聖女と召喚師、地獄に到達する
それからすぐ、私たち三人は火山の蒸気が噴き上がっている辺りを目指して山肌を歩いていた。
ここに来てから随分ボロボロになってしまった私のローヒールパンプスはあっという間に泥にまみれたが、構ってなどいられない。
私は額にじっとりと滲んだ汗をスーツの袖で拭いながら、木が一本も生えていない荒涼とした地面を歩いていた。
「なんだか不思議な光景ですね……ここだけ木が一本も生えていないなんて。不気味に静かですし……」
パウラは、白茶けた岩がゴロゴロと転がる風景を気味悪そうに見渡しながらそう言った。
流石騎士らしく、健脚のパウラは汗ひとつかかずに私の後ろを歩いてきている。
本当なら先頭を歩いてもらうべきなのだが、私が先導しないと意味がないのだ。
「コノヨ……なんだか風景が変わってきたが、どうなるんだ? この間みたいにダウジングをするんじゃないのか?」
既に疲れ切ったような声で、ハイゼンが私に訊ねてきた。
私は首を振った。
「ダウジングはいらないよ、多分ね。あそこにある丘を越したら、多分そろそろ目的のものがあると思う……それまで頑張って歩いて」
私はそう言って、足元が固定されていないガレ場を半ば四つん這いになりながら登った。
もくもくと噴き上がる湯煙は、真正面に見えるあの丘の陰から発している。
あの丘さえ越えればきっと――それだけを念じて、私はもくもくと手足を動かした。
十分程登山した私は、遂に丘の上に立った。
そこから見える窪地を見下ろした私の目に飛び込んできたのは、私の予想を遥かに上回る光景だった。
目的のものを見つけた私は呆然と呟いた。
「あった……」
私が呟くと、後を追うパウラが私の背後に立って、同じように窪地を見下ろした。
「なっ――!? コノヨ様、アレは一体なんです!?」
「どうしたパウラ、なにか珍しいものでも――?」
最後に丘の上に立ったハイゼンが、同じように丘の下を見下ろして絶句した。
そこにあったのは、血の赤に染まった水が滔々と湛えられた池。
どうやら煮立っているらしいその池からはもうもうと湯気が上がり――窪地のあちこちからも恐ろしげな音を立てて蒸気が吹き出している。
白い岩々と、その中心に湧き出す池の赤、そして蒸気口回りに固まった硫黄の黄色――。
猛烈なハレーションを起こしそうなコントラストで、圧倒的な光景が眼下に広がっていた。
「こ、コノヨ! あの池は一体――!? なんだ、あの色は!?」
「これが『地獄』だよ。さ、降りてみようか」
「お、降りるのか――!?」
「もちろんだよ」
ハイゼンは血相変えた声で叫んだ。
私はおっかなびっくりの足取りで丘を駆け下り、血の池の辺りに立った。
血の池はゴボゴボと恐ろしい音を立ててあぶくを噴き上げている。
どうやら、浸かることはできない温度であるらしい。
『地獄』とは言ったけど、流石にこんなものがあったのは予想外だな――。
私がほくそ笑んでそれを見ていると、パウラが青い顔で言った。
「コノヨ様、こ、この池は一体!? ここはまるで悪魔が作ったような光景です! ちっ、血の池なんて――!」
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「温泉行きたい!」
「ほわぁ地獄や! 地獄やーっ!」
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