聖女と女騎士、泥パックを堪能する
私はぬりぬりと厚く泥を身体に塗りたくった。
「ささ、やってみてパウラ」
私が促すと、パウラはおっかなびっくりと湯船の底に手を伸ばし、白い泥を掬った。
硫黄が混じった白い泥――パウラはそれを私に倣って腕に塗り始めた。
「こ、こうでしょうか?」
「そうそう、そのまま少し乾燥するのを待つの。この間に泥から身体にいい成分が浸透していくから、最後はお湯で洗い流して終わり」
「お、驚きました。この泉は泥にすら癒やしの成分が含まれているのですか……!」
パウラは信じられないというように私を見た。
「お肌にいいだけじゃないの。この泥には保温効果や発汗効果もあるから、痛めたところとか、凝ってる部分に塗ってもいいんだよ。特にパウラだと凝るでしょ? 肩とか」
「え?」
「凝るでしょ?」
私はパウラの身体のごく一部をチラ見しながら訊いた。
「ええ、まぁ……」と曖昧に頷いたパウラに「じゃあ肩にも塗ったほうがいいよ」と言って、自分も肩口に泥を塗り始めた。
「よーし、塗ったらしばらく乾かそうか」
あちこちに泥を塗った私たちは無事に真っ白になり、並んで温泉の縁の岩に腰掛けた。
山を吹き渡る風が火照った身体に心地よかった。
その風を全身に受けて、パウラは再びほうとため息をついた。
「コノヨ様、オンセンというのは湯浴みとは全く違いますね! その意味が初めてわかりました! これは……なんというか、癒やされます!」
女子そのものに戻ったように、パウラがはしゃいだ声を上げた。
「なんだか、生まれ変わったような気分がします……凄く心地いい。アダム皇子が言っていた癒やしの泉とはこういうことだったんですね……」
パウラは全身でくつろぎを感じているかのように目を閉じた。
よしよし、ここにもまた一人この温泉の信者が生まれたな……とほくそ笑んだ私は、パウラが目を閉じているのをいいことにパウラの身体をじろじろと眺め回した。
顔だけでなく、パウラはスタイルもいい。
グラマラスでもあるが、それ以上に健康的ですっきりとした、均整の取れた体つきをしていた。
さすが騎士らしく、腕にも足にも、必要な分だけしなやかに筋肉がついているところも、またいい。
しかし――まるでお姫様のような顔立ちなのに、パウラの身体のあちこちには、癒えて間もないと見える傷跡が見受けられた。
無数の切り傷、擦り傷の中には、背中に真一文字に走った、どう見ても受けたときは無事ではすまなかっただろう傷もある。
本来なら如何にも深窓の令嬢というような本人の顔立ちと、その迫力ある傷のイメージが、私の中でどうにも一致しなかった。
パウラは森を吹き渡る風に耳を澄ますように、大きく息を吸って、吐いた。
「もし許されるなら、家族にもこの心地よさを伝えたい――」
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「温泉行きたい!」
「泥パックしようとすると沈んだ誰かの髪の毛までゴッソリついてくるから『なんじゃこりゃあ!』ってなるよ!」
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