11.1 ヤポンを目指して
俺達が買い物をした翌日、早速ヤポンへの旅を始めるために、プカンの街の東門を出る。
王都の人達からの悪口耐久レースもようやく終わった。
溢れ出る喜びを燃料に俺の行動力のエンジンはフルスロットルだ。
まあ、カレンの魔法で移動しているから、俺のこのやる気は空回りするのだが。
この魔法なら10日くらいでヤポンに着くだろう。
以前この道を通った時には、このパーティはまだ俺とカレンだけで、お姫様の護衛という緊迫した空気だったな。
でも、今はジンにウェンディ、アイリーンの3人がパーティに加わって、随分と賑やかな移動だ。
その賑やかさの中に幸福感があり、仲間に恵まれていると心の底から感じる。
こんなに幸せなのは人生で初めてかもしれないな。
転生する前の俺はどうだったのだろうか?
ジン達のような気の置けない仲間がいたのだろうか?
「さっきから静かだけどどうしたんだい、ケン?体調でも悪いのかい?」
考え込む俺にジンは気を回して声をかける。
「あ、いや、大丈夫。ちょっと考え事をしていただけだ」
「ケン、体調悪いなら、無理しないで。わたし膝貸すよ」
「えっ、ウェンディちゃんの膝枕!?ああ、なんかオレ体調悪くなってきた」
「なら、あんたはあたしが介抱してあげるよ」
「んー、その握られた右手がなんか怖いから、遠慮しとこうかな」
おお、ジンが俺のアドバイスを実践している!?
きっと普段のジンならアイリーンに殴られることを承知で介抱をお願いして
###
「なら、あんたはあたしが介抱してあげるよ」
「やった!じゃあよろしく!」
「死ね!」
###
ってな感じでアイリーンの右ストレートを食らっていたに違いない。
その後もくだらない会話をしながら俺達はヤポンへの道を進んだ。
―――
王都からおよそ5km。
遠くにある森が見えるほどに平坦で何もない草原にまっすぐ伸びる1本道を移動していると、遠くに数十人の人影が見えた。
だんだんとその集団に近づいていくにつれて、彼らが武装していることに気付く。
声が届く距離に達した時、中央の先頭に立つ男が大声を出す。
「そこの旅人、止まれ!」
止まるわけないだろ、頭悪いのか?
そう思う俺とは裏腹に俺達の乗る風の舟は止まる。
「えっ?カレン、なんで止まった?」
「止まれって言われてますし」
「いやいや、律儀に止まる必要もないだろう」
「オレは止まって良かったと思うよ。逃げたと思われるの癪だしね。じゃあ、オレ、サクッと倒してくるね」
「いや、カレンとジンはここにいてくれ。この間の依頼じゃ結局全然連携ができなかったしな。俺とアイリーン、ウェンディでやるよ。2人は良いよな?」
「うん、わたし頑張るよ」
「そうだね。ここはあたし達に任せておきなよ」
まあ、こんなだだっ広い草原の真ん中で待ち伏せする頭の悪さ丸出しの集団に負けるわけないだろうしな。
「了解了解。まあ、危険な時は助けるね」
「ああ、よろしく。〈S1〉」
「《創造する炎の剣 フレイムソード》《創造する風の剣 ウインドソード》」
「《上昇する筋力 アタックアップ》《上昇する俊敏性 スピードアップ》」
戦闘準備をし、俺とアイリーンは地面に降りる。
こちらの武器が剣だけなのに対し、相手は剣のみならず、槍や斧、鎌、鎖、短剣、鋸、弓矢など多種多様に渡っている。
「《アクセラレート》」
この魔法、久々に使うな。ジンが仲間になってから、俺が高速で動く意味がなくて使うことなどなくなっていたからな。
2つの魔法の効果で俺の移動速度は4倍になる。縦横無尽に走りながら敵を斬る。こんな奴らでも殺すのは後味が悪いのでなるべく致命傷を避けての攻撃だが。
「な、なんだこいつ速いぞ!?」
いやいや、ジンには遠く及ばないけどな。
「攻撃も当たらない!?」
持ち前の反射神経と直感で敵の攻撃はことごとく躱す。
速いって楽しいんだな。俺はいつもジンが味わっている感覚の何分の1かを味わった。
「馬鹿野郎、お前ら!そういう時は弱い奴から倒すんだよ!」
そんな声が聞こえたかと思えば、アイリーンが一気に囲まれる。
アイリーンは両手に持つ炎と風の剣を使って敵を捌く。
炎の剣で溶かし斬り、風の剣で断ち斬る。
才能がないと自分を下に見ていたわりに、アイリーンの方が俺よりも剣の扱い上手いんじゃないか。
しかし、敵の攻撃を捌ききれずにタックルを受けてしまったアイリーンは、炎の剣を落としてしまう。
「お嬢ちゃん、武器落としたぜ。俺が使ってやるよ。熱っ!!」
「その剣、創造したあたし以外は持つことすらできないよ」
再び地面に落ちた剣をアイリーンは拾い、溶断を再開する。
一方、風の船の上ではジンとカレンが会話をしていた。一応、ウェンディもいるが、戦闘中なのでウェンディは会話には参加せず俺達の様子を見ている。
「んー、オレが出る幕もないね」
「ええ、私達は見ているだけで良さそうですね」
「これからは楽になりそうだよ」
「そうですね。ジンさんがパーティーに入った時も戦闘が随分楽になったと感じたものですよ」
「本当に!?」
「ええ、楽とかいうよりは安全になった感じですけどね」
「え?じゃあ何?オレが入る前は危険だったってこと?」
「そうですよ。私とケンさんだけの時は常にギリギリの戦いでしたから」
そんな雑談をしている2人を遠方から見ている男が1人。手には弓が握られている。
「くそ!舐めやがって!」
男は矢を放つ。
しかし、その矢は2人に届くことなく叩き落される。
「俺の前で暗殺、いや不意打ちができると思うなよ」
「あー、ケン!オレの真似した」
「あの台詞かっこよくてついな」
そうジンに言いながら、俺は矢を放った男を斬る。
そうこうしているうちに、強盗だか盗賊だかわからない集団は残り5人になっていた。
「ゆ、許して、許してくれ!」
その中の1人、俺達に喧嘩を売ってきた奴が許しを請う。
「仕方ない、今回は見逃す。もう2度とこんなことするなよ」
戦う意思のない者を傷付けるのは性に合わない。
俺は踵を返し、カレン達がいる舟に戻ろうとする。
しかし、俺が許した残党は突如バタリと倒れた。
いや、俺、何もしてないぞ。
一瞬では何が起きたか理解ができずに俺は戸惑う。
そんな俺に向かってジンから言葉が飛んできた。
「ダメだよ、ケン。こんなクズ許しちゃ。こういうヤツらは許せばまた襲ってくる。こっちが一度許していることを知っているから、また許して貰えると思うんだろうね。だから、やるなら徹底的にだ」
「確かにな」
なるほど、ジンが斬り伏せたのか。
俺はジンに言われたことを頭で反復する。ジンの言う通り俺の対応は甘いのかもしれないな。
平和な元の世界とは違うんだ。自分の行動が自分に良くないことを招くかもしれないし、その辺はしっかりしなければな。
俺はそう決意して、カレンの風の舟に乗る。
風の舟はヤポンに向けて再び進み始めた。




