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10.10 新たな仲間


 俺が宿屋に帰り、しばらくするとカレンも帝都から帰ってきたので、ウェンディとアイリーンの2人のことを話したら、案の定カレンは快諾(かいだく)した。


―――


 そして翌朝。


 俺とカレンとジンが3人揃って宿屋のロビーで待っていると、ニューランズ姉妹がやってきた。


「2人に紹介するよ、こちらが俺の仲間、ミヤモト・カレンだ。カレンが2人のパーティ参加を快諾してくれたから、2人はもう俺達のパーティの一員だ」


「あ、ありがとうございます!これからよろしくお願いします」


「よろしくお願います」


 妹の返事に姉も続いて返事をする。


「カレン、昨日も話したとは思うけど、こっちの髪の短い方がウェンディ・ニューランズ、長い方がアイリーン・ニューランズだ」


「はい、ちゃんと覚えていますよ。2人ともこれからよろしくお願いしますね。私のことは『カレン』って呼び捨てにしてください、敬語もいりませんから」


「うん、よろしくね。カレンもわたしのこと呼び捨てにしてね」


「わかりました、ウェンディ」


「カレン、あたしも呼び捨てで良いから」


「はい。仲良くできそうで良かったです」


「オレのことはジンって呼んでくれれば良いよ。それに敬語もいらないよ。ウェンディちゃん!アイリーンちゃん!」


 楽しそうな女子達の語らいにズケズケと入り込んでいくジン。メンタル強い。


「うん、わかった」


 明るく返事をする妹の後ろでアイリーンはジンをバリバリ警戒していた。


 初対面の自己紹介の印象が悪過ぎたんだな、頼むから変な雰囲気を作らないでくれよな。


「ありがとう、ウェンディちゃん!アイリーンちゃんは呼んでくれないの?」


「うるさい、黙れ!」


 言ってるそばから不穏な言葉が飛び出す。出会って2日目でこの関係性の悪さは逆にすごいな。


「さて、じゃあ依頼にでも行くか。2人の実力も見たいしな」


 話がこじれる前に俺は話を持ち出す。


 全員の賛同を受けて、俺達はギルドへと向かった。


―――


 その後、ギルドで適当な緑階級依頼を受けた俺達は、今王都近郊の大森林の中を歩いていた。


 今回の依頼内容は「デザートメッセンジャー」の討伐だ。


 さて、この「デザートメッセンジャー」のデザートとは食後の菓子を意味するデザート(Dessert)ではなく、砂漠を意味するデザート(Desert)のことだ。


 つまり、直訳すれば「砂漠の使者」となるわけだが、その正体は超雑食の大型豚のことである。


 普通の豚の3〜4倍はある体長3mの巨体に、強靭(きょうじん)な牙と胃袋を持ったその豚は、動物から植物、挙げ句の果てには土や岩までも食べるという超雑食に恥じない雑食性を持つ。


 主に多くの個体で1つの群れをなして生活しており、食物を求めて大移動を行う習性を持つ。


 そして、この豚達が通った後には砂しか残らず、その地は砂漠と成り果てるのだ。


 それが「デザートメッセンジャー」の名の由来である。


 さて、そんなデザートメッセンジャーが王都近郊の大森林を訪れたということで、環境保全のために今回ギルドは依頼を発行したわけだ。


 森に入ってすぐの俺達ではあったが、太い木の幹などの所々にデザートメッセンジャー達が噛み付いたであろう跡を見つけていた。


 そろそろ頃合いかな。


「じゃあ、そろそろパーティを2つにわけるか。カレンとジンは別行動で頼めるか?」


「わかりました」


「えー、オレはウェンディちゃんとアイリーンちゃんとも一緒に行動したいよ」


「ジンとカレンがいたら、ウェンディ達の実力が見れないだろ」


 もちろん建前だ。本当はジンがアイリーンと不仲だから、揉める前に離しておきたかっただけだ。


 最初はジンだけ別行動にしようかとも思ったのだが、流石に1人は可哀想だし、ジンはギルドカードに付与された魔法を使えないので、カレンと一緒に行動してもらうことにした。


