黎明
本作はカクヨムにて総PV30万回、★2,000超えを記録した戦記のマルチ投稿作品です。
※カクヨム側の公開スケジュール(月水金更新)と歩調を合わせ、本作も【全45話・11月中旬の完全完結】に向けて、予約投稿にて一歩ずつ大切に配信してまいります。どうぞ安心してお楽しみください。
(本文のブラッシュアップにAIを一部利用して格調高く仕上げております)
翌朝目を覚ました時、俺はここが一瞬何処か分からなかった。
板張りの天井に白漆喰の壁。
周りには布団が並べられ、同じ様に寝入っている近習の姿も見えるが左馬助はいない。
敷布団は上質な麻の敷物が使われており、戦国時代を感じさせない。
袖がついたふかふかの夜着が布団代わりに小袖の上から掛けられ、頭の下には木製の硬い木の枕と思しきものがあった。
俺は上半身を起こしたが、途端に頭と腰に痛みを感じた。
やっぱり80キロのこの身体には畳ではなくベッドが必要のようだ。
それに木の枕も地味に頭に痛い。
部屋の柔らかな抱き枕が恋いしかった。
そこはどうやら近習の寝所のようだ。
障子越しに入って来る光は明るく、反射的に俺が腕時計を確かめると6月3日朝の7時過ぎだった。
立ち上がろうとしたら足が筋肉痛で固まってもつれた。
ここがどこかは分からないが安土城の何処かだということは確かだ。
昨夜の記憶を遡ると戸板に載せられ天守の下で降ろされた所までしか記憶がない。
こりゃとりあえず左馬助だなと思い、筋肉痛で痛む足を堪えて立ち上がり、障子を開けようとしたら向こうから開けられた。
俺はバランスを崩してたたらを踏んで前にダイブ。
転んだ………と思ったら受け止めてくれた人がいた。
「おいおい、なにしちゅうがや?危なかろうがや」
この声は聞かなくても分かる、左馬助だ。
「昨日は一体どうなったんだ?」
聞いてから気づいた………現代語だ。
「あー、あれからの、上様の御目見えがあったんだに、されどお主が気持よう寝とるもんでよぉー、日延と相成ったんだわ」
どの辺りかは分からないが大意は通じたらしい。
「さ、されば御目見えに参上致さねば!」
俺が焦って早口でいうと、左馬助は目を白黒させながらも、
「まだ卯の正刻だに、早かろうがや。それよかお主も身支度致すだわ」
そういって木の棒の様なのを一本手渡した。
そういえば左馬助も同じ様なのを口に突っ込んでいる。
これは?と俺が聞き返す前に左馬助が説明した。
どうやら今でいう歯ブラシらしい。
歯磨き粉は塩オンリー。
少なくとも近習はそう。
その塩を楊枝という歯ブラシにつけて歯を磨く………というより擦る。
近習部屋に毎朝下働きの人が水桶を置く。
それを使って口を漱ぐ。
口中の水は部屋の外にそのまま吐き捨てる。
ハイジーンも真っ青だ。
「ほな、朝餉に行こか、あぁその楊枝はお主にやるだに、あんじょう持っとくでよぉー」
俺は楊枝を小袖の帯に挟むと、固まった足を引きずって左馬助の後からまたペンギン歩きて付いて行った。
◆◇◆
同時刻:備中高松城攻め秀吉陣中
「話にならぬ仕儀だで!」
秀吉は官兵衛が取次いだ安国寺恵瓊の和平提案を一喝した。
「兵を退く以上は備中・備後・美作・出雲・伯耆の五国割譲は当然でみゃーか!高松城の兵の命は保証すると言うとろうが!されど城主清水長左衛門の切腹だけは譲れぬでや!もはや恵瓊とは語らうにあらず!このまま高松を攻め落とすだわ!」
秀吉はそう叫ぶと軍配で大机の絵図面を叩いた。
そう、まだ妥協には早い。
秀吉は思った………もうすぐ上様が来る。
それまでにじわりじわりと交渉していけばいいのだと………。
◆◇◆
同時刻:越中魚津
天を焦がす煙が城の彼方此方から上がっていた。
城に翻る白地に黒の毘の字の旗印も煙っているように思える。
敵が射撃すると、その十倍の味方が応射する。
辺りは硝煙の白煙に包まれツンとした火薬の臭いが本陣まで漂ってくる。
本丸以外は全て落ちた。
後は時間の問題だ。
「懸かれ!懸かれ!今日中に魚津の城を押し潰し、こん月には越後攻めじゃー!」
檄に答える将兵の声が風と共に髭を揺らす。
男は満足そうにほほえんだ。
◆◇◆
羽柴筑前守秀吉、柴田修理亮勝家。
歴史の歯車が狂い始めている事を、まだこの二人は知らない………。
◆◇◆
同時刻:安土
天守にある別の近習の間で、俺は朝餉の最中だった。
その朝餉は一人に一膳用意されており今朝の献立は…
主食は七分搗きの山盛りの丼飯に瓜と茄子の白味噌っぽい汁物。
主菜は鮎の塩焼きに小鯖の干物。
副菜は酢の物として鮒のなますと甘辛い味噌のかかった生麩の串焼き。
それに大根や青菜の香の物。
さすがに鮒のなますは口を付けただけで残したが、他は美味しく頂いた。
いつもファストフードや冷凍物ばかりの俺にとっては、久しぶりのスローフードだ。
その時障子が開かれて、誰かが俺を呼んでいるのが聞こえた。
「新一郎はどこにいる、新一郎はどこにおられる?!」
「某はここぞ!」
座りながら大きな声で叫ぶと、俺を探していた近習の一人が顔を出した。
「おお、ここに御座ったか、上様のお召しじゃ、付いて参れ」
信長が?何の用だ?まさか用済みだから斬首されたり………はないよな?
俺はドキドキしながらも立ち上がると、呼びに来た近習の後ろについて、痛む足を引きずりながらまたペンギン歩きで歩き出した。




