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「大丈夫だ」

アデウスの左手の光が強さを増す。

クロハの口から紡ぎ出される言葉は(きら)めく光の帯となって前に出した重ねた掌に集まる。

アデウスの首の紫色の宝石が光を帯びる。

リュザはチスタの元に走っている。

アデウスが睨むのはクロハ。クロハが睨むのはアデウス。

クロハはつっかえないように、しかし最大速度で詠唱する。

「--デセオ‼︎」

アデウスの魔法が炸裂する直前、上空から光の矢が群がってアデウスに殺到する。

それは、「エルネー」。

先刻角に弾かれた魔法を、今度は詠唱付きで。

眩い光の矢は、角に干渉され光を弱める。

でも、そんなので負けるクロハではないだろう。

「ッ、プトラ!」

弱まった光が、赤を帯びてもう一度光る。

それはアデウスの首に届き、光った紫の宝石に当たる。

バチバチと炸裂音を響かせ、アデウスの攻撃魔法をキャンセルする。

ピキン、と音がしてアデウスの首飾りが落ちた。

始めてのまともな攻撃に、アデウスがたじろぐ。

--今だ!

細かく千切れた首飾りの目的の部分を奪う。細かくと言ってもその部分だけでもクロハの腕の長さほどあるが。

「……やっぱり」

そこにぶら下がるのは、紫に陽光を反射する宝石--『輝石』。


「魔法」というものが概念として登場したのはずっと前のことだ。それを科学として証明しようと試みたのが錬金術である。

ただし、当時の思想家や科学者が提唱した魔法は、完全にオカルトと混同されており、『五行思想』や『四代元素』に代表されるように、火、水、木、土、風といった「属性」があるものであるというものであった。

しかし、現実に使われる魔法とは、科学とオカルトの偶然の一致、いわば「観測はできるが推測はできなない」領域にある。

つまり、「推測」されていた属性は「観測」してみれば、無かったということだ。

しかし、属性を持つ魔法は、極々一部に存在する。

それは、普段の鍛錬では到底到達できない域にあり、普通ならば使えない。それを行使可能にするキーアイテムが『輝石』である。

厳密には定義されていない「魔力」の結晶。これを身につけることで、属性を持つ魔法、『彩聖魔法(ディネル)』が行使できる。

ディネルは、一般的な魔法--ディネルと比較して「フィネル」と呼ばれることもある--では及ばない領域に干渉することができる。瀕死状態からの完全再生、天候操作、一撃必殺…。と言っても、存在する絶対数が圧倒的に小さすぎる。現実に存在する数は二桁にも満たない数字だろう。そもそも、輝石がなんなのかというのがディネル発動の絶対条件ということ以外わかっていないのだ。

クロハが何故輝石とわかったのか。

それは、幼い頃の母の昔話で聞いたからだ。だが、今はそんなことを考える余裕はない。

両手で握り込んだ輝石を胸の前に持ってくる。魔力を輝石に集中させるイメージ。

つう、と指の間から光が漏れる。

もう少し。

ゴゴゴゴゴ、と小さく地面が震える。ガサガサと木々が揺れる。ピーピーと鳥が騒ぎたて、飛び立つ。空が割れる。

そろそろ、いい頃合いだろう。

魔力の供給をストップ。地の震えも、鳥のざわめきも収まるはずだ。

だが。

「なんで!?」

アメジストの輝石は、なおも光を強める。

紫の閃光はクロハの意思とは無関係に躍り狂い、力を乱暴に放ち続ける。

ブワッ、っとクロハの髪が重力に逆らって靡く。

天地は見えない力に震え、揺れ、音を立てる。

「…これが…ディネル…」

とても制御できない。でも、どうしたらいいのかもわからない。

「あ、セート、ダメだって、まだ動いちゃ--」

シュエの言葉を構っている場合じゃない。なんとか力の渦を収めなければ…。


ぽん、と右肩に手が置かれた。

誰の手…?

「大丈夫だ。お前ならできるぞ」

耳に慣れた落ち着いたテナーの声。伝わる体温。

後ろから腕がクロハを包む。耳元に寄せられたセイトの口から囁きに近い声で、

「ほら、前を向け。敵はお待ちかねだぞ」

と励まされる。手の中に落としていた視線を上げると、こちらを睨み続けるアデウスがいた。強大な力の渦にも抗い、今なおその足で立っている。

「アアアァァァアアア‼︎」

待ちきれないと言うように、アデウスは雄叫びを上げる。

「クロハ」

セイト。

「セイト。…怖い」

ポツリと言葉がこぼれた。

大丈夫。俺がついてる。

セイトの言葉は、直接クロハの心に届く。

ゆっくりと息を吸う。未だ荒れ狂う力の奔流の中にあって、クロハの心は始めて落ち着いた。

輝石の意思を感じ取る。

そこに封じ込まれた何かを感じる。

アデウスが大きく振りかぶってクロハとセイトを叩き斬らんとする。眼前に白刃が迫るが、

ビキィン!

と音を立てて、セイトの剣がアデウスの剣を止めた。

「クロハ」

優しい音色が耳に伝わる。輝石から暖かい温もりを感じる。

もう大丈夫。私にはセイトも輝石もみんながついてる。

瞬間、クロハを紫のオーラが包んだ。

少し説明回みたいになってしまいました(汗

多分、そろそろ完結です。

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