「まあ、わかったよ。でも、ある程度討伐したら、最後はみんなで行動しようよ。全員での連携を試すのも大事でしょ?」


 これは正論なので、否定する理由はない。


「わかった。ある程度討伐したら集まろう。あ、ジン、麻痺させるだけじゃなくてちゃんと殺せよ。生きたままだとギルドカードに入らないから」


「ケンこそね。躊躇(ためら)ったら殺されるよ」


「ああ、わかってる」


 厳しい言葉はジンなりの激励(げきれい)だろう。


 そんなわけで早速2つの小パーティで討伐を開始する。


「さて、早速だが2人はどんな戦闘をするんだ?」


「わたしは補助魔法を使って周りを援護します。とは言っても、今まではお姉ちゃんしか補助したことないですけど」


「あたしは魔法剣士です。まあ、王道の魔法を使いながらって言うのではなく、魔法で作った剣と普通の剣の2本で戦ったり、どちらか片方で戦ったりみたいな変則的な魔法剣士ですけど」


「なるほどな。ところで、2人ともカレンやジンにはタメ口なのに、俺には敬語なんだね」


「命の恩人にタメ口だなんて失礼じゃないですか」


「いや、気にしなくて良いよ。2人だって、もし自分の力で助けられる人がいたら助けるだろう?それと同じだから、大したことじゃないから」


「でも、助けられるからと言って実際に行動に移すことができるのは充分にすごいと思いますよ」


「うーん。まあ、とりあえず俺としてはタメ口の方が嬉しいんだけど。2人とも歳はいくつ?」


「2人とも16です、わたし達は双子なので」


「おお、同い年じゃん、ならタメ口でよろしく」


 強引な話術に戸惑いを見せるウェンディ。


 オロオロとした妹を見てアイリーンは口を開いた。


「ああ。それじゃあ、これからはタメ口で話すよ。ウェンディもさ、ケンが良いって言っているんだし、タメ口で良いんじゃない?」


「うん、わかった。わたしもタメ口で話すね、ケン」


「ありがとう。じゃあ、早速討伐するか」


 長めの交渉で何とか、仲良し4人組に入って敬語を使われる5人目みたいな状況になることを打破した俺は、目の前に巨大な豚を見つける。


 むしゃむしゃと大樹を食べている姿を見るに、間違いない、デザートメッセンジャーだろう。


 群れをなすと言っても1頭1頭が巨体であるので、お互いの食事の邪魔をしないためにも、食事はある程度の距離を離し、ばらけて行うのであろう。


 それにしてもでかいな、倒せるかな。


〈S1〉(out 両断の剣)


 今回の依頼はただの討伐なので、倒したことが証明できれば、ターゲットの肉体をいくら損傷させても良い。


 だがしかし、結局なところ俺は、無難な両断の剣を取り出した。


「《創造する炎の剣 フレイムソード》」


「《上昇する筋力 アタックアップ》《上昇する俊敏性 スピードアップ》」


 アイリーン、ウェンディ共に戦闘の準備に入る。


 食事に夢中だったデザートメッセンジャーは戦闘準備で騒々しくなった俺達の気配に気付く。


 デザートメッセンジャーはその巨体を俊敏に翻し、こちらを向いて突っ込んできた。


 奴らには主に食欲という概念しか無い。そして、なるべく栄養価の高いものを食べるように行動するのだ。


 つまり、そんなデザートメッセンジャーが突っ込んできたと言うことは、俺達を餌だと思っていると言うことだ。


 その突進による攻撃を俺はヒラリと躱して一撃を叩き込む。


 デザートメッセンジャーの左前足の付け根から脇腹にかけて大きな切り傷が入る。


 大した力を加えたわけでもないのにこの威力、バフは最高だな。


 しかし、高威力の攻撃を与えたにも関わらず、その俊敏な動きは全くと言って良いほど変わらなかった。


 肥満の象徴とされる豚の体脂肪率が意外にも低いと言うことはそれなりに周知の事実ではあるが、この豚、デザートメッセンジャーは逆に脂肪の塊であった。


 そのため俺の攻撃なんて気にもとめずに続けて襲いかかってくる。


〈S1〉(in 両断の剣)〈S2〉(out 護身の剣)


