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暗殺者、召喚師に温泉に誘われる

「あっ――! あ、あの、いやこれは違うの!」




全く予想していなかった男の出現に、「私」は身も蓋もなく慌てた。

一気に挙動不審になった「私」を見て、下僕の男は眉間に皺を寄せた。


「しかもなんだか今、オンセンの方を狙っていたような」

「あっ、いや! これはなんだか物音が聞こえたから見てただけで――!」


ああ、と男は頷いて、持っていたスコップを下に降ろした。


「そこにいるのは獣じゃなくて人だ。狙ってもらったら困る」

「そっ、そうなの! 人なのね、危なかった! 撃っちゃうところだった!」


あははは……! と「私」が空々しい笑い声を上げると、男は私の頭のてっぺんから爪先を無遠慮にジロジロと眺めた。


「お前――見た所、猟師かなにかか?」


どうやら男は、「私」が弩とナイフを持っていることからそう思いついたらしい。

ここは話を合わせておいた方がいいだろう。


「そっ、そうよ! 麓の町の猟師の娘なの! 今日は父がいないからひとりで獣を狩りに来たのよ!」

「猟師の娘、なるほどな。まだ小さいのになかなかご苦労なことだ」


なんだろう、この男。

会ってまだ数秒しか経っていないのに、なんで常に上から目線なんだ?

それに仮にも子供の「私」相手にニコリともしない。

「私」をひと目見て微笑んだり笑いかけたりしない人間は少ないのだ。

だがこの男はまるで路傍の石でも見るような目が全く変化しない。

子供は嫌いです、顔にそう書いてあるかのようだ。


早くどっか行け! 念じる「私」を無視して、男は言った。


「それにしても、さっきからここで見させてもらったが、お前、随分嬉しそうにオンセンを見てるんだな」

「お、オンセン――?」

「あそこの泉のことだ。女が二人いるはずだ」


ああ、と「私」は頷いた。

あれはオンセンという泉であるのか――まあそんなことはどうでもいいことだけど。

「私」は大きく頷いた。


「そ、そうなの。さっきからあそこにいる二人がやけに楽しそうだったから、私も羨ましくなっちゃって……」

「ほほう」


男はさして感心もなさそうに頷いた。

そしてしばらく何かを考えてから、男は言った。


「もしよければ、お前も浸かっていくか?」

「へ?」

「あそこ以外にもオンセンがある。まだ整備しきれてはいないが――それでもいいならどうだ? もちろん、カネは取らない」


一瞬、「私」は物凄い勢いで思考を巡らせた。


断って逃げてしまおうか――いや、それは絶対にダメだ。

もう「私」の姿は見られているし、後でここに戻って暗殺しようにもすぐに足がつくだろう。

それに一応そのオンセンとやらに浸かった後に気に入ったフリをしておけば、後日また浸かりにきた風でここに戻ることが出来るではないか。


それに――正直、ちょっと興味も湧いた。

あの《紅蓮の舞姫》の鉄面皮をもほころばせる、そのオンセンとやら。

そんなにいいものなのであれば一度でいいから是非体験してみたいと言える。

あ、いや、これはもちろん仕事の一環として必要なことであって――。


「――いいの?」


気がつくと、「私」は口を開いていた。

あっ、と思ったがもう遅かった。

あたふたと慌てる「私」を見て、男は少し呆れたように言った。


「安心しろ、俺はお前のような子供の湯浴みを覗こうとする趣味はない」


だから、なんでそんなに上から目線なんだ?

それに全く価値がないと言われていることも含めて「私」はちょっとムカッときたが、どうにかそれを押し殺し、気取った声を出した。




「それじゃあ――案内お願いしたいかも」




「面白そう!」

「続きが気になる!」

「温泉行きたい!」

「服についた硫黄臭は重曹と一緒に洗濯すると取れるよ!」


そう思って頂けましたら【★★★★★】で評価お願いします。

何卒よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] じゅうそうニキ [一言] っょぃ
[一言] 重曹で硫黄臭とれるんですか! 着物の樟脳臭も取れるって言うし、流石重曹…!! それにしても息を吸うように上から目線で語るあたり、流石ですねぇ…
[良い点] 戦闘になってしまったら暗殺者相手だとハイゼンがボロ負けしてしまいそうなので、無事に勘違いしてくれて安心です。それにしても、暗殺者は本当に子供なのでしょうか。確かに子供相手だと油断してしまい…
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