17.2 目指すは欠落の街Ⅱ
俺達がそうこうやっている間に、時刻はそろそろ昼前ぐらいになっていた。
このままだと今日出発できなくなるな、と思った俺はみんなに指示を出し、出発の準備を進めた。
1時間もすると、みんな準備が整い、ようやっと出発と相成った。
―――
「ケン、道中お気をつけて」
帝都の街の外壁の外で、去り際の俺達にそう声をかけるメアリー。
思い返せば、こうしてメアリーに見送られるのも、随分と久しぶりだ。
それこそ、まだテレポートの魔法陣を王都やヤポンに描いておらず、長時間の長距離移動がデフォルトだった頃以来だろう。
「ああ、気を付けるよ。今回は帝国内の移動になるし、実際対して時間もかからなそうだけどな」
「ええ、確かにそうですね。デウトスに着いたら、また帝都に顔を見せに来てくださいね?」
「わかった。魔法陣を描く場所さえあれば、カレンは描いてくれるだろうしな。だよな、カレン?」
「えっ、あっ、はい。もちろんです。私も毎回デウトスに行くのに長い時間かけて移動するのは嫌ですから」
俺に急に話を振られたカレンはそう言った。
「と、言うわけだ。向こうに着いたら、できるだけ早く帝都に戻るよ」
「ええ、お願いします」
そんな会話も程々に、俺達は帝都を出発した。
―――
カレンの操る魔法の舟は風を切って進む。
帝都・ギャリットとデウトスは馬車で1週間程度の距離にあるわけだが、きっとこの魔法の風の舟なら5〜6日で着くことだろう。
さて、移動中。
やることもなくなった俺はふと、自分の診断書に目を通していなかったことを思い出す。
そもそも、俺は診断書をどこにしまったんだ?
あの時はメアリーの診断結果があまりにも衝撃的だったから、自分の診断書をどこにしまったかなんてどうでも良いことは覚えているはずがないのだ。
そんなわけで俺は、診断書をしまえそうなところを探してみる。
コートの左の内ポケットを探った時、指先に紙が当たった感触を感じる。
その紙を人差し指と親指でつまみ、引っ張り出すと中からぐしゃぐしゃになった診断書が出てきた。
折角だから綺麗に保管しておきたかったけれど、こうなってしまったのは仕方がない。
俺は折り目を伸ばしながら、診断書に目を通す。
特筆したいのは2点。
まずは、新しい魔法が増えたことだ。
ブラッディアーマーとブラッディソード。魔法名は中二病を思われる何とも恥ずかしいネーミングセンスだ。
昔から謎ではあったのだが、どうして中二病を患ってる人達は常に血に塗れたがるのだろうか。
まあ、そんな話題から逸れた話は置いておいて、この魔法の特徴は自身の体力を減らすことで強大な力を手に入れられるという点だ。
俺の持つ超体質「自己犠牲」とシナジーが高いことこの上ない。
次に、俺の魔法適正が極に到達したのだ。
魔法適正とは?極とは?って人のために解説しておくと、超能力「魔法適正」は全ての魔法について、その習得にかかる時間が短くなると言ったものだ。一方で、「極」は超能力のレベルを示す文字で、無印、「上」、「極」の順で効果が上がっていく。
今回俺は超能力「魔法適正・極」を習得した。
そして、この超能力を有している存在を俺は1人知っている。
そう、1度見た魔法は全て使えるようになり、圧倒的な数の魔法を使えることでお馴染み、カレンだ。
後者の圧倒的な数の魔法を使えるっていうのは膨大な魔力を有していることに起因しているのだが、前者の1度見た魔法は全て使えるようになるっていうのは、この「魔法適正・極」を有しているがためにできることなのだ。
つまり、俺はカレンのチート性能、その半分を手に入れてしまったのだ!
