05-新しい街、冒険者ギルド
12月23日 色々修正。
「ニコニコ」
「ガルルルルルル」
「…………」
ザンドウの南街の宿『水宿ドゥーシェ』の酒場にて、笑顔で俺を見つめる少女、俺を睨みつける親父、困惑する俺という構図が出来上がっていた。
「……どうしてこうなった」
俺の呟きが漏れる。
本当に、どうしてこうなったんだか……。
□
馬車の旅は、あっという間に終わった。
魔物やら盗賊やらに襲われることもなく、俺は馬車の中で気力を体中に張り巡らせる練習をしていた。
ダズに教わった『気配察知』で気力を感じることができるようになったので、何かできないかと操作の練習をしていたわけだ。
2日後の夜にはザンドウの南門へ到着した。大きな門が見えた所でテンションが上がってしまい、手前で馬車とは別れた。しかし夜で門も開いてないため、近くで野営をして、翌日の朝開門の行列に並んだ。
1時間ほどして、ようやく俺の順番になった。門の開く時間を寝過ごして並ぶ羽目になったなんて恥ずかしくて言えない……。
「次! ……ん? 商人、ではないな。」
「只の旅人ですよ」
「そうか、街に入るには銅貨3枚。後身分証を提示してもらう」
身分証!? そんなものがあるのか……。どうしよう。俺持ってないけど。
「身分証を無くしてしまったのですが」
「全く、管理がなってないな。その場合は銅貨2枚が追加される。滞在期間も短くなるぞ」
金額が上がるのは予想していたが期間? 不思議に思って門番に聞いてみた。
普通の身分証を持っている者は滞在期間が10日。持っていない物は、それが5日に短縮される。期間は役場で更新することができ、更新せずに衛兵に掴まると罰金とのこと。
ついでに身分証は街の役場で発行してもらうことができるらしい。ギルド証でも同じ意味なのでどちらでもいいと補足された。
そして銅貨5枚を渡した後、三角形の石を触るように言われた。
『試石』と言われるものらしく、『殺人』『窃盗』などといった賞罰が付いているかの確認が取れる石らしい。
石を触ると青色に光った。『ん、通っていいぞ』といわれ、門を通してもらう。賞罰が付いてると何色に光るのか気になったが、それより街に入りたかった俺は街へ向かった。
「おぉ~、でっかいなぁ」
ザンドウの街は大きかった。俺が入ってきた南門の前に広がる南街。それだけでもレイゲンス村の何倍あるだろうか。
お上りさんよろしく、キョロキョロと見回していると、手を掴まれた。
「うぉっ!?」
「お兄さん! 旅人さんでしょ、宿は決まってます? 決まってないでしょ! いい宿があるです、泊まっていって下さい!」
「ちょ……うん……えっ!?」
俺に何も言わせることなく、グイグイと腕を引っ張る女の子がそこにいた。
引っ張るというより腕を胸に抱えるといったほうが正確か。腕に柔らかいものが当たっている。
腕の感触に鼻を伸ばしていると、一件の宿の前に連れて来られた。南門から歩いて5分くらいの場所だ。看板には『水宿ドゥーシェ』と書いてある。
「お一人様ごあんな~い!」
言いながら扉を開ける少女。まだ泊まるとも言ってないんだが……まあいいか。
少女に続いて扉をくぐる。食堂だろうか、数人が食事を取っていた。見回していると、こちらを見つめてくる目に気づいた。さっきの少女だ。
「んで……泊まってきます?」
「今更聞くんだ。それ」
苦笑交じりに答えると、少女は舌を出して自分の頭をコツンと叩く。
狙ってるのか……。可愛いらしい顔と行動がマッチしすぎて悔しいな。
「いいよ。幾らなの?」
泊まることを告げると、少女のパァッっと明るくなり、宿の説明を始めた。
1泊は銀貨1枚。夕食は付いているが、朝食は別途銅貨5枚が必要。自慢は各部屋に風呂が付いていることと、備え付きの水瓶からはいつでも新鮮な水が出ること。
