10.9 新たな仲間?
俺がメアリーの講義を受け終わった翌日の昼下がり、俺は1人で宿屋のロビーにある椅子に座っていた。
食堂で昼食を食べた俺は何となく部屋に戻ることが億劫になり、ロビーの椅子の上で小休憩を取っていた。
ちなみに残りの2人は、というと、カレンは魔法の練習がてらクリフさんの研究棟へと行き、ジンはまだ眠っていた。カレン、帝都に行くの早くないか?帝都はまだ早朝、それどころか未明だろうに。
それにしても昨日は驚いた。
昨日、帝都から宿屋へと戻ってきたら、このロビーに人集りができており、その中心でジンは傷だらけで倒れていたのだ。
宿屋の人が魔法医者を呼んで傷を治していたものの、傷が大きく手間取っていたところにちょうど俺達が帰ってきた形だ。
そのため、魔力の化け物であるところのカレンがジンの傷をクリフさんの所で覚えた魔法を使って治したわけだ。
そんなわけで傷が癒えて間もないジンはただただぐっすりと眠っていた。
2人もおらず、ただ1人で過ごす昼下がり。
穏やかで暖かな空間の中で、俺のまぶたが重くなってきていた丁度その時、1人の男が静寂を裂くように宿屋の扉を開けた。
扉の音と外からの北風に俺は目が冴えてしまう。
俺が男の方を見る。
身なりは良く、少なくともただの平民でないことだけは確かだ。
そんな観察をしていると、男はいきなりこう言った。
「ジン様!ジン・クロス様はいらっしゃいますか!?」
「ジンなら昨日大怪我をしたから今は部屋で休んでいるが、何か用があるなら俺が話を聞くが」
「失礼ですが、あなたはもしかして…」
「俺か?俺は柊健だ」
「あなたがあのヒイラギ・ケン様ですか」
男は怪訝な眼差しになる。
あのってことはこの人も俺の悪い噂を知っているんだろうな。
無意識であろう男の行動に俺は少し悲しい気持ちになる。
それはさておき話を聞いてみると、ジンが貴族も手を焼く悪徳組織を壊滅させたとかで貴族が直々に表彰をしてくれるらしいのだ。
表彰式は今日とのことだったので、俺はジンの容態を伝え、日を改めるように言ったのだが、「貴族様の命令は絶対です」とのことで、ジンを起こし無理に貴族の屋敷へ連れて行ってしまった。
だから、嫌なんだ、この国の貴族。
―――
少し気分を害された俺は気晴らしに街を歩く。
しばらく街をぶらつくと、あたりから噂が聞こえてくる。
いつもの俺の悪い噂ではない。ジンに対する良い噂だ。
小耳に挟んだジンの噂の内容は王都に蔓延る巨悪を滅亡させたと言うものだ。噂の中で、ジンはまさに英雄そのものだった。
ジンの噂を聞きながらぶらついていた俺であったが、あまりにも暇であったため適当な依頼でも受けようかなと、ギルドの入り口を潜る。
「すいません。ヒイラギ・ケンさんですよね?」
唐突に女の人に声をかけられた俺が振り返ると、そこには2人の女冒険者がいた。
2人ともそっくりの顔をしていて、髪色は青みがかった深い緑、つまりビリジアンと2人して全く同じ髪色だった。ただ、髪型は違っており、俺に話しかけてきた方はセミロングの長さの髪を下ろしていて、隣にいる方はボブと呼ばれるものであった。
装備としても衣服にほとんど差はなく、2人とも冒険者というよりは市民というような装いであったが、武器だけは違った。俺に話しかけてきた髪の長い方が先端にメイスのような金属の飾りがついた50cm程の木の杖で、隣にいる髪の短い方がギルドの既製品であろう剣だった。
「はい、そうですが」
とりあえず返事はしたものの、この2人、どこかで見たことがあるな。どこだっけな。
と思いながら俺が頭を掻いていると。
「あの時は助けていただき、ありがとうございました。わたしは王都を中心に活動している橙階級冒険者のウェンディ・ニューランズです。こっちは一緒に冒険をしている私のお姉ちゃんです」
「あたしはアイリーン・ニューランズ、その節はお世話になりました」
冒険者の…姉妹…?あ、あー、思い出した思い出した。あの時俺が庇った姉妹か。
しばらく頭の中にある記憶を網羅するように探索してようやく思い出す。
この2人はあのキメラ、「憤怒」と戦った時に俺が庇った姉妹だった。
