神官は琥珀を胸に抱く1
5話から11話までの話のスオウ視点です。
もっとも近い集落まで馬で2日かかる森の中に、日の一族の隠れ里はある。日輪王の末裔であるヴァナート様を守り、静かに暮らしていた。
僕スオウは、そこで神事を司るおばばの後継者として育てられた。
8つの時、月王を巡る争いがあって、ヴァナート様はエルトゥーリア様と結ばれ、王都へ移られた。
日輪王がいるところが神殿代わりだったのだが、不在になったため、神殿を造る必要ができた。16歳になった僕は、初代神官となるために、王都の大神殿付属の神官学校に入ることになったのだ。
カサネと初めて会ったときの印象は、「琥珀の瞳」だった。濃い色の髪に琥珀の瞳は珍しい。その後、ぼくを見ながら百面相しはじめたから、くすっと笑ってしまった。むっとしてたな。
夜の歓迎会で、子供たちにまとわりつかれてたけど、ちゃんと相手をしていた。ミオ姉にも聞いてたけど、男女関係なく打ち解けられるようだ。アカネ先生は、他の見習いたちとの橋渡しにしようと思っているんだろうな。
送っていった部屋の前で、チョコレートみたいな髪を思わず手にとったら顔を真っ赤にしてた。本当に顔にでちゃうよね、カサネは。
カイさんが好きなのはバレバレ。まぁ、カイさんにはミオ姉がいるから、実らぬ初恋だろうけど。
カサネは、気さくで楽しくて、いい旅仲間だ。馬車の中での勉強時間も、カサネのお陰で退屈しない。
そして、奉納舞!あの若さであんなに上手に舞えるなんて、信じられなかった。練習に付き合ってもらっただけで、ぼくまで上達していくのがわかった。
ラウで舞った時には、神がかっていてもうどこかへ行ってしまうんじゃないかと思った。舞の後、支えた手をなかなか離すことができなかった。
ソレスの公爵邸に着いた時、カイさんからカサネに注意事項があった。母親の公爵夫人の趣味についてだったが、どうやら、ターゲットは女性だけらしいので、ホッとした。
夕食に行くカサネと会ったときには、目をみはった。神官服におさげの女の子が、ドレス姿の令嬢になっていたんだ。ぐったりした様子に「お疲れ様」と声に出さずに慰めると、スオウは神官服のままでずるいとすねる。こういうところは、カサネだよね。
シアさんが養女だという話を聞いて、夕食時にそれとなく公爵一家を見てみた。シアさんだけ異質なのは確かだ。なんだろう…?
シアさんが攫われた。カサネの話を聞いた公爵とカイさん、ミオ姉は顔色を変えた。何か事情がありそうだが、今はカサネのほうが優先だ。
カサネは話し終わった後から、一言も話さない。泣きもしない。青ざめた顔でじっとしているだけだった。
部屋まで連れて行って、すわらせた。うつむいたまま、何もできなかったと自分を責めるカサネに、泣いてもいいんだと僕は言った。
「ここは僕だけだ。だから…。」
顔を上げたカサネは、琥珀の瞳に涙をたたえていた。
「スオウ…。」
零れ落ちる涙が琥珀の粒のようで。
かける言葉が見つからない。
僕はカサネを抱き寄せ、背中を撫でることしかできなかった。
カサネがこんなに静かに泣くなんて、思わなかった―。
落ち着いたカサネと僕は旅支度をした。おそらくカイさんとミオ姉が後を追う。それもすぐにに出発するだろうと考えてだ。
案の定、カイさんとミオさんは僕たちに黙って出発するつもりだった。
「私も連れて行ってください。」
カサネの言葉に、カイさんもミオ姉も首を縦に振らない。カサネを守れないというのだ。
「僕が守ればいいでしょ?」
ミオ姉はまだ躊躇してたけど、カイさんが勝手に着いてこられるよりはと了承してくれた。
「ちゃんと守れよ?」
カイさんの言葉に大きくうなずいた。
そう、カサネは僕が守るんだ。




