あくまで俺は
さてさて、2クォーターが敵キャプテンのシュートで始まったわけだが。
「んにゃろ、こんなディフェンスぶち抜いてやるっ!!」
「刹那、無理しないで!」
こちらはコートの半分も進めずにいた。当然シュート本数もゼロ。PGである刹那が果敢にドリブルで敵を抜きにかかるも、コートの4分の1を過ぎた辺りで捕まってしまう。
1年生でありながら平面の速さがズバ抜けている刹那。その足の速さを存分に発揮し、ディフェンスを1人抜く。しかし、1人を抜いてもまた次のディフェンスが現れるのだ。2人目が助けに向かうことでできた穴は、抜かれた1人目の選手が埋める。
まただ。最後にはダブルチームを組まれてボールをスティールされる。
「くそっ............!」
「みんな戻って!」
勝ち越すつもりで始めた2クォーター。1分を過ぎる頃には、逆に点差は開いていた。
選手のプレイの出来を大きく左右する、試合の流れ。試合開始直後こそ、アリサの特攻によってできた流れのおかげで滝蓮は格上のチームに食らいつくことができていた。だが、クォーターの区切りによってそれはリセットされてしまった。そこから海清のムードを引き寄せたのが、あのセットプレイというわけだ。あとはチームの実力がものを言うのみ。
「12対22。先生!」
「ああ。10点差だな」
ベンチにいる小春もこの危機を肌で感じているらしく、なにか訴えるようにこちらへ顔を向けてくる。
「タイムアウトをとったほうが..........」
「タイムアウト?作戦会議みてーなもんか?」
「は、はい。先生、お願いします........!このままじゃ..........」
「俺が申請すんのか?」
「はい!」
「はぁ............」
たぶん。今のこの俺は凄くひねくれていた。
「なあ、お前ら、全国制覇を目指してんだろ?」
「................?」
急な話題の転換に、小春はまたしても驚いた表情をする。
「相手は県レベルのチームなんだぜ?全国行く奴らなら、これくらい自分たちでなんとかできるもんだろう」
「.................」
「それに言ったハズだぞ。あくまで俺は観客。穴埋めでここに座ってやってるだけだ」
大人げねえ。まだまだ中学生で、俺の半分以下も生きてないガキたちに現実を知らしめるために。気弱な小春が反論できないことも知ってる。
でも、合ってるだろう。自身らの実力以上の目標は、絶対に達成することはできない。あいつらにはいかに自分たちが無謀な目標を掲げてんのかを、この練習試合をもって思い知ってもらおうじゃねえか。
『ナイッシューー!!!』
こうしている間に12対28。もう決まったようなものだろう。
滝蓮メンバーには、もう試合開始時のような闘志は感じられない。海清の雰囲気に押し潰されてしまうのも時間の問題だろう。動きも控えめになってきている。彼女たちももうわかっているだろう。身の丈に合わない目標なんて目指すだけ無意味なのだと。
ボールは千夏から、カッティングしてきた7番へ。
そのままジャンプシュート––––––––––
「はああっ!!!」
「!?」
海清一色の応援がこだます体育館に、バチン。バレーボールのスパイクのような音が鳴った。
ボールは外へ。
「みんなどうしたの!?まだ試合は終わってないんだよ!!?」
ブロックから降り立ったのは、滝蓮中学キャプテンのアリサだった。
「アリサ...........」
心、絵馬、三春。刹那、小春。皆諦めの方向へ気持ちが傾いてしまっている。叫ぶアリサへ集まる視線は弱々しいものだった。
「私たち、全国制覇するって言ったハズだよ!まだスタートにすら立ててないのに!こんなところで諦めちゃっていいの!!?」
「..............でも」
『無理だよ』
アリサを除いた5人、心の中ではそう思ってるだろう。けれど、言葉として吐き出せなかった。強豪校相手に16点差をつけられ、無慈悲な現実を見せられたとしても。口にしてしまえばそれで終わるのに。
「私は絶対に諦めないよ!頑張るって決めたから!全国制覇するって決めたから!」
外から聞いていると、これは自分に言い聞かせているようにも聞こえる。それもそうか。諦めの感情に襲われているのは、キャプテンであり1人の滝蓮メンバーでもあるアリサも同じだろう。
脆くなる闘志をムリヤリ奮い立たせているのは、キャプテンという地位。チームを率先して引っ張っていかねばならないという役目からだろう。
しかし、現実は現実。ここから復帰するなどとドラマチックな展開なんて、そう簡単に起こるわけでもない。
わけでもないが。わずかに、滝蓮のメンバーの眼に光が戻った。
「さあ、まず点差を一桁に戻そう!」
「「おおっ!!」」
試合展開としては、まだシュートを1本ブロックしただけだ。だが、諦めムードのやられるがままだった時とは一転。
海清の応援に割って入るほどの大声が上がった。
「............................」
俺はベンチでただ見ているだけだった。




