11.3 再会
キメラを倒した俺達は道を進み、日の高いうちにヤポンの街へと到着した。
俺とカレンからしてみれば、本当に久しぶりのヤポンだ。半年以上ぶりか?
懐かしさと感動が溢れてくる。
ギルドでキメラの角の換金をしようかと思ったが、とりあえず宿の確保と言うことで、マクスウェル一家の経営する宿屋「トワイライト」へと向かうことにした。
本当は久しぶりにマイちゃん達に会いたいって意味もあるのだが、小っ恥ずかしいので口には出さないでおこう。
街を歩き、トワイライトへと辿り着く。
久しぶりだが、ここは何も変わらないな。
俺は扉を開けて中に入る。
すると、受付にはマイちゃんがいた。
マイちゃんはこの宿屋を営むケビンさんの娘で、三姉妹の末っ子だ。歳はカレンと同じだったな。
こちらがマイちゃんと認識したと同時に、マイちゃんも俺のことを認識したらしく、マイちゃんは一瞬で驚きと喜びが入り混じったような表情へと変わる。
「久しぶり!ケンだよね!?」
「ああ、そうだよ。マイちゃん、久しぶり。帰ってきたよ」
マイちゃんは俺の声を聞くなり、涙を流し始めた。笑顔だった顔もだんだんと泣き崩れていった。
「良かった、良かったよー。王都に行くけどすぐに戻ってくるって言ってたのに、全然帰ってこないから、盗賊や怪物に襲われて死んじゃったのかと思ったよ」
まあ、確かに盗賊や怪物には襲われはしたが。
「ごめんな、色々事情があってなかなか戻れなくてな。帝都まで行っていたんだ」
泣き噦るマイちゃんの頭を撫でながら、俺は言った。思わず、もらい泣きしそうだ。
すると、マイちゃんの泣き声を聞いたマイちゃんの母親のカオルさんが奥から心配そうに出てきた。
しかし、俺の顔を見るとマイちゃんが泣いている原因がわかったようで安堵の表情へと変わり、俺に話しかけた。
「久しぶりね、ケンくん。随分と長い旅だったわね」
「はい、お久しぶりです」
「これでマイも落ち着いて仕事ができるわね」
「カオルさん、どういうことですか?」
「マイったら、毎日ずっと『今日はケン帰ってくるかな?』とか『ケン、元気にしてるかな?』とか言って仕事が手についていなかったのよ」
「ちょ、ちょっとお母さん!やめてよ!」
マイちゃんは顔を赤らめる。
驚いたり笑ったり泣いたり照れたりと今日のマイちゃんは忙しく表情を変えているな。
「それだけじゃなくってね、実はケンくん達が王都に行ってからもずっと2人の部屋だけは誰にも貸さずに取っておいたのよ。それって言うのも、マイが『ケン達が帰って来た時に泊まる場所がなかったら大変』って言って、私達を説得したからなのよ」
「やめてって!どっか行ってて!!」
「そうね、私がいたら邪魔よね」
マイちゃんにどっかに行けと言われたカオルさんはそう言うと微笑みながら去っていった。
マイちゃんの顔は耳まで真っ赤に染まっている。
「それで!ケンは泊まるんでしょ!?」
照れているからか、マイちゃんは乱暴に俺に尋ねる。
「そうだな、せっかくマイちゃんが取っておいてくれたわけだしな」
「ちょっとケンさん、その辺でやめてあげたらどうですか?」
ちょっと揶揄った俺をカレンが制止する。
「そうだな。そうそう、マイちゃんに俺達のパーティの仲間を紹介するよ」
「こいつはジン・クロス、エウロメ帝国で俺達を助けてくれて、そのまま仲間になった。発言はあれだが、基本的には良い奴だ」
「ジン・クロスだよ。全てのかわいい女の子の味方だよ、よろしくね」
そう言って、ジンはマイちゃんの手を握った。
「よ、よろしく」
誰に対しても明るく振舞っているマイちゃんが引いている。珍しい…。
「んで、この2人がニューランズ姉妹だ。2人は双子なんだけど、こっちの短い髪が姉のアイリーン。この間、仲間になったばかりだけど、剣の腕は俺よりも上手だな」
「アイリーン・ニューランズよ。よろしくね、マイさん」
「マイで良いよ、アイリーン!」
仲良くなれそうで良かった。
「そして、髪の長い方が妹のウェンディだ。援護の魔法は強力だし、基本的には良い子だ」
「ウェンディ・ニューランズだよ。よろしくね、マイ」
「うん!よろしく、ウェンディ!」
「まあ、会話の流れからだいたいわかっていると思うけど一応紹介しておく。この子はマイ・マクスウェル。路頭に迷っていた俺を拾ってくれたマクスウェル夫妻の三女だ。俺と歳が近いこともあって、この宿屋で働いていた時は1番仲良かったな」