連泊する場合は昼の12時までに料金を貰えれば部屋を取っておいてくれるらしい。だが貰えない場合は部屋の物を捨ててしまうので、気をつけなければいけない。
とりあえず銀貨を5枚渡しておく。何日いるかわからないのでとりあえず5日分だ。
連泊のサービスで朝食を付けてくれるらしいので、早速食事を頂く事になった。
この時間は人も少ないらしく、先ほどの少女と話をする。
「いや~、泊まってくれてありがとう。助かりますよ~」
「泊まるところを探していたから丁度よかったけど、いつもあんな感じなの?」
「いつもじゃないんですけどね。店を出たらキョロキョロしてるお兄さんを見て『お客さんだ!』って思ったら、つい動いちゃいました」
恥ずかしそうに頬を書きながら説明してくれる。行動が地味に可愛いなこの娘。
「あぁ、遅れたけど、俺はリュウイチ。旅人だよ」
「私この宿の従業員のツィツィ。よろしくです!」
そういえば、ギルドに行く前に服とか必要な物を揃えないとな。今の格好(カーゴパンツとTシャツ)じゃあさすがにな……。
「街に服とか売ってるお店ってどれくらいある?」
「お店? お店はここ南街にもあるけど、高級なものは北街ですね。西街はお店は少ないし。東街は……」
ん? 東街だけ歯切れが悪いな。
「東は?」
「お店もあるんですけど、他の街と違って荒れてるから。」
「なるほどな」
いわゆるスラム街だろう。やっぱりあるのね、スラム。
「そうなんだ。気をつけることにするよ。それにしてもこのスープはおいしいね」
「ホント!? 今日のスープは私が作ったの。お父さんにはまだまだ敵わないけど」
「全然美味しいよ。いいお嫁さんになれるね」
「そんな……。お嫁さんだなんて」
急にニコニコ&モジモジしだすツィツィちゃん。いちいち可愛いな……。
『ドンっ!』
テーブル前に飲み物が荒々しく置かれる。顔を向けると顎髭が生えた熊のように大きい親父が睨んでいた。
「……娘を口説いてるっていうのはお前か?」
□
い……いたたまれない…………。
こういう時は。
「ごちそうさま! 出かけてきます!!」
三十六計逃げるに如かず!
食べ終わったお皿を置いてそそくさと逃げ出した。
さて、冒険者ギルドに行く前に装備を整えよう。
まず南街の服屋で着替えを買った。
そのお店には、空手道着のズボンにそっくりなものがあった。破れることも考えて、同じものを3着買う。
上は肌にピッタリとした黒色の服に、動きやすいよう黒革製の胸甲にした。
このまま歩いたのでは人目につくかもしれない……。道着で歩いている人っていないしな。
なわけでフード付きのローブを買うことにする。落ち着いた色合いの濃い緑のものと黒色のもの。2着あれば大丈夫だろう。
ついでにボディバックを買う。このサイズから大きなものが出てくるとか……ファンタジー過ぎて胸が熱くなるな。
早速服を着替える。脱いだものと買ったものは、人気がない場所で『ふくろ』に入れていく。
お次は武器屋に向かう。
武器は籠手にすることにした。剣なんて持ってても使えないし、無手で戦うのは決定だが、相手が刃物の場合に手の甲や腕で弾ける方がより楽になるだろう。
手の甲から肘まで庇うもので、関節部は動きやすいように柔らかく。色は黒で関節部以外は硬くしてもらう。
そして脚の装備。所謂グリーブというやつだろうか。
道着の下に付けれるサイズにしてもらい、コレも同じく関節部は柔らかくしてもらう。色は白色だ。
サイズを測ってから、早速作ってもらう。2日くらいかかるそうだ。
金額は合計で金貨6枚。籠手が2枚ずつ、脚が1枚づつで作ってもらった。
出来上がりが楽しみになってきた!
