反撃の糸口
放った言葉には魂か宿る。言霊なんてものが世間一般で言われてたりするが、そんなもの俺は信じない。
県大会常連の海清を相手に、当然の如く大差をつけられて崩壊寸前の滝蓮。メンバーを揃えてまだ数ヶ月も経ってないようなチームが、何年も練習を重ねてきた強豪に勝てないというのは当たり前のことだ。その実力差をほんの一言、『私は絶対に諦めない』と言うだけでひっくり返るほど世の中は甘くない。そんなんが成立したら、なんでも言ったもん勝ちになっちまうだろう。
つまりだ。今あいつらが息巻いたところで、望んだ未来が迎えられるわけがないのさ。行動力と実力がなきゃ、志だけ持っても前へは進めないんだ。
「チェック!!」
千夏のシュートに喰らいつくアリサ。限界まで腕を伸ばしてブロックに向かうも、打点の高いシュートに触れることはできない。しかし無意味ではなかった。
「.................!リバウンド!」
鬼気迫るプレッシャーを前に、シューターの千夏は自身のシュートが落ちると直感した。その通りボールはリングから溢れ落ち、ゴール下の選手たちに行方を委ねられる。
リバウンドのポジションを確保するべく、敵Cとスクリーンアウト勝負を繰り広げる副キャプテンの心。彼女の脳裏には、数秒前にアリサが放った言葉が刻まれていた。
『私は絶対に諦めないよ!頑張るって決めたから!全国制覇するって決めたから!』
(アリサはキャプテンとしてみんなを元気づけた。チームを引っ張って頑張ろうと、そして勝とうとしてる。キャプテンとしての仕事をしっかり果たしてるんだ。だったらわたしの仕事は.........!)
リバウンドは基本的にディフェンス側が有利だ。そのおかげもあり、自身より身長の高い6番を相手にポジション争いに打ち勝った。ゴール下の外に追い出し、そして––––––
「っああ"っ!!」
〔バコッ!!〕擬音で表すならこれしかあり得ない。豪快な音を立ててリバウンドを制したのは心だ。
「ナイリー!心!!」
両手でボールを掴み取り、一気に懐へ引き寄せてこれまた豪快に着地する。
(全力でチームを支える!引っ張っていくのはアリサがやってくれる。だから、それをサポートするのが副キャプテンの仕事!!)
「先輩!」
「刹那!」
カウンターのチャンス。速攻のタイミングを見逃さなかった刹那がボールを貰い、持ち前の神速で駆け上がっていく。マークマンを抜き去り、そのままハーフラインへ。
「げっ........!」
このまま運んで決めてしまおう、というところで刹那に立ちはだかったのは千夏だった。1対1のスキルや体格、経験を考慮すると、無闇に突っ込むのは得策ではない。
2クォーター始めのように、またしてもディフェンスに捕まってしまう。直前に逆サイドからパスコールが上がった。
「刹那!こっち!!」
アリサだ。彼女もまた、絶好の機会と踏んで全力で走っていたのだ。アリサを視界に捉えた刹那は、すぐさまそちらへボールを投げる。
45度でアリサにボールが渡った。が、流石に戻りが早い。敵の7番がトップの位置から迫ってきている。
「後ろ来てるよアリサ!気をつけて!」
当然仲間からの警告は聞こえていた。しかし、パスの選択肢は無い。1ドリブルでレイアップシュートの体勢に入る。
(ここで決めて流れを取り戻す!!)
アリサと7番、両者が同時に跳んだ。そして空中で互いの体が接触し––––––
ビーーーーーーーッ
「カウントッ!白7番プッシング!ワンショット!!」
笛が鳴った直後にシュートが決まる。2点が入ったことを確認したアリサは、握った拳を振って叫んだ。
「っっっっしゃあっ!!!!」
「やったあっ!ナイッシュウアリサ!」
「先輩ナイシュです!!」
喜ぶコート上の5人をベンチから見ていると、このシュートに大きな価値があることがわかる。チームの士気も一気に回復したようだ。
点数は14対28。
「え〜っと、バスケットカウントだったか?これ。第2の始めに敵がやってきたのと同じだよな」
「はい!フリースローも含めて3点プレイですよ!」
普段はおとなしい小春も興奮した様子で俺に解説をしてくる。
「まあそうか。さっきからずっとノーゴールだったしな」
それとどうでもいいが、バスカン直後のアリサの叫びが、なんでか俺の頭にすげー残っている。真剣色7割、歓喜色3割の表情で叫んだアレ。
..................................................いいや、なんでもない。
「ドンマイ。次のプレイで取り返しましょう」
相手に反撃の糸口を見つけさせてしまった7番を、キャプテンである千夏が励ました。ひとつのミスから気落ちして、さらなる失点を招くことも珍しいことではない。
海清が突き放すか、滝蓮が追いつくか。ここがターニングポイントであることに千夏は気づいていた。
「ナイスリバウンドだったよ心。刹那もパスありがとね」
「へへっ、これくらいなんてことないですよキャプテン!」
「フリースローも決めてきてよ、アリサ」
「合点!」
先程と同じようにフリースローの台形に6人が並んだ。
「ワンショット!」
審判から渡されたボールを、2回足元でバウンドさせてから持ち直す。一呼吸を置いて..................決めた。15対28。
海清のリスタート。
「まだだあっ!」
「!!?」
ボールがコートに戻された瞬間。敵PGの8番が驚愕の表情を見せた。
アリサがインターセプトをしたのだ。オフェンス側との接触を覚悟したその気迫のある動きは、終盤の土壇場のような雰囲気である。
敵陣ゴール下で、再びシュートチャンスがやってきた。
「2度も打たせないわ!」
後ろからシュートブロックに跳ぶ千夏。その腕は完全にアリサのシュートコースを阻んだ。が。
ボールは上ではなく横へ出された。ノールック、パス先の方向をアリサは向いていない。受け先は、
「三春–––––」
逆サイド零度の3Pエリアにいた三春だ。
今までの誰よりも柔らかなシュートフォームで、その3Pシュートは放たれた。
シュパッ
18対28。リングに掠りもせず、そのシュートはネットを突き抜けた。




