休息
本作はカクヨムにて総PV30万回、★2,000超えを記録した戦記のマルチ投稿作品です。
※カクヨム側の公開スケジュール(月水金更新)と歩調を合わせ、本作も【全45話・11月中旬の完全完結】に向けて、予約投稿にて一歩ずつ大切に配信してまいります。どうぞ安心してお楽しみください。
(本文のブラッシュアップにAIを一部利用して格調高く仕上げております)
瀬田城の木製の大手門は明け放たれていた。
そこを行き足を落としてそのまま進む。
入ったところが虎口となっており、向こう側に一直線の土塁を置いた一文字虎口となっていた。
虎口を抜けると梯郭式の曲輪が広がり、櫓や門が彼方此方に見える。
番をする兵に馬の口輪を取られて厩へと誘導される。
そこで馬から降りると、兵に連れられて左馬助と二人、足軽長屋へと向かった。
兵の説明では近習たちにはここで着替えさせるよう信長からの命が出ているという。
信長自身も御殿で着替えをしているようだ。
足軽長屋は階段を上がった所にあった。
遠くからでもそこからは明らかにモワッとした臭いが漂ってくる。
近づくと、板壁と板葺きの粗末な足軽長屋の板戸は思いっきり明け放たれており、鼻を突く酸っぱい臭いは文字通り酸鼻を極める。
「まずは水浴びじゃ、水浴びじゃ!」
左馬助はそう言うと、井戸に向かって走り出す。
そして釣瓶を下ろして桶で汲み上げると頭から水をかぶった。
「何しとるがや、お主もはようー水をかぶらんでよぉー!」
もういっぱい、頭から水をかぶりながら、左馬助が呼ぶ。
俺は固まった関節のためペンギン歩きで井戸まで近づくと、左馬助が汲んでくれた水を頭から浴びた。
「い、いたいーーー!!」
俺は飛び上がった。
鼻緒で擦れた親指の又が水で染み、焼けるように痛い。
靴下を脱ぐと、そこは皮がベロリとむけ上がり、真っ赤な生傷が姿を見せていた。
「なんやおまん、かような傷で飛び上がったがかえ?」
左馬助が怪訝な顔で聞いてくる。
俺は痛みに耐えながらもどうしたものかと考えていた。
「任せておくでよぉーこげな傷、灰や紫根草を塗り込めば一発だわ!」
そういって取りに走る左馬助を慌てて全力で止める。
それは戦国スタンダードであっても現代スタンダードではない。
俺は痛みに怯えながらももう一度水を頭から浴びると、近くの陣中酒の酒樽から柄杓で酒を汲むと、思い切って痛い所にぶちまけた。
うぅがぁーーーーー!!
ぐぬぅ………!、くそっ、いてぇ………!!
もちろん清酒ではなく濁り酒のためアルコール度数は足りないが、灰や紫根草の粉末よりはマシだろう。
後は………。
俺はTシャツを脱ぐと、裏地の背中部分の一番汚れが少ない所を引き裂いて、細い布にする。
そしてそれを親指の又と踵で縛り上げる。
うぐぐぐ…………。
足から脳天を貫くような激痛が走る。
「おまん、変わったやり方だわぁー」
左馬助が呆れたように俺を見る。
「まぁ、これで処置は終わっただに、脱いで新しい召し物に着替えると致そうがや」
そういうと左馬助は足軽長屋へと入って行った。
俺もその後から長屋へと入る。
俺たちの後からも次々と泥だらけの近習が曲輪内に入っては水浴びをした。
「おまんの分も、そこにあるでよ」
見ると左馬助は早くも素っ裸になると新しい下帯を締め直していた。
それを見ていて、俺は途方に暮れた。
今の今まで俺はトランクス以外は履いた事がない………。
「はよせんと、次から次へとやって来るでよぉ」
急かす左馬助。
………仕方ない。
とりあえず、ジャージとトランクスを脱いで………。
「おまん、変なもん着よるの?これは南蛮拵えかえ?」
「じ、実は下帯なるものは、着けた事がござらぬゆえ、ご指導願いたく………」
俺は真っ赤になりながら左馬助に聞いた。
俺の言葉に左馬助は笑いながらも教えてくれた。
まず、布をお尻にあてる。
幅の広い布の部分をお尻側に当て、上についている紐を腰に回して前で結ぶ。
お腹の前で紐をギュッと結び、腰回りをしっかり固定する。
そして 股に通して持ち上げる。
お尻側から下に垂れていた布を、そのまま股の間を通して前にグッと持ってくる、それを前で挟み込んで完了。
後は前に持ってきた布の端を、お腹に巻いた紐の上から下にグッとくぐらせるか、内側から外側へ折り返すようにして挟み込む。
これで動いても簡単にはほどけない仕組みの完成だ。
後は小袖を着て野袴を穿き、足袋を履けば着替えの完了。
だが、全部初めて着る物、そう簡単に行くわけがない。
結局、左馬助にあれこれ手伝ってもらってやっと終わった時はそのまま座り込んでいた。
「おまん、もうこれは要らんがや?」
左馬助が俺のトランクスとジャージと靴下を摘んで、汚れ物の古い下帯や泥まみれの小袖の上に積もうとしている。
「ま、待ってくれ!それは要る!絶対要る!」
俺はそう叫んで左馬助からジャージとトランクスと靴下を取り返した。
「要るもんなら、平包みに入れて持っとかんとあかんがやー」
そういうと左馬助は近くにあった荷造り用の麻布を取って、俺からジャージとトランクスと靴下を取り上げると器用に包み込んだ。
「ほな、上様の元に参ろうがや」
俺は頷くと平包みを麻紐で縛って肩にかけ、左馬助に続いて足軽長屋を出た。
瀬田城の主殿は入母屋造に唐破風の車寄せ檜皮葺の屋根と簡素だが立派な佇まいで、普段は閉められている明かり障子は全て明け放たれていた。
着替え終わった近習たちは信長のいる上段の間には入らず、広縁や控えの間で待機している。
俺と左馬助も近習たちの後ろに座ったが、俺はどうにも関節が強張って正座が出来ず、やむなく片膝を立てて座る事にした。
その時、国持ち地抜き木瓜の旗印を差した使番が、泥だらけの体で庭に駆け込んで平伏し、叫んだ。
「申し上げます!わが殿山岡美作、秋田城介様と合流致し、膳所から瀬田に向かっております。あと半刻ほどで瀬田城に到着遊ばされます!」
おおーー!!
その話を聞いた近習たちからどよめきが起きた。
「勘九郎は無事なりや?」
信長の鋭い声が飛ぶ。
「ははっ、惟任日向守が物見と相まみえ申したれども、危難を脱し、恙無く御座りまする!」
その瞬間、近習たちが居並ぶ座がさらに大きな歓声が上がった。
信忠も無事だ………よかった。
「相分かった、その方直ちに立ち返り、勘九郎が橋を渡った後、速やかに瀬田唐橋を落とすように美作に伝えい!」
「ははーっ」
使番が庭先から走り去っていく。
「よし、勘九郎が戻りし後、我等は急ぎ安土に引き返す!その方ども、それまで交代で休みおけ!」
「はっ!」
安土………いよいよ、あの城が見れる!
欄干付きの黄金の最上階!
その下の法隆寺夢殿を模した朱塗りの八角堂!
今は無きあの本丸天守が見れる!
俺は足の痛みも忘れ、胸が躍った。
瀬田城についてはかなり資料を調べたのですが曲輪については資料がなく、想像で描きましたことをお詫び致します。