そして今日の目的地、冒険者ギルドにやってきた。
扉を開けて中に入ると、左に喫茶店のようなスペースがあり、右に市役所の受付みたいなスペースがある。
右側の受付に座っている女性に話しかけた。緑のロングヘアでメガネを掛けた女性だ。この世界の女性はきれいな人が多いな
「こんにちは~」
「はい、こんにちは。どうしました?」
「冒険者の登録をしたいのですが」
「初めての方ですね。こちらの紙に名前と年齢とレベル、後は特技などを書いて下さい」
そう言って登録証と書かれた紙を渡される。
名前……リュウイチ。年齢23。レベル……5っと。特技? ……気配察知とかでいいか、とりあえず。
必要事項を記入して、紙を渡す。
「はい、有難うございます。……リュウイチさんですね。特技が……気配察知?」
「えぇ、一応スキルがあります」
「分かりました。それで、得意な武器はなんですか?」
「えっと、武器はないです」
「えっ? ……魔術師の方ですか?」
「いや、魔法とか使えないですけど」
「えーっと。武器無しで、魔法も使わないんですか?」
「はい、無刀格闘です」
「?? はぁ……?」
もしかして何か武器がないと登録できないのかな?
受付の人は?マークを出しながらも登録を進めていく。武器を使わない人なんて今までいなかったんだろうなぁ。
「わかりました。ギルド証は明日銅貨5枚と交換できます。明日取りに来て下さい、朝8時には開いてますので。ではギルドの説明をしますね」
「お願いします」
冒険者ギルドは、この街以外にもあり、一度登録すればどこの場所でも利用できるらしい。
ランクが決まっていて、上からSS,S,A,B,C,D,E,F,Gまである。
ランクは依頼をこなしていくと上がっていくが、B以上は『指定依頼』を受けた後に試験を受けないと上がれない。
依頼は、ギルドの掲示板に貼ってあるものを剥がして、受付に持っていけば受けれる。
失敗してしまうと報酬金額が請求され、合計10回以上の失敗で厳重注意。それでも失敗が続くようなら、追放となってしまう。
依頼にもランクがあり、自分のランクより下、もしくは1つだけ上の物が受けれる。FランクであればGからEまでが受けれる。
案外キッチリきまっているんだな。荒くれが多いので、そこら辺は適当なイメージがあったが。いや、多いからキッチリしてるのかな?
「とりあえずこんなものですかね。何か質問はありますか?」
説明が終わりこっちに問いかけてくる。
「いえ、特に。……あっ」
話を終わらせようとして、思い出した。狼から出た魔石について聞いてみよう。
ボディバックから(正確には『ふくろ』から)布に包んでおいた狼の魔石を取り出す。
「魔石ってここで売れるんですかね?」
「はい、こちらでも引き取ってますよ。ただし鑑定が必要なので1日かかりますが」
「では明日ギルド証と一緒に受け取りますので、よろしくお願いします」
魔石をお姉さんに渡し、席を立つ。離れたところで、お姉さんに声をかけられた。
「この色っ……。あの、これはなんの魔物の魔石ですか?」
「ヴェンウルフとかいう奴のです」
「えっ!?」
魔物の名前を告げて、俺は扉を閉めた。後ろでお姉さんが『Bクラスでも……』とつぶやいていたが、俺には聞き取れなかった。
宿に戻る頃には日も傾いていた。店主(親父)の誤解を解き、飯を食べながら気になったことを聞いてみる。
「そういえばこの街は首輪が人気なの? つけてる人が多かったけど」
そう、街を歩いていた時に目についていたのが首輪だ。普通の人も、獣耳の所謂亜人もつけている人がいた。ケモミミの方が多かったかな。
「ん? 兄ちゃんは奴隷を知らないのか?」
「奴隷……」
「首輪をしてるのは大体奴隷だぞ。東街との境に奴隷商館もある。興味があったら行ってみな」
どうやらこの世界には奴隷がいるみたいだ。
奴隷には魔術をかけた首輪を付けて、逃げられたりしないようにしているらしい。『ふ~ん』と聞き流して食事を終える。
その後、3日ぶりに風呂に入り、ふかふかのベッドで眠った。
明日はギルド証をもらって初依頼だ! 変な騒動が起こらないといいな。
これがフラグってやつだと、この時の俺は気づかなかった。
読んでいただき、ありがとうございました。
新しい街で、ようやく色々進んでいきそうです。
次回更新は16日予定です。
よろしくお願いします




