ある冬の日
本編終了6年後のお話。
今にも空から白いものが降ってきそうな寒い夕方、仕事を終えたスオウは大神殿の自室に鍵をかけ、帰宅の途についた。
すれ違う見習いや神官たちと挨拶を交わしながら、建物を出る。神官は、基本神殿住まいだが、家族持ちは敷地内の一軒家に住むことができた。結婚したカサネとスオウも大神殿の部屋から移り住んだ。ライトとカルラの一家もご近所だ。
今日は、冬入りの日。暦の上では、今日からが冬となる日だ。実際、この日当たりから、雪が降り出すことが多い。
この日には、家で暖かいシチューを食べて、冬に負けないようにするのが、この国の慣わしだ。大神殿でも食堂からシチューのいい香りが漂っていた。
スオウは白い息を吐きながら、家へと向かう。家で待っている人を思い浮かべて、知らず笑顔になる。明かりのともった我が家が見えてきた。歩く速度が少し速くなった。
ドアを開けながら、声をかける。
「ただいま!」
ドアを締めてコートを脱いでいると、たたたっと小さな足音が近づいてくる。
「とーしゃま、おかーりなしゃい!」
駆け寄ってきた金髪の小さなお姫様を抱き上げ、頬をすり合わせると、琥珀の瞳をキラキラさせてきゃっきゃと笑う。もうすぐ4歳になる娘キラは中身はカサネ似だ。
「お帰りなさい。」
腕に今年生まれた息子を抱いたカサネがその後に続いた。
「ただいま。」
息子ごとカサネを抱きしめて、帰宅の挨拶をする。間に挟まれた息子が抗議の声をあげた。
「ごめんごめん。おいで、リョク。」
カサネの腕から、息子を受け取るとよだれの大歓迎を受ける。カサネと同じ濃い色の髪とスオウ譲りの緑の瞳。こちらはどうも中身も外見もスオウに似ているようだ。
「あのね、きょうはね、カルラおばしゃまのとこにいったの。ねぇねとあそんでもらったの。」
「そうか。よかったね。」
まとわりつくキラを促しながら、居間へと移動する。
「カルラ先生のところのシオンちゃんに遊んでもらったのよ。その間に私は食事の準備ができたって訳。」
カサネがこっそり事情を話してくれた。カルラとライトの娘であるシオンは一人っ子なので、キラを妹のようにかわいがっている。数年後が楽しみな美少女だ。
「あれ?シュウはまだ?」
スオウが聞くと、カサネがくすくす笑う。
「ユーリ王子のとこに顔出してから来るって言ってたわ。なんだかんだ言っても仲いいわよね、あの二人。」
「今頃、城では侍女たちがきゃあきゃあ言ってるんじゃないか?一応ふたりとも顔はいいし。」
「あら、自分と似てる二人が顔いいって、あなたも顔いいって言ってるようなものよ?」
「いや、そういうつもりでは…。」
そこにキラが割って入った。
「とーしゃま、かーしゃま、けんかはメッなの。」
「キラ、父様と母様はけんかしてないよ?ほら、仲良し仲良し。」
スオウはそう言ってカサネを抱き寄せた。
「ちょ、スオウ?!」
顔を赤くするカサネをよそに、スオウとキラは満足げだ。
「相変わらずだね~、二人とも。」
「あ、にいしゃま!」
いきなり現れたシュウに、キラは抱きついた。キラが「にいしゃま」と呼ぶので、最近隠し子説がまた浮上しているシュウであった。今は15,6歳、カサネと出会った頃のスオウそっくりだ。
生まれたときから側にいるので、キラは本当の兄と思っている節がある。
「ユーリ王子と会ってたの?」
カサネが聞くと、こくんとシュウはうなずいた。
「うん、王様と女王様もいたよ。あ、ユーリ王子の見習い決定だって。」
「ふうん、ユーリ王子がスオウの生徒かぁ。おっきくなったなぁ。」
カサネがしみじみしていると、キラがクンとにおいをかいだ。
「かーしゃま、シチューは?」
「きゃー、忘れてた!火消さなきゃ!!」
カサネはスオウの腕からでると、台所へと駆け込む。
幸いなことに、シチューは焦げることなく、美味しく皆のおなかに納まった。リョクもちょっとだけ、なめさせてもらえ、お気に召したようだ。
シュウにキラとリョクの相手を任せて、後片付けを終わらせて、今はゆっくりと皆でお茶を飲んでいる。
リョクはおなかいっぱいになって、カサネの腕の中でぐっすり寝ていた。
キラもシュウによりかかってうつらうつらしている。シュウも眠そうな目をしていた。
スオウは、そんな彼らを見て、ふっと笑った。
「なに?」
並んですわっているカサネがスオウの顔をのぞきこむ。
「いや、幸せだなぁって思って。」
カサネが花のように笑った。
「そうね、幸せね。」
スオウはそっとカサネの肩を抱き寄せた。
幸せな彼らのある冬の日。
カサネ育児休暇中のお話でした。