「おい、カレン!見てみろよ!」
柄にもなくテンションを上げて、俺はカレンに声をかける。
俺達の乗る風の舟を操縦しているカレンに向かって見てみろなんて危険極まりない行為ではあるのだが、テンションが高い俺に冷静な判断はできなかった。
「何ですか、このくしゃくしゃの紙?」
「診断書だよ、俺の」
「あ、診断書ですか。それで診断書がどうかしたんですか?」
「ここを見てくれ」
「ま、『魔法適正・極』?あ、ケンさんも到頭、使えるようになったんですね」
「そうそう!だからさ、なんか強い魔法教えてくれよ。」
俺達の乗る風の舟を操縦しているカレンに向かって魔法教えてくれなんて(以下略)。
「そうですね…。『メテオ』なんて良いんじゃないですか?魔力量に応じて威力の調整はできますし、大きさなんかも思うままですから、ケンさんなら、きっと上手く使いこなせると思います」
「ああ、良いかもな。じゃあ、ちょっと使って見てくれよ」
「《燃え盛る業火の球 メテオ》」
カレンの頭上に直径1cm程の火球ができあがる。
どうやら、ただのお手本のための実演なので、威力はだいぶ落としてあるようだ。
「よし、じゃあ、俺も。《燃え盛る業火の球 メテオ》」
しかし、なにもおこらなかった。
「あれ?おかしいな?《燃え盛る業火の球 メテオ》、《燃え盛る業火の球 メテオ》。《燃え盛る業火の球 メテオ》!」
何度か試してみるも何も起こらない。
「《燃え盛る業火の球 メテオ》、熱っ!」
不思議に思いながら何度か使っていると、いきなり火球ができあがる。思いのほか魔力を込めていたらしく、バカでかい火球がだ。
使えたのは束の間、一瞬にしてピンチだ。
直径は20mはあるかというその火球は今俺の頭上20mの高度にある。しかし、その熱量は凄まじく、ここからでも充分に熱さは感じられた。
そんな火球がこのまま地面に落ちれば、あたり一帯、俺達諸共消滅するだろう。
こんなマヌケな死に方してたまるか。
そんなことを考えながら俺が焦っていると、ふとカレンの声が聞こえる。
「《消える無の波 ロスト》」
その声と共に俺がうっかり作ってしまったもう1つの太陽は瞬きよりも早く消え去った。
「正直、死ぬかと思った。助かった、ありがとう、カレン」
「いえいえ、お礼には及びませんよ。それにしても変ですね。何度か失敗してから使えるようになるなんて、私はそんな風になったことないですよ」
「確かに変だよな。ちょっと色々と確かめて見るか」
そんなわけで俺はいくつかの魔法を教えてもらい、それを使ってみたのだが、どうにも全ての魔法で同様の現象が起きる。
まるで壊れかけのライターのように、数回何事も起こらないかと思えば、突然使えるようになる。
もちろん使えるようになったら、その後も使い続けられるのだが。
どうも最初の1回だけはそうなってしまう。
そんな規則性のある謎現象に俺とカレンが頭を悩ませていると、後ろからウェンディの声がする。
「どうしたの、ケン?」
急な時差ボケなのか、先程まで(火球ができて一瞬高温になった時も)アイリーンとウェンディは寝ていたのだが、いつの間にか起きたようだ。
「いや、カレンと同じ『魔法適正・極』を習得したんだが、どうも一発で魔法が使えるようにならなくてな。何回か失敗した後に、使えるようになるんだよ」
「それは変だね。でも、それってただ、練習してないから使えないだけじゃない?わたしだって魔法を覚える時は何回も何十回も失敗してから、使えるようになるよ」
目から鱗の発言を聞く俺達。
「普通、そうなのか?」
「普通、そうだよ」
魔法の練習を殆どしたことがない俺と魔法の練習をすることがないカレン。そんな2人に普通がわからないのは至極当然だったりする。
でも、ウェンディに指摘されると、そんな感じだった気もする。
「なあ、カレン。カレンの診断書、あるよな?ちょっと貸してくれないか?」
「はい、ちょっと待ってください」
ごそごそと診断書を取り出すカレン。俺はカレンの綺麗に折られた診断書を受けると、その折り目を開いて、自分のぐしゃぐしゃな診断書と見比べた。
「やっぱりな」
「?何がやっぱりなんですか?」
「俺の魔法適正とカレンの魔法適正とじゃ、同じ超能力名なのに記載が違うんだよ」
そう言って俺はカレンに2つの診断書を見せる。
「あ、本当ですね。私の方には『一度見た魔法は使えるようになる』の1文が追加されていますね」
「ああ、あくまで俺の考えなんだが、カレンにだけこの1文が多い理由はカレンの『魂の名前』に起因していると思うんだ」
「確かに、そう考えるのが自然かも知れませんね」
「とりあえず、まあ、疑問は解決ってことで、これからも色々と魔法教えてくれよな」
「ええ、もちろんです。できることなら私の魔法全てケンさんにも使えるようになって欲しいですね」
ちょっとそりゃスパルタ過ぎない?と思ったが、そんなことは言わない。
「お、おう。任せろ。それと、ウェンディもありがとうな。俺とカレンだけだったらずっと悩んでいたところだった」
「気にしないで。わたしは普通のことしか言ってないから」
そんなわけで、俺の疑問も解決し、今日も旅路は穏やかに過ぎていった。




