彩聖魔法
俺が目を覚ましたのは、クロハを中心に空気が暴れている最中のことだった。シュエの回復魔法は俺の意識をゆっくりと優しく揺り起こした。暖かく満たされた心地で俺は覚醒し、そして今までにない深刻な顔のクロハを見た。四苦八苦しているクロハを見た俺は、自然とクロハを後ろから抱きかかえていた。そして、アデウスの剣を受け止めた。何故受け止めることができたのかはわからない。屈強なリュザが馬鹿デカイシールドでも受け止められなかったものを俺は片手で受け止めていた。思い当たることがないわけではないが、言わせないでくれ。…恥ずかしい。
クロハは新しい力を手に入れようとしている。いや、もう手に入れている。ただ、使い方をわかっていないだけだ。だが、彼女には、道を見つける力を持っている。この彩聖魔法を使いこなしたとき、自らの目指す場所を見つけるだろう。そして、俺はそれを応援しようと思う。それが例え、俺から彼女が離れていってしまう道であっても。
クロハを紫色の光が包んだ。
一度閉じられた目蓋を開けたクロハの表情は明らかに変わっていた。
そして、俺は思った。
嗚呼、彼女は俺から離れてしまうのか。
クロハがアデウスを睨む。オーラは一層力を増し、それと呼応するように、天地が震えた。しかし、それは荒れ狂う波ではない。全てがクロハの支配の元にある。
亜人族の王は、それを危機と見抜いたか、目の前の敵である俺を排除すべく、ギャリッ、と押し込んできた。それに負けじと俺も力を込める。アデウスの王たる圧倒的自負心と俺の裂帛した気合が競り合い、互いの剣技魔法の光と光が混ざり合って、澄んだ音を出し続ける。
俺はちらりと後ろのクロハを見る。
その瞳は、圧倒的な力を背景にした冷酷な女王のそれだった。視界には敵しか映らない。排除すべきものは排除する。
だが、俺はその奥に揺らめくクロハ自身の心を見た。あれなら大丈夫だ。クロハは強いから、あんなものに負けて人格を変えるようなことはないだろう。やっぱり、クロハ強いな。
「俺は、お前が好きだよ」
鍔迫り合いの音に紛れた俺の告白が、クロハに届くはずがないだろうし、届く必要もない。これは宅配のクエストではない。
アデウス直下の青々とした草地の地面が黒く沈んで、黒く細い無数の槍がアデウスのその身を突き刺す。刺さった槍は、刺さったままその大きさを大きくして行く。アデウスの傷口は広がり続ける。やがて槍は大きな一本の柱となり、完全にアデウス包み込んだ。大きくそそり立った漆黒の柱はまるで、全ての光を吸収し、更に俺たちから生命力すら奪っていくように見えた。
ビキビキビキビキッ--
それに幾本もの亀裂が入り、
ビキィン--
と呆気なく崩れた。そこには、何も残ってはいなかった。いや、クロハの手に握られたアメジスト色の輝石しか残らなかった。




