聖女と召喚師、地獄めぐりをする
「安心して、パウラ。これは血の色してるけど、血じゃなくて――要するにサビだよ」
私が言うと、パウラは皆目訳がわからないという表情で目を点にした。
「さ――錆、ですか?」
「そう、赤錆。ここの温泉水には鉄分が多いんだろうね。それが空気に触れて、錆びて真っ赤になってるの」
私はそこらへんに落ちていた木の枝を拾い、血の池に突っ込んで掻き回した。
枝を引き上げて先についた泥を手で触ると、強い鉄臭さが鼻をついた。
「ほら、どう? 錆びた匂いがするでしょ?」
「ほ、本当です。まさしくこれは……」
パウラがやっと納得したような顔で頷いた。
だが、どうも納得していなさそうなのがハイゼンだった。
ハイゼンは吐きそうな青い顔で血の池から目を背けた。
「お、俺は血がダメなんだよ……こっ、コノヨ、早い所帰らないか?」
「バァカ、何しにここ来たのよ。それに私の目的はこの池じゃないわ。この地面よ」
私が右足で地面を蹴ると、ハイゼンが私を見た。
「じ、地面?」
「もうここにいるだけで靴の底から熱さが伝わってくるわ。――ほら、手で触ってごらん。温かいから」
私は白茶けた地面を触った。
おお、やはり足の裏に感じた通り、人肌よりわずかに温かく感じる。
それを見たハイゼンとパウラも同じように地面に触れ、そして呟いた。
「た、確かに……」
「温かく感じますね、コノヨ様」
私は大きく頷き、《聖女の湯》からわざわざ持ってきたタオルケットを二枚取り出し、一枚を地面に敷いた。
「よし、後はこの上に寝転んで……上から毛布を……」
私は毛布の上に寝転び、そして上からタオルケットをかぶった。
「お、おいコノヨ、なにして……」
「黙って見てな」
ほら、そう言う間にも、地面からの熱がタオルケットの中に溜まって――。
私の額に、じっとりと汗の珠が滲んできた。
「コノヨ様、なんだか発汗しておれらませんか? それになんだか顔の血行もよくなって――」
「おっ、パウラは鋭いわね。これが俗に言う岩盤浴ってヤツよ」
私は地面に寝転んだまま言った。
社会人になってから慢性的だった肩こりも、地熱に温められてじんわりと解されていくのがわかる。
「ただ湯に浸かるだけが温泉じゃない。岩盤浴っていうのは場所によっては温泉に浸かるよりも効果が高いなんて言われてるわ。ただこうやって寝ているだけで癒やしの効果がある上に、末期癌すら癒やすと言われてる場所もあるんだよ」
「そ、そんなに効果が高いのですか……!?」
パウラが目をひん剥いた。
私は寝転んだまま二人を見た。
「これなら温泉が未完成でも、何人でも怪我人を収容できると思わない?」
私が笑顔を浮かべると、二人はぱっと顔を輝かせ、大きく頷いた。
よし、これでなんとか怪我人収容の目処は立ちそうだぞ――。
安堵のため息をついた私の視界に、例のステータスウインドウが乱舞した。
【名もなき岩盤浴場
浴槽名:-
源泉名:-
泉質:岩盤浴
PH:-
湧出量:-
岩盤温:43.2℃】
【適応症:神経痛、リウマチス、肩こり、打撲、骨折、筋肉痛、関節痛、腰痛、うちみ、くじき、きりきず、冷え性、ストレスによる諸症状、産後の体力回復、慢性婦人病、喘息、結核、呼吸器症状、がん性疼痛、大婆労怒病、令嬢性没落所望症、心因性陛下声駄々漏症、熊熊熊症、無職転生症、Re:零開始性異世界生活症、魔王学院性不適合症、異世界食堂信症
禁忌症:急性疾患(高熱を伴う場合)、進撃性巨人化症候群】
《【絶対温感】のスキルにより、温泉から【岩盤浴指導師】を獲得しました》
《【絶対温感】のスキルにより、温泉から【延命治療】を獲得しました》
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「温泉行きたい!」
「秋田の玉川温泉で岩盤浴したことあるで!」
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