聖女と召喚師、地獄へ向かう
一体何だ、今の衝撃音は。
工兵たちも、作業の手を止めて一斉に空を見上げた。
「一体何事だ! 誰か見た者はおらんか!」
パウラが大声で糺すと、すっかりと木が切り払われた高台に登っていた工兵が山向こうを指差した。
「隊長! 遥か西に爆発の閃光が見えました! 魔法によるものと思われます!」
魔法? 私とハイゼンは顔を見合わせた。
パウラが工兵に鋭い声で問うた。
「位置はどの辺りだ?」
「おそらく――ここから数キロ先かと!」
工兵の声に、私は斜面を駆け上がって遙か向を見た。
地平線にほど近い場所、《不帰の森》が切れ、広大な平野が広がる場所。
もうもうと上がる土煙と、一斉に逃げ出した鳥たちがザワザワと森を騒がせている。
「あそこは――ウェインフォード側との戦争の最前線ですね」
後ろに立ったパウラが、鋭い目で土煙のある場所を見た。
「最前線? あそこが?」
「ええ、ちょうどあの煙が上がっている場所がウェインフォードとエルナディアの紛争地帯であるはず。かなり大きな衝突があったようですね。なるほど、そういうことか」
パウラは鋭い目つきのまま、私に向き直った。
「コノヨ様、アダム第三皇子からの早馬の内容をお伝えします――急ごしらえでもいい、可及的速やかに保養所を完成させ、怪我人を収容して欲しいと」
パウラの言葉と口調に、私はなにか重大な事が起こった事を察した。
「何かあったのね?」
「ええ、アダム第三皇子曰く、この数日間にウェインフォード側とかなり大きな戦闘があり、負傷兵多数とのこと。だがウェインフォード側の妨害を受け、負傷兵を帝都まで戻すことが出来ない。ですから――」
「帝都より近いここに負傷兵を避難させてくれ、か。これは偉いことになったぞ……!」
いつの間にか背後に来ていたハイゼンが私を見た。
私は《令嬢の湯》を見下ろした。
令嬢の湯の周囲はほぼ整備が終わり、脱衣所だけではなく、怪我人を収容するための仮小屋までの設営が終わっている。
だが、そのキャパシティは入れても三十人程度、湯量も限られていて、怪我人を順繰りに入れるにしても限度がある。
二号泉は湯量も豊富だが、湯船の整備はまだ途中で、とても何百人もの怪我人を収容することなどできはしない。
他の作業にあたっている工兵を二号泉造営に集中させようか。
そう考えてみたが、負傷兵を受け入れるからには、とにかく彼らが寝泊まりする建物の方を先に完成させなければならないし、二号泉に割く人員はない。
まさかエルナディア側も増援を考えているのだろうが、彼らは風呂場の建設ではなく、怪我人の治療に当たらせねばならない。
どうする、どうしよう……。
私はない頭を必死に振り絞って考えた。
今すぐ何百人いるかわからない負傷兵を戦場から収容する?
無茶振りもいいところだし、アダムからの要請を安請け合いすれば、ここは風呂にも浸かれない負傷兵が折り重なって地獄のような有様になってしまう。
なにかないのか――なにか方法が!
地獄――地獄か。
頭にふとその言葉がよぎった瞬間、私ははっと顔を上げた。
「そうだ――!」
私は大声で叫び、《不帰の森》の奥にそびえる火山を振り返った。
そうだ、別に湯船などなくてもいいのだ。
この火山の地理的特性さえ利用できれば、ごく最低限の物資で何百人でも収容できる上、しかも治癒効果も高い。
「――わかった、パウラ。でもアダムへの返事は明日まで待って。確かめたいことがあるの」
私が言うと、ハイゼンが私の顔を見た。
「なにか妙案が思いついたんだな?」
「うん、たぶんね。でも、今から二号泉の湯船を作ってる暇はない。工兵隊のみんなには今すぐ保養所の建物の建設に回ってもらう。それとは別に――二人にお願いしたいことがあるんだ」
そこで言葉を区切り、私はハイゼンとパウラを見つめた。
私のその行動に、ハイゼンとパウラがなにかを感じ取ったらしい。
二人は緊張した面持ちで私を見返した。
「コノヨ――?」
「コノヨ様――?」
私は決然と言った。
「ハイゼン、パウラ――私と一緒に、地獄までお供する気、ある?」
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「温泉行きたい!」
「こっから先は地獄の一丁目だぜ!」
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