マイちゃんはペコリと頭を下げた。
「それでケン、今回は何泊するの?」
顔を上げたマイちゃんは俺に問う。
「そうだな。とりあえず、20泊で頼む。一応、全員でここに泊まるつもりなんだけど、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。ケンはいつもの奥の部屋で、カレンはケンの向かいでしょ。ジンさんはケンの隣で、アイリーンはカレンの隣でジンさんの向かいになって、ウェンディはアイリーンの隣にすれば、大丈夫、問題ないよ」
「じゃあ、それで頼むよ」
「わかった。じゃあ、宿泊費は前払いね」
全員、それぞれの宿泊費を払って自室の鍵を受け取り、今日は解散となった。
―――
さて、部屋に荷物を置いてしばらく休んだ俺は角の換金にギルドへ行こうと部屋を出た。
すると、同じタイミングでアイリーンも部屋から出てきた。
「あ、ケン。どこか行くの?」
「俺はギルドに行って角の換金でもしてこようかと思ってな、アイリーンは?」
「外の空気でも吸ってこようかなと思って」
「なら、一緒に行くか?」
「ケンが良いなら着いて行くよ。1人で歩いてたら危ないしね」
「まあ、ここは治安も良いし、1人で歩いても大丈夫だけどな」
そう言って宿屋を出ると、日はだいぶ落ちて夕方になっていた。そんな長い時間部屋にいたつもりはなかったんだが、ちょっと急がないとな。
―――
そんなわけで俺とアイリーンはギルドへとやってきた。
俺はキメラの巨大な角を取り出し、ギルドのカウンターへと置く。
「すいません。このキメラの角を換金して欲しいんですけど」
「しょ、少々お待ちください」
ギルドの受付の人も驚くレベルのサイズの角だったようだ。
角を受付の人に渡した俺とアイリーンは適当な椅子に座る。
「あたし、キメラと戦ったの初めてだったけど、意外に強くないね」
「いや、今回たまたま作戦がうまくいっただけで、本当ならもっと苦戦してたぞ。あの角の大きさなら、俺の攻撃では皮膚を傷つけるのも難しいと思うし、ジンの毒も効くかどうかだしな」
「じゃあ、本当はギリギリの戦いだったんだ」
「ああ、そうだな。あの作戦が失敗していたら今頃こうしてここにいるかすら怪しいぞ」
俺達が話していると、ギルドの受付の人が俺達の所へ駆け寄ってきた。
「あ、あの!お話、お聞かせ願えますでしょうか?」
「はい?」
―――
詳しく話を聞いてみると、今回のキメラの角の大きさは今までギルドが買い取った角の中で最も大きなものだったらしい。
そのため、どんなキメラだったかやどこで倒したのかなど、そのキメラの角をギルドに持ってくるまでの経緯を聞かれた。
やけに詳細に聞かれたので、金を受け取ってギルドを出ると日は完全に沈んでしまっていた。
まあ、情報提供料ということで本来の倍の金を受け取ることができたので、時間がかかったのは良しとしよう。
―――
「やっぱりケンの作戦はすごかったんだね」
ギルドからの帰り道、アイリーンは唐突にそう言った。
「いきなりどうした?」
「ギルドの人があんなに慌ててあたし達に話を聞いてくるのを見て、思ったんだ。今日倒したキメラは強かったんだって。そして、それを簡単に倒したケンの作戦はすごかったんだって」
「俺は別に何もしていないさ、あの作戦を実行できたみんながすごいんだよ」
まあ、俺は神話を参考にしただけだから、本当に全然大したことはやっていないのだが。
「作戦を考えただけでも充分すごいよ。それにそうやって謙遜するところもカッコいい」
「そうか?ありがとう」
アイリーンがやたらべた褒めしてくるな。あ、そうか、もう夜か。そっちのモードなのね。
べた褒めしてくるアイリーンがこの間みたいにくっついてくるのかと思い警戒していた俺だったが、アイリーンは別にくっついてくることはなかった。
ただ、やたらと手を繋ごうと俺の手に触れてくるのだが、街の人の姿を見たり声を聞いたりするとパッと手を後ろに隠すようにしていた。
いや、そんなに恥ずかしいなら、手を繋ごうなんてチャレンジするなよ。
―――
その後も何回か俺の手に触れてはくるものの、アイリーンがヘタレ(?)だったので、べた褒めしてくる以外は普通に会話をして宿屋に帰ってくることができた。
「じゃあ、また明日な」
宿屋の廊下で部屋のドアを開けたアイリーンに俺は言った。
