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11.2 くそったれからの贈り物


 以前、王都から帝都へで2ヶ月の旅を経験したからか、たった10日の旅はあっという間に過ぎていき、そろそろ旅が終わる。


 そろそろと言っても2日3日とかそんな単位ではない、30分とかそのレベルのそろそろだ。


 今通っている場所はだいぶ前、俺とカレンが初めてキメラと戦ったあの辺りで、本当に街のすぐ近くだな。


 あ、なんか嫌な予感がする。


 その予感は当然のように的中する。


 空は裂け、漆黒よりも黒い穴が空く。この穴、キメラが出てくるたびに、だんだんと不気味さが増している気がするな。


 しかし、そんな穴の中から出て来たのはキメラではなかった。


 出て来たのは1人の白衣の男。俺はこの男を知っている。


「ゲオルク…フィッツロイ…!」


 俺の言葉に、事情を知るカレンとジンは驚いた様子でこっちを見る。


「やあ、久ぶりだね。柊健くん」


「何の用だ!?」


「おいおい、そんなに声を荒げるなよ。新しい仲間ができたことを我輩なりに祝おうと思って、プレゼントを持ってきたんだよ」


 ゲオルクがそう言うと、空中にもう1つの穴が空く。


 その穴から、ドスンと巨大なキメラが落ちる。


 その姿はまさしくキメラだった。ギリシャ神話で語られるキメラはライオンの頭に、ヤギの胴体、毒ヘビの尻尾を持つ。


 今回のキメラはその神話通りの姿だった。大きさもかなり大きく、小柄なカレンであれば丸呑みできるんじゃないかというほどだ。


「何がプレゼントだ!殺す気満々じゃないか!」


「パーティの構成が変わって戦闘の練習がしたかったのだろう?我輩はちょうど良いプレゼントだと思うが。そうそう、もし、そのキメラが『憤怒』クラスの強さを持っていると考えているなら、安心して良い。そいつはそんなに強くはない。この間の『憤怒』で致命的な弱点が見つかってしまったからな。あのクラスの個体はまだ調整中なのだ。それらは準備ができた個体から順次送り出すから楽しみにしておいてくれよ。では、励み(たま)え」


 前と同じようにやはりゲオルクは自分の言いたいことだけをベラベラと話すだけ話して去ってしまった。


 ゲオルクが去ると、空中に空いた穴は2つとも綺麗に消えた。


 色々と複雑な状況になってしまったが、まずはこのキメラを倒す。それ以外のことはその後だ。


 俺はキメラの強さを測るためにキメラの赤黒い水晶のような角の大きさを見る。


 ゲオルクはそんなに強くないとは言っていたが、角の大きさは俺達が戦ったどのキメラよりも大きかった。


 何がそんなに強くないだ、適当なこと言いやがって。


「ケン、どうする?」


「ちょっと待て、今考える」


 ジンが威圧しているからか、キメラはまだ様子を見ているだけで襲って来ない。


 どうやって倒すか。


 ジンの毒は身体の大きな敵には効かないか、効きが遅い。


 カレンの魔術は強力だが、倒せるかどうかはわからないので、安易に使ってしまうのはカレンの魔力の枯渇につながり危険だ。


 俺の見立てでは、この2人の攻撃以外にキメラに致命傷を与える可能性を持つ攻撃はできない。


 ダメだ、良い策が思いつかない。


 俺が考えあぐねていると、キメラ口を大きく開いた。


 そして、火炎放射器さながら、その口から灼熱(しゃくねつ)の炎を吐き出した。


「《()き止める水の壁 ウォーターウォール》」


 カレンが水の壁でその炎を止める。蒸発した水が湯気となって辺りを白く染めた。


「炎を吐いただと!?」


 確かにギリシャ神話上のキメラは火を吐いたはずだが、キメラを作ったであろうゲオルクは異世界人だ。なぜキメラが火を吐くことを知っている?


 そもそも、どう言う原理で炎を吐き出せるんだ?


「今のはドラゴンの吐息ですね。ドラゴンとは翼を生やした巨大な蜥蜴(とかげ)のような生物で、極少数ですが生息が確認されています。そして、その炎の吐息は鉄をも溶かすそうです」


 なるほどな、神話の再現のためにわざわざ希少なドラゴンすらもキメラの材料として使ったわけか。


 先程キメラが炎を吐き出すことを思い出した俺は、同時にもう1つキメラに対する情報を思い出していた。


 これならキメラを倒せるんじゃないか?


 早速、思考を行動に移す。


「カレン、鉄を生み出す魔法を使えるか?」


「使えますけど、どのくらいの大きさが必要ですか?」


「そうだな、あのキメラの口に入るくらい。ちょうどアイリーンが持っている剣くらいの大きさが良いな」


「わかりました」


「ちょっと待って、この剣と同じくらいの大きさで良いなら、あたしも鉄の剣を生み出すことができるよ」


 俺とカレンの話を聞いていたアイリーンがそう言った。


「なるほど。じゃあ、カレンはキメラの炎を警戒しておいてくれ、鉄を生み出すのはアイリーンにお願いしよう」


「わかりました」


「わかった」


「ウェンディはジンに俊敏性上昇の魔法をかけてくれ」


「うん、わかったよ」


「ジンはアイリーンから剣を受け取って、キメラが炎を吐こうとして口を開いたら、口の中にその剣を放り込んでくれ」


「了解了解」


 俺が作戦を伝えると、みんなは各々の行動に移った。


「《上昇する俊敏性 スピードアップ》」


「《創造する鉄の剣 アイアンソード》。ほら、ジン」


「ウェンディちゃん、アイリーンちゃん、ありがとう」


「ジンさん、そろそろ来ますよ!《塞き止める水の壁 ウォーターウォール》」


 カレンの声を聞いてキメラを見ると、その口はぱっくりと大きく開いていた。


 視線を戻すと、ジンの姿が一瞬だけ消える。


「放り込んで来たよ」


 ジンがそう告げた途端、火炎放射器のような炎が俺達を襲った。


 さっきと同じように、水の壁が蒸発した湯気であたりは見えなくなる。


 そして湯気が晴れると、そこにはバタバタと激しくのたうち回るキメラの姿があった。


「成功した。完璧だ」


「何が起こっているんだい、ケン?」


「あいつは自分の炎で溶かした鉄で喉を詰まらせて息ができないんだよ」


「へえ、溶かした鉄で喉を塞いだわけね」


 神話上のキメラは鉛を口に放り込まれ、自分で吐いた炎の熱で鉛が溶けて喉に詰まり窒息死したと言う。


 だから、俺も今回その神話通りの行動をしたわけだ。


 まあ、鉄の融点は鉛の融点の5倍くらいあるから、そこだけが心配だったが、さっきカレンが言っていたドラゴンの吐く炎が鉄を溶かすと言う説明を信じて実践したわけだ。上手くいって本当に良かった。


 そうこう話しているうちにキメラは激しい動きで体内の酸素を消費しきってしまい、静かに息を引き取った。まあ、窒息死だから呼吸が止まったのは死ぬよりも先であったので、息を引き取るという表現が正しいのかはわからないが。


 その後、カレンに魔法で角を抜いて貰い、その角を俺は収納の腕輪にしまった。


 かくして無事勝利を収めた俺達であったが、今回の戦闘は連携の練習になってしまったので、結局のところゲオルクの思い通りになったわけだ。


 なんだろう、この試合に勝って勝負に負けた感じは。


 悶々とした気分を残しながら、俺達は目前に迫ったヤポンへと向かった。

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