止まることはできないから
急なキャプテンの離脱に動揺を隠せない滝蓮メンバー。ここから追い上げというのに、アリサというチームの中核を失ってしまった。上がり始めた士気も落ち始めてしまう。
「.............よし、頑張ろう。アリサが頑張ってここまで繋いでくれたんだから。今度はわたしたちが頑張る番でしょ」
静かに口を開いたのは、5番を背に持つ心だった。ここまで頼りにしてきたアリサがいなくなった。だがそれでも試合は続く。彼女の代わりに誰かがチームの先頭に立たねばならないのだ。
「そうだね。あと少しで追いつけるんだから、諦めるわけにはいかないよ」
心の意思表示に真っ先に賛同したのは三春だった。絵馬も無言で頷く。
「キャプテンのことは心配だけど、やるしかないよな。あたしたちも頑張ろーぜ、小春!」
代わってコートに出てきた小春に声を掛けたのは、同学年の刹那。しかし、当の小春は返事をするどころではなかった。
(私がキャプテンの代わり................キ、キャプテンの代わりに試合を.............)
ガチガチに固まってしまっていた。無理もない。彼女の試合経験はゼロで、人生初の出場がこの瞬間なのだから。
「小春は5番をお願いね。4番は絵馬が。じゃあ行こう!!」
心が肩を叩くと、小春の体がびっくんと跳ねた。
「ひっ、ひゃいっ!!」
そしてこの奇声にも近い返事である。
「大丈夫かよ小春............」
さて、先ほどのルーズボールに最後に触れたのはアリサだ。つまり海清ボールからの再開となる。エンドラインでボールをセットしたのは、刹那のマークマンである8番。
ボールは4番、千夏へ出された。不慮の事故で試合の流れがリセットされたため、この1プレイは両チームにとって必ず取らねばならないものだ。故に、最も打点の高い千夏にボールが託されるのは必然と言える。
(と思ってるでしょうね)
低く構える絵馬を目の前に、冷静に視野を広く捉える千夏。
「中来てるよ!!」
「!?」
「小春!?」
逆サイドから5番がカッティングしてきた。緊張で視野が狭まった小春から切り抜けるのは容易だったようだ。
インサイドへたどり着いた5番へパスを出す千夏。 海清最大火力で攻めるより、相手チームの弱点を突くことを選んだのだった。完全フリーの5番がターンをし、ゴール下シュートに跳ぶ。
「させな.........」
ヘルプに向かおうとする心だったが、6番のスクリーンに足止めされてしまう。
5番のシュートが決まり、得点は20:30。再び10点差に戻されてしまった。そして流れは海清へ..............
「カウンター!!走れっ!!」
こだます刹那の号令で再始動する。ボールを出した三春から刹那へ、さらに流れるようなパスで絵馬へパスが通った。
速攻で取り戻せば相手にペースを奪われずに済む。だが水流に逆らって泳ぐことと同じように、無理やりペースを押し戻すのは通常の何倍も体力を消費してしまう。それでもここで踏ん張らねば勝利への道は閉ざされる。辛いことは百も承知だ、この1本は落とせない。
「............くっ」
45度からドライブを決めようとした絵馬。しかし相手の戻りが早い。オフェンスが上手く決まると、ディフェンスも上手くまわるものだ。みるみる間に海清のディフェンスが自陣を固めにくる。
「絵馬っ!」
逆サイドから三春のパスコール。絵馬はそれを一瞥しつつボールをキープする。さらに後ろから心と刹那、小春も走ってきているが............
「.............................」
「絵馬!囲まれるよ!」
ドリブラーの足が止まり、チャンスとみた7番と5番が絵馬をダブルチームにかかる。だが絵馬自身、この状況が己を研ぎ澄ませる。
(滝蓮のキャプテンはアリサだ。たぶん、1番上手いのもアリサだと私も思う。けど、)
「絵馬先輩っ!」
(滝蓮のエースは)
「私だっ!!」
左右から迫る7番と5番のわずかな間、そこをPG顔負けの強烈なドリブルが切り裂いた。
「速い!」
「いえ、それより強い........!止めるわよ、秋!」
中へペネトレイトするも、さらにディフェンスが立ちはばかる。身長が160cm台の絵馬の進撃の最後の関門となるのは、両者170cmを越えた千夏と秋だ。
シュートモーションに入る前、早めの段階で潰しにくる。
(ここだ!)
シュートコーナーから絵馬は跳んだ。上にではない、前にだ。
「!!?」
「しまったッ!ギャロップよ!」
ボールを強く抱え、柵を飛び越える馬のようなジャンプステップで長身の壁2枚をがむしゃらに突き破る。そしてゴール下の混戦をものともしない安定した着地から、ジャンプシュートを決めきった。
「っっっっつしゃあ!!」
短く拳を振り、ガッツポーズで喜びをあらわにした絵馬。
柔の攻めをアリサとするならば、剛の攻めは絵馬だ。彼女の十八番、ギャロップステップが滝蓮の危機を救った。