 俺は武器を持ち替える。「S2」で収納しているのは「護身の剣」、この剣は重く硬く大きく、そして分厚い。


 突進を防ぐために俺が盾のようにこの剣を地面に突き立てると、デザートメッセンジャーは剣に突っ込む。


 流石の重量と硬度と言ったところか、その突進はピタリと止まる。そして、あまりの反動にデザートメッセンジャーはフラフラと行動へ2歩ほど下がる。


 その隙をついたアイリーンは後方から回り込んで炎の剣を顔面に叩き込んだ。


 肉が焼ける音と悲鳴にも似た叫び声が激しく周囲に広がる。


 俺は地面に突き立てた剣を引き抜き、上からデザートメッセンジャーの首をめがけて振り下ろした。


 その一撃は剣の重さにより威力が大幅に増加し、脂肪が絡みついた豚の太い首を跳ね飛ばした。


「ふう、比較的余裕だったな」


「そうだね、わたしなんてほとんど何もしてないよ」


「うん、あたしもだ。ほとんどケンが仕留めたね」


「そんなことはない。2人の援護がなければ正直もっと苦戦したと思うぞ。ウェンディの魔法は便利だな。攻撃の威力も上がるし、重い剣も振り回せて、単純に強い」


「そんなことないよ。元々の力がないとわたしの魔法の効果なんてないわけだし」


 そう俺達が話していると、先程の叫び声を聞いたであろう5頭のデザートメッセンジャー達が四方から俺達をめがけて突っ込んできた。


 やばい、囲まれた。


 そう思った矢先、全てのデザートメッセンジャーが倒れる。


 だいたいこんな感じでピンピンしている敵が急に倒れた時は何が起こったかなんて言うまでもない。


「やあやあ、ケン。無事みたいだね」


「ああ、ジン、助かった」


「この豚の大きな叫び声が聞こえてね。もしかしたらと思って助けに来たら案の定だったね。ウェンディちゃんとアイリーンちゃんも無事かい?」


 ジンが2人に話を振ったので、俺は倒れたデザートメッセンジャー達を見てみると、首元にはぽっかりと穴が開いていた。


 首の神経を切断したのか。


「うん、ありがとう」


「…助かったよ」


「いやいや、礼には及ばないよ。それにしてもアイリーンちゃんも素直に感謝してくれるなんて、オレは感激だよ」


「うるさい、やっぱりさっきのなし!」


「もー、アイリーンちゃんったら、照れちゃって」


 これは!第一印象が悪かったはずなのにいつの間にか好きになっているラブコメの黄金パターン!


 一時はどうなるかと思っていたパーティ内の人間関係が落ち着きを見せる兆候を感じた俺はほっと胸を撫で下ろした。


「ところでよ、ジン達はどれくらい倒したんだ?」


「えー、オレは覚えてないなあ。ギルドカードに収納しているカレンちゃんなら、覚えているんじゃないかなあ。カレンちゃん、どう?」


「えっと、今のを合わせて24頭ですね」


「に、24…。俺達が3人で1頭倒している間に、ジンとカレンの2人は24頭も倒したのか?」


「あ、私はギルドカードに収納していただけなので、倒したのは全部ジンさんです」


 もう、ジン1人で良いんじゃないか。


 俺は久しぶりにそう思った。


「そろそろ5人での戦闘練習でもしようか?オレの身体は準備運動を終えて()る気に満ちてるよ」


「ああ。じゃあ、そうするか」


「ケン、作戦は?」


「そうだな。とりあえず、俺とアイリーンで森中を走ってここに敵を誘き出そう。そしたら、ジンが倒す感じにしよう。そして、ウェンディは後衛としてジンに俊敏性あげる魔法をかけて、カレンも後衛としてウェンディの防衛とジンの援護を頼む。ある程度敵を集めたら、俺とアイリーンはここに戻ってきて後衛に攻撃がいかないように気をひくから、その時カレンは俺達の援護も頼む」


