聖女と召喚師と女騎士、暗殺者を尋問する
「あ、暗殺者――！？」
こんな可愛い子が？ と私は縄打たれた少女を見た。
それは私のような二十七歳オタOLが暗殺されかけた、という事実を圧倒して驚きだった。
まず、目の前の少女は色合いが凄い。
肌が褐色で髪が銀色で瞳が紫という、これぞ異世界人と言える風貌。
そして何より、ツンと尖っていて、しっかりと存在を主張している耳。
この耳には見覚えがある。
これは、この少女はもしや……！
「お前、ダークエルフだな？ 何ともわかりやすい暗殺者だこと」
隣に立ったパウラがそう言い、私はパウラを見た。
「やっぱり！？ この子ダークエルフだよね！ 凄い凄い！ 本当にいるんだ！」
私は手を叩いて喜んだ。
「ファンタジーすぎるよコレ！ 本当にエルフっているんだぁ！ ねぇあなた、名前なんていうの！？ やっぱピロテースとかなの！？」
私が大騒ぎすると、目の前の少女がぎょっとした顔を浮かべて私を見た。
えっ？ 何この反応？
大騒ぎをやめた私は、そこでハイゼンとパウラに異様なものを見る目で見つめられていることに気づいた。
「え？ 何その顔？」
「コノヨお前、コイツはダークエルフなんだぞ。何がそんなに嬉しいんだ？」
「えっ」
私が本気でわけがわからないという表情を浮かべると、パウラが私に耳打ちした。
「コノヨ様、この世界ではダークエルフは色々と訳ありでして」
訳あり？
私が目だけでパウラを振り返ると、パウラが小さな声で言った。
「ダークエルフはとかくこの世界では暗殺や盗賊などの違法な稼業を生業とする者が多いのです。どちらかと言えば我々人間はダークエルフを好意的な種族であると思っていません」
「けっ、そんなにゴニョゴニョ言わなくても聞こえてるよ！」
突如発したやさぐれ声に、私は大いに驚いて少女を見た。
ダークエルフの少女は悔しそうに私を睨みつけた。
「ふん……私を見て喜んだやつはアンタが初めてだよ。聖女様だかなんだか知らないが、随分マヌケで警戒心のない人間が異世界から来たもんだ！」
少女は縄打たれたまま、私にやけくその声で怒鳴った。
「さぁ、この召喚師が言った通りに私はアンタの暗殺を依頼されてここに来たんだぜ。ガキなのは見てくれだけ、こう見えても私はアンタたちの倍は生きてるんだ。どうだ、これで心置きなく殺せるだろ！ 私は逃げも隠れもしない！ 煮るなり焼くなり好きにしやがれ！」
「威勢はいいがな、ダークエルフ。マヌケで警戒心がないのはお前の方だぞ」
ハイゼンが呆れた声を出した。
「どこの世界に仕事前に全裸になってオンセンに浸かる暗殺者がいるんだ。それに俺はお前の一部始終を見ていたが、とても暗殺に手慣れてるようには思えん」
その声に、少女がギクッとした表情を浮かべたように、私には見えた。
ハイゼンは文字通り見下すような視線と口調で少女を見た。
「大方、今まで暗殺なんぞしたことのない食い詰めコソ泥が、一躍雄飛を狙って暗殺者ぶってみた……そんなところか」
「下僕様、確かに私もそう思います。この者からは暗殺者としての殺気が感じられませんから。妙に落ち着きがないのも気になります」
口々に言われて、少女の額にだらだらと脂汗が浮かんだ。
確かに、目の前の少女が暗殺者だとは、私にもとても思えなかった。
ハイゼンから暗殺者を捕まえたぞと言われた時、私は建物から建物を飛び回り、華麗に標的を沈黙させるアルタイルみたいな精強な男を想像していたのだが、目の前の少女は可憐で可愛らしくて、暗殺なんぞするよりはお花畑で首飾りを編んでいたほうがよほど絵になる見てくれだったのだ。
「それで、どうしますかコノヨ様？ もしよければこの者は私が処断いたしますが――」
そう言って、パウラが腰の剣に手を掛けた。
私は慌てて「ま、待って待って！」と慌ててパウラを止めた。
「い、いくらなんでもこんな小さい子を殺すなんて可哀想だよ！」
「しかしコノヨ、どうするんだ。こいつを野放しにしておけば曲がりなりにもお前はこいつに命を付け狙われ続けるんだぞ」
ハイゼンの言い分ももっともだが、私はできるだけ血を見たくはなかった。
第一、ここは温泉地であり、戦場ではない。
そこでは全ての人間が等しく癒やされる場で、血で血を洗う血の池地獄ではないのだ。
うーん、と私はしばらく考え、いいことを思いついた。
「そうだ、じゃあこうしようか」
私が少女の顔を覗き込むかのようにすると、少女が不安そうな表情を浮かべた。
「面白そう！」
「続きが気になる！」
「温泉行きたい！」
「椅子座る前にシャワーで流します！」
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