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聖女、女騎士に入浴マナーを伝授する




「時にパウラ、この世界での湯浴みってどういう感じなの?」




髪留めゴムで髪をまとめながら私は訊いてみた。

そうですねぇ、と、長い髪をタオルでまとめたパウラは顎に人差し指を置いて上を向いた。

おおっ、やっぱりこういう美人は思考するときはこういう風なポーズを取るんだな。

私は妙なところに感心を覚えた。


「まず最初に湯船に頭まで浸かります」

「うん」

「そして湯船の中でよく石鹸を泡立てて頭と身体を洗います」

「あー」

「暇なときは湯船の中で泳いだり、大声で会話したりして楽しみます」

「ははぁ」

「時間がないときは湯船の中で服を洗濯したり飲食したりもしますね」

「お、おう」

「身体に刺青を入れている男などはそれを自慢したりして……」

「ちょ、ちょっと待ってパウラ。今言ったことは一個でもやったらダメ」


そう言うと、パウラが多少驚いたような顔で私を見た。


「はぁ、ダメ――でしょうか」

「うん、まるでダメな温泉の入り方だよ。温泉は全然違うと思っていいわ」


異世界とは言えここまで真逆になるものか――。

私は驚くとかいう以前に感心してしまっていた。


私は無事全裸にタオル一枚となったパウラを促して『聖女の湯』に出た。

よっ、ほっ……と、私はラジオ体操のように身体をストレッチさせながら、言った。


「いい、パウラ。温泉に入るのはね、禅なの」

「ゼン?」


パウラは不思議そうな顔をした。

私は腰に手を当てて真剣に言い張った。


「そう、禅。私の世界の教え。一言で言えば日々の全ての動作が修行であるという考えね。風呂に入るのも武芸をするのも食事をするのもみんな修行なのよ」

「コノヨ様の世界にはそんな考えがあるのですか。なんとも、厳しい教えですね……」

「風呂禅一如、風呂と禅はひとつの如し……それを忘れないで」


フロゼンイチニョ……とパウラは不思議そうな顔で繰り返した。

思えば滅茶苦茶な理屈だったが、ツッコミの入らない異世界である。

湯浴みがここまで滅茶苦茶なのであれば、なるべく敷居を高くしたほうがいいだろう。


私は風呂場の片隅に積み上げられている、例の鎮痛剤の名前が書かれた桶を手に取った。


「まず基本から行くわね。最初、こうやってかけ湯をする。これは湯に浸かる前に身体を洗い清める意味もあるけれど、それ以上に熱い湯に慣らして身体への負担を軽くする意味があるの」


私はざぶざぶと身体にかけ湯をして身体を手でこすった。

本当なら洗い場で身体を洗ってから入るのだが、ここでは仕方がない。

やってみて、と私が言うと、パウラは実に優雅な所作で身体にかけ湯をした。


「身体が綺麗になって、身体が暖まったらいよいよお風呂に入る。この時に重要なのは湯船の中で身体や髪を洗わないことね。あとタオルも湯船に浸けちゃダメ」

「えっ、そうなのですか? それは何故」

「ズバリ、他の人の迷惑になるからよ」


私は手取り足取り説明した。


「根本的に湯浴みと温泉は別なの。湯浴みは身体を洗う場所だけど、温泉は癒やしとくつろぎの場所、そう考えて。癒やしの場所は騒いだり汚したりして穢してはならない……そういうことね」

「なるほど、確かにそれは道理ですね」

「わかったところで……さぁ、温泉に入ろうか」


私が足先からそろそろと温泉に入った。

パウラも私の真似をするようにおっかなびっくりと湯船に全身を預けた。


肩まで湯に入ると、途端にパウラの顔がとろけた。


「あ……」

「どう?」

「こっ、コノヨ様……! これは一体……! ま、まるで母の胎内に戻ったかのような心地よさです……!」

「おっ、やっぱり誰かと同じこと言ってる」


私がクスクスと笑うと、パウラは恍惚の表情でほうとため息をついた。


「さて、湯船に浸かったらできるだけ笑顔を心がけながら次に二の腕をさする」

「それはどうして?」

「意味はないけど大事なおまじないよ」


私が二の腕をさすると、パウラもそれに倣って二の腕をさすった。

こうしてみると明らかに日本人とは違う堀の深い顔立ちのパウラは、まるで公衆浴場に浸かりに来たローマ人のようだ。


「な、なんでしょう、この感動は言葉に出来ません……じんわりと心と身体に沁みる心地よさですね……!」


熱めの湯の効果も手伝って、パウラの頬は既にほんのり桜色に色づき始めていた。

わかってると思うが、そのときのパウラは同性の私から見ても、何とも扇情的だった。


「よしよし、なかなかスジがいいわね。……そしてここから、温泉女子だけの特権があるわ。それも教えちゃうから」


私が言うと、パウラがとろけた顔を少し整えた。


「女子だけの特権……ですか?」

「そう、特権」


私は湯の中で立ち上がると、湯船の底にうっすらと溜まった泥を両手で掬い上げた。


「これが温泉の泥。これには温泉の成分が凝縮されてるの」


説明しながら、私は両手いっぱいの泥に鼻をよせた。

くぅ、鼻先をくすぐる硫黄の香りが心地よい。


しばらくその香りを楽しんでから、私はいそいそと身体に泥を塗り始めた。


「コノヨ様――それは何をしてらっしゃるんですか?」


驚いたように私を見るパウラに、私はフフンと鼻を鳴らした。




「驚いた? これが泥湯パックよ。これを全身に塗りたくって美肌を保つのよ」




「面白そう!」

「続きが気になる!」

「温泉行きたい!」

「風呂禅一如!」


そう思って頂けましたら【★★★★★】で評価お願いします。

何卒よろしくお願い致します。



【追伸】

3/7、異世界転生/転移ランキングで3位を頂きました!

これからも温泉の魅力を伝えてゆきます!

ここのサイト名が『温泉名人になろう!』に変わるまでこの作品をよろしくです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ふろぜんいちにょ [一言] さとるにょ! あー最新話に追いついてしまった悲しい嬉しいソワソワ次回更新まで落ち着かないハッこういう時こそイチニョ! くわっ! 落ち着きましたさすがオンセン…
[良い点] 風呂禅一如、深いですねえ。確かに何となく二の腕をさすってしまいますが、あれはお呪いだったのですね!さらに泥湯パックのフルコースまで。パウラもすっかり温泉の虜になりそうです。次の更新も楽しみ…
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