崖っぷち
『ツーショット!』
得点にして36:39。第3クォーターが終わろうとしている中で、再び海清側にフリースローの機会を与えてしまった。
「刹那、切り替えて。落ち着けば大丈夫だから」
「............!はい!了解っす」
リバウンドに参加せず、フロントコートにて待つ2人。三春は刹那に声をかけた。刹那は自身を戒めるように頬を両手で叩き、崩れかけた心を元に戻す。
そして、海清8番のフリースロー一投目が決まった。スコアボードに40点目の数値が刻まれる。
『ワンショット!』
刹那のファウル後にシュートが外れたため、2投目が渡される。
リバウンドのため台形のラインに並んでいるのは、ゴール下から見て左に心、右に絵馬と小春の3人である。本命はもちろんリバウンドが生業の心。相手のセンターとのスクリーンアウト勝負の準備を始めた。
最後のフリースローが放たれた–––––––
「ショートッ!!」
ボールの弾道を見て瞬時に察知する。このシュートは外れる!となれば、リバウンドのためのポジション争いの始まりだ。
予想通りシュートはリングに嫌われ、ボールが跳ね上がる。ボールの向かう先は、心たちセンターのいる左サイドだ。
「頑張れっ!!心っ!!!」
アリサがベンチから叫ぶ。
(このボール、絶対取る!!)
腰を落とし、海清6番を背中で完全に抑える心。フリースローのリバウンドはディフェンス側が前に並ぶこともあって、スクリーンアウト対決は心が制した。
「............行かせない」
「‥‥‥しまった‥‥‥!」
左サイドで心がボールを掴みに跳んだ時、右にいた千夏がリバウンドから降りた瞬間スティールに向かおうとしていた。が、それを絵馬が体を張って防ぐ。身長が10cm以上違い、体格もかけ離れているが、絵馬は歯を食いしばってエースの足を止めた。全ては心がリバウンドに専念できるように。
「取った!!」
空間を引き剥がす勢いで宙のボールを掴み取った心。ディフェンスリバウンド成功だ。が、当然側には敵が密着している。
前にはボールを待つ刹那と三春がいる。そこへ繋ぐための––––––––
「心先輩!」
「小春!!」
エンドライン側から小春が走り込んでいた。スクリーンをかけてもらった時と同様、心との距離ギリギリでボールを貰った。
ボール(がある)サイドのウイングまで降りてきていた刹那へ、パスを繋いだ。
「よっしゃ!ナイスリバン、ナイスパスですみんな!」
流れに乗って敵陣ゴールへ向き、ドリブルが発進。
その刹那を阻みに来たのは相手7番だ。身長が刹那より10cmほど高い選手だが–––––––?
「このボールは絶対やらないぞっ!」
クロスチェンジでストップ、からさらにクロスオーバードリブルで揺さぶり、左側へ抜いた!
「おお、刹那ドリブル上手いじゃねえか」
ベンチから見ていた俺だが、刹那の鮮やかなドリブルについ声を上げてしまった。まあ、チビ=ドリブルってイメージがあるしな。
左サイドを走る三春、中央を突っ切る刹那。先ほどの3Pシュートに警戒したのか、三春にはガッチリマークがついてしまっている。ならばと、刹那はこのまま自分で決めるつもりで敵陣ゴールへ向かった。が、
「うっ............!」
スピードに乗った刹那に割って入ったのは、やはり千夏だった。
(くそ、どうする!?こいつさえ突破できたら点入れられるのに!)
千夏を目の前にし、無闇に突っ込んでボールロス。それだけは避けなければならない。かと言って、他に速攻に出せるパス相手はいない..................
結果、速攻は失敗。刹那がハーフラインで足止めされ、オールコートからハーフコートゲームへ展開が移行した。
(時間はまだある............!確実にここは点を取って3クォーターを終わるんだ)
今までの状況と違うのは、ディフェンスマークマンが刹那と絵馬、千夏と8番が入れ替わっていることだ。
(絵馬先輩にボールが渡せれたら点は絶対取れる!けど..................)
絵馬がミスマッチが突ける代わりに、刹那が千夏の相手をしながらボールをキープしなければならない。一瞬でも隙を見せた場合、そこで得点の機会は失われることになるだろう。
なんとかして千夏から逃れ、左サイドにいる絵馬にボールを渡したいところだ。
「............!ナイス小春!」
やはり親友同士であるが故か、刹那の一番欲しいところで小春のスクリーンが駆けつけた。
千夏の左側に小春の壁。それに引っ掛けるようにドリブルで揺さぶる。
大きく右へ––––––、テンポを変えつつ左へクロスを繰り返しながら、ディフェンスを惑わせにいく。
(スクリーンを使ってくるか、はたまた逆で来るか、ね)
千夏にその迷いを植えつけるように、刹那は何度もステップを踏んでいる。もうひとつ、時間稼ぎの意もある。ブザービートで決めれば反撃は無いからだ。
「今だ!!」
複数回に及んだステップの後に選択したルートは、小春のいる『左』。
「当然ね!!」
そもそも、パスが行くと思われる絵馬は左サイドにいるのだ。ならば刹那は左へ抜いてくるだろうと予測していた。
千夏は小春の壁をファイトオーバーしてきた。
「それも当然だよなっ!」
左の1ドリブル、の後に素早くロールターンで右に切り返した。
刹那が真に選んだのは、スクリーンが無い右側だったのだ。
「抜いたっ!!」
これで絵馬へのパスが出せる。後ろの千夏と5番の位置を確認しつつ、ボールを捌いた。
「ナイパス............!!」
ミドルレンジでボールを受け取り、ブザー音とほぼ同時にシュート––––––––––
描かれたアーチは見事、ゴールを貫いた。
「決まったっ!!ナイシュー絵馬!!」
アリサが立ち上がり、湧き上がる滝蓮だったが............
『ノーカウント!!ブザーの後です!!』
「えっ!!?」
審判の両腕が平行に広げられ、得点板に変化は無かった。
3クォーター終了、36:40。




