聖女と召喚師、皇子からの手紙を受け取る
「十五で【召喚】のスキルに目覚めた時、母は喜んでくれてな――俺は母が喜んでくれたことが嬉しかった。その日以来、俺は猛勉強を始めた。王宮付き召喚師になりたくて、母の喜ぶ顔が見たくてな」
ふと――ハイゼンが語り出して、えっ? と私は少し驚いた。
コイツと知り合ってもう二週間ほどになるが、コイツの身の上話を聞くのは初めてだった。
「カエルだのウサギだのモノだの、最初はそんなものしか召喚できなかった。それでも母は喜んでくれた。お前の力は世のため人のためになる力だ、それでこそ私の息子だよとよく言ってくれた。だが猛勉強の甲斐あって王宮付き魔術師に内定したその直後に――あの戦争が始まった」
ハイゼンは少し声のトーンを落とした。
「俺が王宮にいた二年、王宮からは毎日召喚師が出征していった。大怪我を負う者、心を病む者、命を落とす者……彼らは本当に優秀な召喚師だった。だがそんな彼らが戻ってくる度――俺は彼らが何人の敵兵を殺したのか、そればかり考えていた」
ハイゼンのレンズの下の目は、ここではない、遠い昔を見つめている目だった。
まるでそこに過去の自分が立っているかのように、ハイゼンは自分の真っ直ぐ正面を見つめていた。
「そして、ゆくゆくは俺も前線に送られるだろう。そうしたら俺は一体何人の人間を召喚術で殺めるんだろう。これが母の言っていた人の役に立つということなのだろうか。最後の方は毎日そればかり考えてな――」
しゅん、とハイゼンは鼻を鳴らした。
「好きなことは仕事にすべきじゃない、か。その通りだ。もしかしたら俺は追放されて幸せだったのかもしれん。母が世のため人のために使えと言ってくれた召喚術を、俺はそんなことには使いたくなかった……」
ハイゼンはぼんやりとした口調と表情で、手を休めずに働いている工兵たちを眺めた。
私は、ハイゼンを見る目が今までと少し変化したのを感じ取っていた。
ただのヘタレでポンコツな意識高い男だとばかり思っていたのに。
彼には彼なりに、自分のスキルや立場に対しての真摯な思いが存在していたのだ。
思えば――と私は数週間前の光景を思い出していた。
初めて脱衣籠を召喚した時、凄い凄いと喜ぶ私を、ハイゼンは嬉しいような恥ずかしいような、とにかく見たことのないような表情を浮かべて見ていた。
あの時のあの表情は、かつて同じように喜んだ母親を思い出した表情だったのだろう。
ハイゼンになんと声をかけようか迷っていると、「コノヨ様!」という鋭い声が聞こえ、私は背後を振り返った。
「パウラ――どうしたの慌てて?」
慌てたように走ってきたのは、隙なく甲冑を着込んだパウラだった。
パウラは工兵たちを押しのけるようにして私のところまで駆けてきた。
「たった今、アダム第三皇子から早馬が届きました! 至急、コノヨ様にお願いしたいことがあると――!」
パウラがそこまで言った、その瞬間だった。
ズズン、という腹の底に響くような空震が耳に聞こえ、私たちははっと顔を上げた。
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「温泉行きたい!」
「ローマ風呂って最近見ないよね!」
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