「お久しぶりです。どうですか、具合の方は?」
「あたしの方は全然支障はないです。ケンさんに助けて貰ったので後遺症とかもなく、元気です」
「そうですか。それは良かった」
「あ、あの、実はわたし達からケンさんに折り入ってお話があるんです」
「何でしょう?」
「わたし達をパーティにケンさん達の入れては貰えませんか?」
うん、唐突。
「仲間が増えるってことは単にパーティの総戦力が増えるだけでなく、戦略の幅が大きく広がることになるので、俺としては賛成なんですが、仲間達にも聞いてみないと何とも言えないですね。ちなみになぜ、俺達のパーティに入りたいのですか?」
「わたし達才能って言うものがないんです。それで前々から冒険者生活に不安を覚えていて、橙階級になってからというもの、すぐに昇級できるような依頼は達成することもできず、日々簡単な依頼をこなして生活していたのです。しかし、この間のキメラの一件で、わたし達だけでこれからも冒険者を続けるのは不可能だと思い、お姉ちゃんと2人で話し合った結果、別のパーティに入れてもらおうと思いました」
「なるほど、それで俺達のパーティを選んだ理由は?」
「見ず知らずの人、特に男の人のパーティはどうしても怖くて。でも、わたし達を助けてくれたケンさんのパーティなら信頼できるので」
「自分で言うのもなんですが、俺って最近王都で悪い噂立ってますよ」
「確かに、その悪い噂は聞いたことがありますが、自分の目で見たケンさんとどこからか聞こえてきた噂の中でのケンさんなら、わたし達は自分の目で見たケンさんのことを信じます」
この2人、噂に流されないところは信用に値するな。
「わかりました。とりあえず、仲間にも聞いてみて賛同してもらえたらパーティに参加してもらう形で良いですかね?」
「はい、よろしくお願いします」
そんな感じで話していると、ジンの声がした。
「あ、いたいた。ケン、探したよ」
「おお、ジン。表彰式は終わったのか?」
「うん、驚くほどすぐに終わったよ。そういえば、オレを表彰した貴族さ、城で酔っ払って騒いでたあの貴族だったよ。どうやら街の治安の管轄をしているらしい」
「あー、あいつか」
城でのパーティの際、酔っ払った勢いで俺達を罵倒し、黒騎士と戦うはめになった原因を作ったあの貴族か。
俺の直感が働く。
俺を嫌う街の治安の管轄をする貴族、俺の悪い噂、ジンの良い噂、俺の中で全てが繋がった瞬間であった。
「そうそう。それで、ケン。その女の子達は誰?」
「ジン、実に丁度良かった。この2人は俺達のパーティに入りたいって言っている冒険者姉妹なんだが、ジンはどう思う?」
「オレとしては可愛い女の子がパーティに増えるのは喜ばしいことだよ。2人とも、これからよろしくね」
「待て待て、カレンの意見も聞いておかないと」
「きっとカレンちゃんなら良いって言うよ。男2人に女の子1人の今よりはカレンちゃん的にも良いでしょ」
「俺もカレンなら良いって言うと思うんだが、一応聞いておかないと怒られそうだし」
「まあ、確かに意見を聞くのは重要だしね。とりあえず、パーティ参加はほぼ内定してるし、自己紹介でもしようか。オレはジン・クロス、好きなものは可愛い女の子。オレは全ての可愛い女の子の味方だよ」
ジンは2人に向かってウインクをした。
そんな恥ずかしいことよく堂々と言えるな…。
ジンの自己紹介を聞いて、先程まで殆ど隣に立っているだけだった姉のアイリーンが前に出る。
「あたしはアイリーン・ニューランズ。妹に手を出す野郎はぶっ殺す」
チャラついた男に妹の危機を感じたのか、アイリーンは鋭い目付きでやたらと物騒な台詞をジンへと言った。右手をそっと腰の剣に添えているのが、なお怖い。
「ちょっと、お姉ちゃん、失礼だって。わ、わたしはウェンディ・ニューランズです。お姉ちゃんのことは許してあげてください」
「2人ともよろしくね」
自分が混沌とした状況を作り出したと言うのに、ジンはヒラヒラと左手を振りながらそう言った。
これ以上ジンに要らないことを言わせないためにも、明日俺達の宿に来るようにだけ伝えて俺達は宿屋へと帰った。




