30.別れの時
《鏡の舞》の奉納は終わったが、舞い手の役目はまだ終わらない。大神殿入口に掛けられる肖像画の作成である。いままで、練習に当てていた午後の時間、今度はモデルとなるのであった。
衣装を着けてずっと動けないのかと思ったら、それは衣装のスケッチをする時だけだと言われて、ほっとしたカサネとスオウであった。
40歳くらいの女性の画家は話好きで、どちらかというと楽しい時間だった。
「皆が仕事中なのに、私たちだけこんなに楽していいのかなぁ?」
カサネがぽろっともらすと、画家は笑う。
「《鏡の舞》の練習は大変だったでしょう?ならせば一緒よ。」
「それもそっか。」
「じゃぁ、心置きなく楽しもうか。」
カサネとスオウが笑いあう姿を、画家は目を輝かせながらスケッチしていった。
卒業まで二ヶ月を切ったこの頃、見習いたちの進路が次々決まっていった。多くは実家の神殿にもどるが、研究の道に進むものや、実家と関係ない神殿に勤めるものもいる。
ササラは研究者として大神殿に残ることになった。
「ササラ、ここに残るんだぁ。」
「ええ、希望が通ったの。」
「そっかぁ、そう言ってたもんね。あ、うちの兄、なんか会ったら使ってね?あんなんでもいないよりましだと思うから。」
「カ、カサネ…。」
「そういえば、ミサキもここに決まったんだってね。わたしもここに残りたかったなぁ。」
「…カサネはご実家を継ぐという大事なお仕事があるわ。私はここにいるから、いつでも来てね。研修とかで来ることあるでしょ?」
「うん…。」
「さ、早く食堂に行かないと食べそびれちゃうわよ。」
「そうだね、行こう!」
カサネは前を向いて歩き出した。
「そうか、もう卒業か。早いのぉ。」
竜の姿のまま寝転んでいたクロスが目を細め、ゆっくり頭を上げた。最初はびくついていたカサネだったが、すぐに竜の姿のクロスに慣れた。
「うん、多分これるの今夜が最後だと思う。」
そう言って、クロスの首に抱きついた。
「研修とかで来ることもあるから、その時にはまた来るよ。」
スオウがクロスの足をポンとたたく。
「ほう、じゃぁ大人になった嬢と坊に会えるのを楽しみにしていようかの。なに、寝ておればあっという間じゃ。」
ふぉふぉふぉとクロスは楽しそうに笑った。
名残を惜しみながらクロスに別れを告げる。
「琥珀の嬢ちゃん、光の坊、楽しかったよ。またの~。」
クロスは、いつも通り二人を送り出してくれた。
女王は、二人の舞にとても感動したの!と、肖像画を陰陽の一対の隣に掛けることを決めた。
更に、神官の認定式の後行われるカルラとライトの結婚式で、祝いの舞を舞ってほしいと依頼した。
「神官としての初仕事よ!」
毎週のようによばれるようになったお茶会で、嬉々とした女王が告げる。皆が諦めろという目でカサネとスオウを見ていた。
神官長にはオッケーとってあるから、と言われれば、二人が否と言えるわけもなく。
顔を見合わせ「お受けします」と、頭を下げるしかなかった。
認定式の朝、カサネとスオウの肖像画が、大神殿の入口、陰陽の一対の隣に掛けられた。うわぁっと声があがる。
化粧をしたカサネを守るようにスオウが斜め後ろに立っていた。二人とも微笑んでいる。大きな袖で見えないが、ポーズをとった時にカサネの腰を抱いていたことは、絶対口外しないと二人で誓ったのは内緒だ。
「は、恥ずかしい…。」
自分の肖像画を皆に褒められるのは、非常に居心地が悪い。きょろきょろしていると、カサネはミサキと目が合った。
「ふ~ん、さすが専門家ね。まあまあ見られるじゃない。」
「あ、ありがとう?」
「陰陽の一対には負けるけど、あなたたちの舞、よかったわよ。じゃ。」
それだけ言うと、ミサキはぷいと行ってしまった。あっけにとられたカサネだったが、やがて笑顔を浮かべたのだった。
エルトゥーリア女王から、一人ひとり神官の認定証を授けられ、認定式は無事終了。そのままカルラとライトの結婚式へと移る。
神官服のままでもカルラは美しく、うれし涙も幸せそうな微笑も皆を感動させた。多くの女性がもらい泣きしたほどだった。
祝いの舞は、カサネもスオウも笑顔だった。神に捧げる《鏡の舞》と違い、新婚夫婦に心からの「おめでとう」をこめて舞うものだ。
神殿にいる皆が笑顔になって、結婚式はお開きとなった。
翌日、新たに神官となった者たちは、それぞれの場所へと発っていく。大陸中に散らばっていくのだ。
ハーンはすでに出発していた。手紙かくよ~と、いつものようにあっさりと。
カサネとスオウは途中まで一緒なので、同じ馬車に乗る。荷物を積み終わり、最後の挨拶をするべく、見送りの神官たちに向かう。
「お世話になりました。」
二人で頭をさげる。
「元気でね。」
「いい神官になってね。」
「がんばって。」
次々とはなむけの言葉がかけられる。
「神官になったからといって手を抜かない。一生勉強ですよ。」
アカネは最後まで厳しい。
「あなたたちに出会えた事は、とてもうれしいことでした。」
「君たちの《鏡の舞》は、忘れられないよ。すばらしかった。」
カルラとライトは感慨深げだ。
「二人とも、元気でね。」
「ササラもね。手紙かくね。」
「セナさん、お世話になりました。」
「ああ、道中よろしくな。」
最後にササラと兄に挨拶をして、馬車に乗り込んだ。
がたん、と馬車が動き出した。
カサネとスオウは身を乗り出して手をふった。皆が振り返してくれる。
「またね~。」
ひときわ大きく手をふった後、二人は大神殿に別れを告げた。
これで、見習い編終了です。
スオウ視点をいくつか入れた後、第2章に入ります。