「つまり?」


「俺とアイリーンで敵を誘き出す。出てきた敵はジンが倒す。ウェンディはジンの補助、カレンはウェンディの防衛とジンの援護」


「なるほどなるほど、じゃあ早速始めようか」


「ああ。だが、誘き出す前に既に来てるな」


 1頭目の叫び声を聞いてきた奴らの第2波が襲来してきた。今度は10頭だ。


「確かにね、すぐ倒すから次の連れてきてよ」


「わかった。アイリーン行こうか」


「うん、わかった」


「《上昇する俊敏性 スピードアップ》」


「《遮る風の壁 カーム》」


 ウェンディは前衛3人に速度上昇の魔法を、カレンは自分とウェンディを囲うように壁を作った。


〈S2〉(in 護身の剣)〈S3〉(out 烈火の剣)


 俺は「護身の剣」から「烈火の剣」に持ち替える。そして、向かいくるデザートメッセンジャーとのすれ違いざまに顔へと烈火の剣を叩き込んだ。


 またも、(とどろ)く叫び声。攻撃により光を失ったデザートメッセンジャーはより多くの人の気配がするジン達の方へと向かっていった。


 俺が何をしたいかを理解したアイリーンもまた手に持つ魔法で出来た炎の剣で同じことをする。


 そして、そのまま俺とアイリーンは別れて森の奥へと進んでいった。


 その後は単純な作業だった。


 ジン達を中心に螺旋(らせん)を描くように森の奥へと進んでいき、デザートメッセンジャーを見つけたら中心へと誘導する。


 しばらくすると、森の中にデザートメッセンジャーの食事の痕跡がなくなったので、俺は中心へと戻る。


 途中でアイリーンと合流した俺が中心へと到着した時、そこには凄惨な光景が広がっていた。


 地面には100頭を超えそうな勢いの多くのデザートメッセンジャーが死して転がっている。


 流石にカレンと言えど2人のサポートをしながらギルドカードに収納する暇はなかったようだ。


 そして、死んで放置されたデザートメッセンジャーの巨体により足の踏み場も無くなっており、そればかりか傷口から血が溢れ、地面は血と土の混ざる泥沼と化していた。


 また、周囲の木々にも血が飛び散り、赤く染まっている。


 そんな赤々とした森の中を血だらけのジンが1人笑いながら殺戮を続けていた。


「すごい、すごいよ、ケン!ウェンディちゃんの魔法でいつもよりもっと速く動けるよ!」


 何かのスイッチが入り、やけにハイテンションなジンは嬉々としてそう言った。


 自分が指揮した作戦とは言え、ここまで凄惨(せいさん)な光景になることを予想だにしなかった俺は若干の戸惑(とまど)いを見せる。


 残り30頭ほどいるデザートメッセンジャーはジンに任せても問題なさそうなので、俺とアイリーンはデザートメッセンジャーをギルドカードへと収納することにした。


 数分後、全てのデザートメッセンジャーを倒し、ギルドカードへと収納した俺達は一旦集まる。


 デザートメッセンジャーは収納したものの、赤く染まった木々と血の泥沼はそのままだ。


「えっと、みんなお疲れ様。怪我とかはしてないよな?」


「うん、オレは大丈夫だよ」


 女子3人も各々頷く。女子に関しては精神的ダメージの方が心配だが、顔を見る限りそんなに精神的なダメージを受けてもなさそうだな。


「じゃあ戻るとするか」


 ちょっと精神的に参った俺は特に気の()いたことも言えず、俺達はギルドへと帰った。

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