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領主セイト

チスタたちを率いて、領都近くの村に着いたのが、出発してから三日後だった。種族欠落者がここまで来ることはないが、領民と一緒ならなんとかなる。特に、衛兵の少ない小さな村ならば。

霞む景色に薄っすら領主館が見える。目の前の森林地帯を抜ければ領都だ。

「すまない、こんなとこで待たせることになって」

「いや、私らは問題ないよ」

ここでチスタたちには待ってもらうことにした。その間に俺とクロハでアデウス討伐の報告とチスタたちの定住を懇願することにした。出来るかどうかじゃない。やるしかない。

明くる朝、俺たちは実に2週間振りに領都に戻った。

家には父がいるかもしれないが戻らず、領主館に直行する。

領主館の階段を駆け登り、領主室の扉をやや乱暴にノックする。

返事を待って、押し開ける。蝶番が文句を付けたが、無視。

「おお、セイトか。よく戻った」

多分、今俺の顔は不機嫌マックス状態だと推測されるが、ファティオはいつもの調子で続けた。

「始めお前たちがアデウスを討ったと聞いたときはびっくりしたぞ。たった5人とも聞いたしな--」

「領主」

俺は自分の堪忍袋の緒が切れる前に、ファティオの言葉を遮った。最大限の皮肉を込めて、領主とまで呼んで。

「そう怖い顔をするなセイト。言いたいことはわかる。それも私なりに考えてある」

ファティオは俺をそう言って宥めると、

「サレス」

扉の向こうに声をかけた。

「いやいや、セイトくんがファティオに殴りかかるんじゃないかってヒヤヒヤしたよ〜」

扉を開けつつそんな事を言ったサレスは、俺とクロハに「おかえり」と笑うと、手にしていた数枚の紙をファティオに渡した。

「これがアデウス討伐の報酬だ。無論、金も用意してある。それは下でサレスから貰ってくれ」

机にある紙面には、文字がびっしり並んでいた。ファティオがペンを差し出す。

「ここと…ここにサインしてくれ。ああ、セイトだぞ」

面倒そうだったのでクロハに書かせようと思ったのがばれたらしい。

さらさらな高級そうなインクを使ってサインをする。何が書いてあるかなんて、知らん。俺のサインの隣には、領主であるファティオのサインと議長のサインもある。

「よし、フィリア地区はわかるな?すぐに行け。人を遣ってある」


フィリア地区は領都郊外の地区だ。区割りとしては、領内最大規模の地域で、商工業の発達した職人の街だ。水路が古くから整備されて、物流の起点ともなる街で、人も多く住む。確かこの地区は何処かのギルド領だった気が…。

前述したとおり、ギルド領は大変に閉鎖性が高い。基本的には通行は可能だが、入るには勇気がいる。

「お待ちしておりました。レイヤー管理局のギルド評議会の者です」

きちんと正装した男の人が俺とクロハを出迎えた。「すぐ行け、今だ」と急かされて来たわけであるからして、俺は未だに報酬の内容を知らない。

「ええーと、ここはギルド領ですよね?」

「前の認定ギルドは、議員への贈賄で解散となりました。現在は直轄領です」

ほらね?認定ギルドの解散は結構起こるんだ。

「セイトさん…いえ、失礼しました」

そこで男の人は居住まいを正すと

「セイト領主、フィリア地区はこれより貴方様の領地です」

「……もう一度いいですか?」

「ですから、フィリア地区はこれより貴方様の領地です」

「……え?」

「詳しいことは、ギルドホームにあります書類でご確認を。それでは、失礼します」

「…え、あ、ちょ…」

すたすたと男は去っていった。


状況を飲み込めていない俺とクロハは、取り敢えずギルドホームに入る。

「うわ…」

「…これはヒドイな」

ボロい、では表しきれない有様だ。というか、建物自体は新しいはずだ。だが、壁からは隙間風が吹き、天井や壁、柱と梁には無数の傷が深く刻まれ、床は土と埃で真っ白だ。さらに装飾品の類は乱雑に置かれ、その意味を為さない。どうしたらこうなるのか。

本来なら四本脚の机が三本脚になっているが、その天板の上には紙束が積まれていた。大半は注意事項が書かれているが、それらに目を通すにもここではその気になれない。

しかし、俺はようやくファティオの考えが理解できた。

ギルド領民として、チスタとリュザをここに入れれば良いのか。ギルド領はさっきも言ったが、閉鎖性が高いため、余程のことでない限り、議会が介入することはできないし、俺が勝手に招いたとすれば、ファティオの領主としての体面も保てる。

俺は外の太陽の様子をみる。白熱した太陽は、ちょうど頭上にある。

「クロハ、チスタたちを呼んで来てくれないか?」

クロハも俺と同じ回答に至ったらしく、すぐに頷き踵を返した。

俺は家に戻った。久しぶりのマイホームだが、くつろいでいられる状況ではない。案の定誰もいない家の階段を駆け登り、俺の部屋の机に直行。

紙面と睨めっこ。

あーとかうーとか唸っていると、

「セイト」

開けっ放しだった扉をノックしてクロハが声をかけてきた。

「お、来たか。済まんが、フィリアの宿まで行ってくれ。クロハは帰って来ても向こうで泊まってもどっちでもいいぞ」

クロハは頷くと階段を降りた。きっと外にはあの3人が待っているのだろう。

尚も読み進め、目が文字を受け付けなくなるころ、丁度最後の一枚を読み終えた。外はもう真っ暗だ。そして漂う美味しそうな匂い。

下に降りると、既に母が卓につき、台所に立つクロハと楽しそうに談笑していた。

「あら、居たの?」

「母さんこそいつ帰って来たのさ」

「ファティオちゃんがセイトがやらかした、って聞いて飛んで帰ってきたのよ」

やらかしたって、あんたが全部決めたんでしょうが、ファティオ領主。

「まあ、クロハちゃんから大体聞いたけどね」

そう言って母は笑った。悲しむようなことはしてないからいいか、別に気にしなくても。

「さ、ご飯にしましょ」

そうしている間に並べられた夕食は、どれも心なしか豪華になっている気がしたが、黙って食べた。

今日の夜空には半分になった月が輝いていた。

前作と小さいですが齟齬が出てしまいました…。多めに見てください。


ややこしいので、ファティオの呼称を領主→族長に変更します(次から)。

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