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8/13

対面

本作はカクヨムにて総PV30万回、★2,000超えを記録した戦記のマルチ投稿作品です。

※カクヨム側の公開スケジュール(月水金更新)と歩調を合わせ、本作も【全45話・11月中旬の完全完結】に向けて、予約投稿にて一歩ずつ大切に配信してまいります。どうぞ安心してお楽しみください。

(本文のブラッシュアップにAIを一部利用して格調高く仕上げております)






交代で休めという信長の言葉に従って近習の半数が出ていった。



残念ながら俺と左馬助は後番だ。



庭先から味噌汁のいい香りが漂ってくる。



どうやら台所方が煮炊きの振舞いをしているようだ。



左馬助はと見れば目を瞑っている。



正座しながら寝れるのかよと、俺は小声で毒づいた。



俺も目を瞑りたかったが、目を閉じると倒れてしまいそうでとても出来ない。



仕方なく俺は姿勢はそのままで、時間が経過するのを待ち続けた。



しばらくして………




「新一郎はおるか………」




信長の声で、はっと答える。




「…近こう寄れ」




肩に掛けた平包みを置いて、広縁から上段の間に足を進める。



信長は深みのある紺色の小袖に茶色の羽織、藍色の野袴に履き替えていた。



信長の前で平伏する。




「もそっと近う」




俺は痛む足を引きずり前に出た。




「その方、確か後の世から刻を遡って参ったと申しておったな?」 




信長の問いかけはかなりの小声だ。



これだと控えの間や広縁の近習たちには何を話しているか全く分からないだろう。



………まぁたとえ漏れ聞こえたとしても理解出来たかどうかも怪しいが。




「はっ、その通りに御座ります」




「それはお主の考えで参った事か?いやそもそも刻を遡れるのであれば、いま少し前に遡れば、このような無様な醜態を晒さずに済んだものを………どうなのじゃ!」



信長の怒気をはらんだ声は恐ろしい。




「刻を遡ったのは某の意図する所では御座りませぬ。故に分かりかねまする」




そういうと俺は額を畳に擦り付けた。




「ふむ………と、すればそちが参ったのは神仏の加護か?儂は信じぬがな。そちは何故、命を賭して儂を助けようとした?恩賞目当てか………?」




恩賞………確かに心の何処かにはそれもあったかも知れない………だが、




「某、後の世では仕官口も見つからず、心が折れていました。己が一生に絶望し、もはや進退窮まる有様にて………ならばこそ、この世に参った以上は乾坤一擲、上様をお助けし、新しき世を見届けたいと思ったまでに御座ります」




「………相分かったわ!そちが来ずんば失のうておった命ぞ、後は狂い舞いに舞ってやるだわ!下がってよい!」




「ははっ!」




俺は控えの間に引き上げようとしたが、信長の鋭い眼光を思い出して身がすくむ思いだった。



震えながら控えの間に引き返すと左馬助が後番が回って来たので行こうと誘ってくれた。



俺はまた平包みを背負うと、左馬助と一緒に主殿から出て主殿の裏手の台所方へと向かった。



すでに味噌汁の香りが鼻腔をくすぐる。



台所と地続きの板間には炊き出され味噌汁と握り飯が雑多に置かれ、俺と左馬助は手前の土間に座ると渡された味噌汁と握り飯2つを受け取った。



味噌汁は豆味噌系統の赤茶色。



一口含むと塩分がきつい。



だが具材の干し大根や芹、シジミはコクが深く実に美味い。



握り飯はかなりの大きさで固く握られており、米だけでなく恐らく粟や稗、麦等が混ぜられた雑穀米だ。



これも塩気がきついが、疲れ果てた体に、米の一粒一粒がエネルギーとなって行くのが分かる。



俺は握り飯を1つ食べ終え、味噌汁を飲み干すと、後の近習に土間を開けるために立ち上がり、痛む足に顔をしかめながら残った握り飯を手にゆっくりと主殿に向かった。



そして道すがら握り飯を頬張る。



その時、門の方から大きな歓声が湧き上がった。




「秋田城介様じゃーー!」




「秋田城介様のお戻りじゃーーー!」



大きな声が門の方から幾つも聞こえる。




「秋田城介様が無事にお着きになられたようだわ」




後ろから追い掛けて来た左馬助が言った。



主殿の方から近習を引き連れた信長が駆け出して行く。




「わしらも行くでよ!」




言うが早いか左馬助は駆け出して行った。



この時代の奴は常々タフだ………。



俺はそう思いつつ残った握り飯を口に頬張ると後を追いかけた。



信長と信忠は虎口を入った櫓の下で対面を果たしていた。



少し離れた位置に山岡景隆の姿も見える。




「勘九郎、よくぞ、よくぞ無事で参った!」




「はっ、上様もご壮健で何よりでございます」




心なしか信長の目元が緩んでいるように見える。



魔王の目にも涙かな………ふとそんな物騒な考えが頭を過った。




「ささ、そなたも早う着替えよ」




信長の言葉に、だが信忠は首を振ると、




「明智の軍勢、はや膳所から琵琶湖沿岸を瀬田目指して参っておりますれば、瀬田唐橋を落としたとてこの地も危うくござります。故に一刻も早く父上も共々安土にお退きありて然るべしと存じまする!」




信長はしばらく黙考していたがやがて…




「相分かった、ならば瀬田唐橋を落とした後、瀬田城を引き払い、山岡美作ら瀬田衆を引き連れて安土へと向かおうぞ!」




信長の言葉に周りの近習が一斉に頷く。




「さて、いよいよ安土じゃのう」




左馬助が感慨深げに呟く。



だが………その時俺は急に思い出した。



以前本丸跡まで大手道を登った時に、大変な苦労をした事に………。




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