「うん」
伏し目がちにアイリーンは返事をした後、何かを覚悟したように顔を上げた。
その瞬間、俺はアイリーンに手を引かれ、アイリーンの部屋に引き込まれてしまう。
「お、おい、何するんだ?」
「だって、あたし人前だと、緊張して何もできないから。…2人きりならもっと積極的になれるよ」
「別に積極的にならなくても、っと!」
アイリーンに言葉を返そうとした俺はまたも手を引かれ、ベッドに押し倒された。
仰向けに倒れる俺に覆い被さるアイリーン。
「ねえ、ケン…」
「ちょっと待て」
何かを言おうとするアイリーンの台詞を俺は遮る。
「何?」
「こういうのは違うと思うんだが」
「そうかな?あたしはそうは思わないけど」
「独り善がりなこの状態が、アイリーンの望む展開なのか?違うなら退いてくれ」
2人しかいない部屋はしばらく沈黙が広がった。その静けさは、下の酒場で騒ぐ冒険者の声が微かに聞こえてくるほどであった。
「…わかった。ケンがそういうなら」
アイリーンが退けて、俺は起き上がる。
「それで、どうしてこんなことしたんだ?」
アイリーンがなんでこんなことしたのか、皆目見当もつかなかった俺は問う。
「だって、ケンの周りには可愛い女の子いっぱいいるし、ウェンディもメアリーさんも積極的だし、あたしも頑張らないとって思って」
そう答えたアイリーンの目は涙で潤んでいた。
えっ、なんでここで泣くかな。
女心などわからない俺は唐突に涙を見せるアイリーンに戸惑う。
「別に、無理に積極的にならなくたって大丈夫だぞ。俺の意志は固いからちょっとやそっとじゃ流されたりしないしな」
それだけ言い残して、俺はアイリーンの部屋を出た。
今日の教訓としては、夜になったらアイリーンとは2人きりにならないってことだ。
余計に疲れた俺は自分の部屋の鍵を開けて、自室に入る。
「おかえりなさい、あなた。わたしにする?わたしにする?それともわ・た・し?」
もう疲れたよ…。
アイリーンからのウェンディという姉妹コンビネーションに俺は絶句する。
普段なら「それを言うなら『ご飯にする?お風呂にする?それともわたし?』だろ!」って突っ込んだだろうが、そんな気力はアイリーンの部屋に置いてきてしまった。
「一応、聞くけど、俺鍵かけて部屋出ていったよな?」
「ちゃんと戸締りしてたよ」
「じゃあ、なんでウェンディはここにいるんだ?」
「マイに『ケンが女連れ込んでるかも』って相談したら鍵くれたの」
後でマイちゃんには注意しておかないとな。
「とりあえず、俺疲れてるから、もう寝かせてくれないか?」
「しょうがないなあ、わかったよ」
そう言うと、ウェンディは俺のベッドへと潜り込んだ。
「いや、何でだよ!」
「え、だって、わたしと寝たいって…」
「言ってねえよ!もう満足したか?」
「うーん、後ちょっとかな。添い寝してくれたら帰る」
「はあ、ちゃんと自分の部屋に帰るんだな?」
「帰る帰る」
「じゃあ、少しだけだぞ」
「やったー」
ウェンディが寝るベッドの中に俺も入る。
勢いでこんなことしてるけど、距離がものすごく近いな。
吐息がかかる距離に心臓がバクバクとすごい音を立てる。
って、ほんのり酒の臭いがするな。もしかして、酔っ払っているのか?確かに、変なテンションではあるが。
「おい、ウェンディ、酒飲んだか?」
「飲んでない、飲んでないよー」
「本当かよ。あっ、酒使った料理食ったか?」
「食べたー。『あさりの酒蒸し』って言うの食べたよ。あの貝美味しいね、王都は海が近くにないから貝とか食べられなくてね」
あさりの酒蒸しってアルコール分もう殆どないよな。それなのに酔っ払ってるのか?
「なるほどな。なあ、もういいだろ?部屋戻れよ」
「やだ!あと少し」
「そんなこと言って寝られたら、困るんだよ」
「その時は手出しちゃって良いから、わたしが許す」
「出すわけないだろ!」
何言ってんだ、こいつ。
って、もう寝てるし。つい数秒前まで喋ってたのに、もう寝たのか。
ウェンディの奴、俺が酔っ払いを嫌う理由の大部分を見事に体現したな。
その後、俺はマイちゃんから、ウェンディの部屋の鍵を借り、ウェンディを自室に運んであげた。
ついでにマイちゃんには俺の部屋の鍵を簡単に貸さないようにと忠告をしておいた。
余計な疲れ×2を乗り越えた俺はそれはそれは深い眠りへとついた。




