何故、今、ここで。
アリサのバスカンから三春の3P。一気に6点も縮めたわけだが。チームのムードも良い。声も出てきて、足も動きが良くなり始めた。この流れ。まさか、まさかとは思うが..............
(追いつきゃしねーよな............)
いや別に、勝ってもいいんだけどな?試合勝っちゃってもいいんだけどさ................
(普通はあり得ねェんだよ。滝蓮が勝つなんて)
俺自身、なんかもう何を考えているのかわからなくなってきた。俺はあいつらに負けてほしいんだっけ。いや、勝ってもいいって数秒前思ったばかりじゃないか。あーもう、なんなんだちくしょう。
心の整理がつかず、複雑な心境でベンチに座っている。だが、俺の意識はひとりの選手に向いていた。試合開始から今現在まで、滝蓮の中心にいる選手。強豪相手に果敢に立ち向かい、逆境に置かれながらもチームメイトを鼓舞して引っ張り続けている。華奢な背中に背負っているのは4の番号、そして全国制覇という目標。
俺はコートを駆け回るアリサを目で追うようになった。
「リバウンドッ!」
海清のシュートが落ちる。こぼれ球を手にしたのは––––––
「おおっ!!」
今回のスクリーンアウトの勝者は、海清のC6番。心を押し退けてボールを奪い取る。そのままジャンプシュートのモーションへ移った。
「秋!下来てるわよ!!」
「!?」
シュートが放たれる瞬間、ボールが下から弾かれた。弾いたのはアリサだ。
再びボールはリングの上へ飛ぶ。
「心、お願い!」
「任せて!」
中途半端にシュートの体勢に入ってしまったこともあり、6番は2度目のジャンプが上手くいかなかった。これ見よがしに心はめいいっぱいに跳び、ボールを掴む。
「ナイディーです先輩たち!」
今までボールの繋ぎを担っていた刹那だったが、前線が空いていることを見てゴールへ走った。心から刹那まで一本の道が開いている。
「刹那っ!」
心のロングパス。コートの端から端までを突き抜けて、敵陣を走る刹那へボールが渡った。そのままファーストブレイク。レイアップシュートが決まった。
「やったあっ!ナイッシュー刹那ちゃん!」
ベンチの小春も立ち上がってエールを送った。
点差はみるみるうちに縮まり、もう8点差になっていた。第2クォーターが始まってからの滝蓮の8得点。これらの全ての原因は、もちろんあの選手にあった。
(アリサ自身のバスカン、そしてパスカットからのパス。そんで次はブロックか)
今もなお、コート上でチームに声がけをしながら士気を高めている。一番足が動いているのも彼女だろう。
俺自身、認めたくはないが。試合開始時の無関心は何処へやら、食い入るように試合を観るようになってしまっていた。
(アリサ。お前次は何をやるんだ?)
瞬間、歓声が沸く。海清Gの8番が出したパスが、アリサによって弾かれたのだ。バックコートへ跳ねていくボールを2人が追う。アリサが先に飛び出し、千夏が後に続いた。
「取る............!絶対勝つんだっ!!」
このボールを取れば、再度ファーストブレイクが成立して得点に繋がる。2クォーターが終わるまでに追いつく可能性も大きく上がる。
しかし、千夏も足の速さはズバ抜けており、後にスタートしたにも関わらずアリサと並走している。アリサが全力疾走しているのに対し、あちらはまだ余力を残しているようであることが表情から感じられた。
アリサの指先がボールに触れたその時。
ブチッ
「白ボール!」
コンマ1秒速くアリサがボールに触れた時、もつれた2人はクラッシュした。そのままボールは外へ。
..................いや、そんなことはどうでもいい。
「アリサぁ!!」
俺は思わず立ち上がり、大声でその名前を呼んだ。千夏とぶつかって床に体を打ちつけ、彼女は起き上がらないのだ。軽々と立ち上がる千夏とは正反対、上半身のみうずくまって立ち上がらない。どういうことだ。別段強くぶつかったわけではない。2人の体がもつれ合った結果、足をとられてしまっただけのハズだ。だのに、何故立ち上がらない。
「レフェリータイム!!タイマー止めて!!」
異常を察した海清コーチの波原先生が、オフィシャルへ指示を出す。審判も慌ててアリサの元へ走った。俺の足も無意識に動いていた。
「ぐ...........うぅ............」
プレイ中の活気溢れる姿とは一転、苦痛に歪んだ表情の彼女の元へ来た時、一目で異常であることがわかった。真っ赤に染まった顔、8分プラス数分の試合に出ただけとは思えないほどの尋常ではない汗。
「アリサっ!」
チームメイト4人も駆けつける。心が肩を貸し、ゆっくり上半身を起こした。
「大丈夫!?アリサ!」
「足が..........」
シューズを脱がすと大きく腫れ上がった足首が現れる。おそらく捻挫だが.............これだけが原因ではないだろう。
「小春!お前が代わりに出ろ!」
「は、はいっ!」
このままゲームを止めるわけにもいかず、ベンチの小春に怒鳴り散らす。この時の俺は声量の調整ができないほどに錯乱してしまっていた。
俺は倒れたアリサを抱え上げ、心に言った。
「俺が応急処置をしとく。お前がチームを指揮しろ」
一瞬驚いた表情を見せる心。だが試合は続いている。余計なことを考えている暇は無い。
「はい。先生、アリサのことお願いします」
聞き終える前にコートを出て、ベンチの裏側へアリサをお姫様抱っこで運んだ。肌が触れている二の腕とふくらはぎから、沸騰しているのではないかと思うほどの体温を感じた。
メンバーチェンジの申請をし、フィールドメンバーは心、絵馬、三春、刹那、小春となった。
「不本意だけど、これで滝蓮は終わりね」
6番が運ばれていくアリサを見ながら言った。今までのプレイで滝蓮の中心はアリサであったことは、相手をしている海清も当然理解していた。敵チームのキャプテンがコートを去り、勝ちの確率は大幅に上がった。しかし、千夏は顔を曇らせて応えた。
「そうね....................」




