琥珀は神官を胸に抱く
2-19 聖家族 の後のお話。
ハルはわくわくしていた。
城から帰ると、まっすぐアトリエに向かう。描き溜めたスケッチをあさり始めた。
《聖家族》のお披露目に招かれたら、そこで、モデルとなった人物に会えたのだ。ユーリ王子に琥珀の舞姫カサネ、陽光の神官スオウ。
ハルの画家としての心に火がついた。また、彼らを描きたい!
聞けば、二人は婚約したという。女王は結婚の祝いに二人を描いてほしいと頼んできたが、これは丁重にお断りした。ハルからのお祝いにしたかったのだ。女王は、喜んでくれた。またの機会にしてくれるという。
スケッチを探すことしばらく、ようやっと目的の一枚が見つかった。
ヒルドレードについた翌日、眠る二人をスケッチしたもの。
ハルはにまぁっと笑った。
時は流れて、新年の儀も《鏡の舞》も、滞りなく行われ、今は見習いの認定式を待つのみとなった時季、大神殿の人々は、穏やかな日々を過ごしていた。
《鏡の舞》の舞い手は、肖像画のモデルを務めていた。画家は、カサネとスオウの時と同じ女性だった。
今日は、最後のスケッチなので、カサネとスオウも話に加わっている。
「カサネ先生とスオウ先生は、ハル先生と一緒に旅をされたんでしょう?」
女性画家がそう話を切り出した。
「ええ、ヒルドレードまで2日間一緒の馬車でした。ハルさんとお知り合いですか?」
「ふふ、私ハル先生の弟子なんです。私の前は、この仕事もハル先生がやってらしたんですよ。陰陽の一対を最後に私に譲られたんです。」
画家の発言に、皆がおお~と驚く。
「なんでも、これ以上の肖像画は描けないっておっしゃったとか。」
そうなんですか~などと、のんびりとお茶を飲みながら、話がはずむ。
「あ、そうそう、ハル先生がね、お二人に結婚祝いの絵を描いてるそうですよ?」
「え”?!」
カサネとスオウが慌てる。なにしろ、前回は聖家族のモデルにされたのだ。今度は何にされるか…。
「どうしよ~、なんかイヤな予感がする…。」
「否定できない…。」
うろたえる教師二人に、見習いと画家は、あんなにステキな絵なのにね~と首を傾げていた。
ハルが、完成した絵を持って現れたのは、10日ほど後のことだった。
神殿の入口に呼び出されたカサネとスオウを、にこにこと待っていた。
「こんにちは、ハルさん。」
「こんいちは。今日はどういったご用件で?」
カサネとスオウが戦々恐々とたずねると、ハルはうれしそうに二人の手をとった。
「いや~、いい絵が描けたんでね。大神殿に寄進にきたんだよ。」
「そ、そうですか。」
腕ごとぶんぶんとふられて、カサネはよろめきそうになるのをこらえる。
そこへちょうど神官長がやってきたので、カサネは解放された。側近のライトが苦笑している。
「ほほう、これが寄進される絵ですか。開けてみても?」
神官長が、梱包された絵を指し示す。
「ああ、ちょっと、お待ちください。女王陛下がいらっしゃってからにしましょう。」
「女王陛下」という言葉に、カサネとスオウは反応した。
まずい。非常にまずい。
エルトゥーリア女王が絡んでいるとなると、また自分達が見世物になる可能性が高い。
カサネとスオウは目配せして、そっとその場を離れようとしたが…。
時すでに遅し。
「カサネ、スオウ。どこに行くのかしら~?」
やってきたエルトゥーリア女王に、ばっちり見つかっていた。
すごすごと、エルトゥーリア女王の前に出て、絵の公開を待つことになる。
女王は、ご機嫌で、神官長やハルと談笑していた。
スオウはライトに肩をたたかれ無言で慰められ、スオウも無言でうなずき諦めを受け入れたのだった。
カサネとスオウの緊張の中、ハルは梱包を解き絵を公開した。
「題名は《タチバナートの胸に抱かれるオグナ》です!」
そこにいた人々が、感嘆の声を上げた。
胸に顔をうずめる始祖王を抱く琥珀の精霊の姿を幻想的に描いたものだった。当然その顔は、カサネとスオウ。
真っ赤になって震えるカサネにハルが追い討ちをかける。
「いや~、光の神殿で眠る二人を見たときに、どうしても描きたくなりまして…。」
そう女王に説明を始めたのだ。
「きゃぁ~、それ以上言わないで~!」
ハルにつかみかかろうとするカサネをスオウが止めた。女王は、ニヤニヤしながらハルにもっと詳しくと言っている。周囲の人々も興味津々だ。
「あきらめろ、カサネ。騒ぎが大きくなるだけだ。」
「そんな~~!」
カサネの叫びは、神殿の中にむなしくこだました。
結局、カサネとスオウが絵のモデルだということは、公にされた。色々付け足されてずいぶんロマンチックな噂が流れているらしい。が、そこまで事実と離れてしまうと、他人事になるようで、カサネもスオウも気にしていない。
それよりも、あの絵が飾られた神殿の客間に入ることのほうが、二人にとっては大問題なのであった。
照れることなく、その部屋に入れるようになるのは、まだずっと先のお話。




