉しそうにかけていった。
この人……ただのゲス親父かと思っていたが――
「みんな仲良くするんだべよ~ぅ!」
なんだか、サンタクロースみたいだな……
あれ? 俺――
なんか誤解してるのか?
ただのモブキャラのつもりだった御者さんが……
なんか絡んできそうです。
そんなつもりなかったのに……
筆がかってに……(´;ω;`)ウゥゥ




